第二章 7
「え?どうかしたの?」
一人驚いていると前に座る村井が言った。
「あ、あそこに、神谷と風島が」
「え?あ、ほんとだ」
店内のカップルに紛れてまさかあの二人がいるとは思いもしなかった。向こうはこっちに気づいていない様子だ。村井はじーっと二人を見つめている。
「ほんと、お似合いだな…あ、ごめん」
「いいよ、別に。お似合いなのは事実だし」
そう、事実。羨ましそうに二人を見る。あんな楽しそうに神谷は笑うんだ。また違う笑顔。本当に好きなんだ。段々虚しくなっていき視線を逸らす。
「お待たせしました。フワフワかまど焼きパンケーキです」
「あ、ありがとうございます」
目の前に現れたフワッフワなパンケーキはその場を和ませた。雲みたいだ。美味しそう
「西鷹君のも来たよ。うわぁ、美味しそう」
村井は目を輝かせている。冷めないうちに食べようと思い、目の前にあるパンケーキを無言で口に入れる。美味しい、美味しいけれど、視界に入る二人が気になって集中できなかった。
「大丈夫?どうかした?」
村井が何度か心配そうに話しかけてくれたり、話題を出してくれたりもしたがどうにも気分が上がらなかった。
「今日はありがとう、付き合ってくれて」
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」
外は冷たい風が吹いている。帰り道、近くを小学生が通った。ポニーテールの女の子とジャージを着た男の子。
「寒いね」
「手温めてあげようか?」
ああ、そんな会話をしたな。それで二人で手を繋いで帰ったりした。懐かしい。あの頃の自分はこんな未来が待っているだなんて考えもしなかっただろうに。親にも恵まれ友達もいて、楽しかったな。
『ただいまー!』
『おかえり、透夜。今日の夜ご飯は唐揚げよ』
『ほんと!やった!』
『お、お父さんの好物じゃないか』
みんなで笑い合って、たわいもない話をして、騒がしかった頃の家はもうない。まじめに面と向かって話したのはいつのことだろう。
ピーンポーン
インターホンの音が響く。誰だろう。
「やっほ、透夜君」
そこには私ジャージ姿の神谷が立っていた。少し不服そうな顔を浮かべている。
「何のよう?」
「少し話したくてさ、最近全然話しかけてくれないから」
それは風島に言われて、だなんて言えない。それに、話しかけたくても風島と付き合っているのだから気安く話しかけられないじゃないか。
「だって神谷、風島と付き合ってるじゃないか」
「え?あ、まあね」
怒り口調で言う。どうして怒ってるんだろう。神谷が誰と付き合おうが勝手じゃないか。
「…ごめんね」
違う。どうして謝るの。謝ってほしかったわけじゃないんだ。君が謝る必要はない。自分が結局何をしたいのか、何を言いたいのかわからない。なんで僕は怒っているんだろう。
「ごめん、カッとなっちゃって」
「ううん。大丈夫だよ」
今自分が何をしたいのか、よく考えろ。
「あのさ、僕も神谷に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
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