第二章 5

『大切な人が死にました。彼は自殺なんかするはずない。それなのに…』


『お辛いですね。お気の毒です…』


『もしかしたら彼には誰にも言えない悩みがあったのかもしれない。それなのに俺は気づけなかった。そんな奴を友達と呼ぶだろうか…』


『自分を責めないで。誰だって誰にも言えない秘密は一つや二つあります。その彼はきっとあなたに心配をかけたくなかったんですよ。彼なりの優しさではないでしょうか。あなたも本当に優しい人ですね、友達思いで。彼もあなたみたいな友達ができてきっと嬉しかったと思います』


『…ありがとうございます…』


『いえいえ。何かまた相談があれば来てください。なんでも聞きますよ』


『はい…』


 それからは毎日のようにメールが来た。繰り返すうちに彼は私に依存するようになる。人間は単純だ。人は自分の気持ちを理解してくれる人、自分の心が傷ついた時に癒してくれる存在に好意を抱く。自分がその時に欲しい言葉をくれる人。それが分かれば簡単。


『彼のために俺ができることは…何かないですか…。なんでもします』


『彼はきっと天国で寂しがっていますよ。彼を慰めにいってあげるのはどうですか』


『それは、いいかもしれません』


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「どう?失望した?」


 言葉が出てこない。分かってたんだ。神谷がしていることはこういうことだって。だけどいざ目の前に立ちはだかるとこれは本当にいいことなのか、分からなくなった。


「透夜君にはちゃんと知ってほしかったからここに連れてきた。これでも、私の味方でいてくれる?」


「…うん…」


 何が正解なのか何が間違いなのか。彼女はどうしてこうなってしまったのか。何か原因があるんじゃないか。けれど答えてはくれない。


「神谷、君は今幸せ?」


 そんな僕の問いに神谷は黙ってしまった。悲しそうに空を見上げながら。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「神谷さん、風島君と付き合うことになったって」


「まじ?まあお似合いだよね」


「美男美女カップルじゃん」


 クラスはその話で持ちきりだった。まさか本当に付き合うとは。神谷も風島のことが好きだったんだ。胸がチクリと痛む。少し期待していた自分がいる。幼馴染だから特別なだけでそれ以上でもそれ以下でもなかったんだ。浮かれていた。


「ほら、噂をすれば」


 ドアから楽しそうに喋りながら二人は入ってきた。みんなチラチラと気にしている。二人は周りを気にせず席に着いた。別に羨ましいだなんて思わない。風島に近づくな、と言われてから神谷とは学校で話していない。


 宮下がいなくなってからやっと神谷と普通に話せると思ったのに。


「西鷹君、おはよう」


 村井が挨拶をしにきてくれた。最近、村井がよく話しかけにきてくれる。今まで一人だったから少し嬉しい。


「おはよう」


「聞いた?二人付き合ったって」


「うん。お似合いだよね」


「…そうだね。…あのさ、今日放課後空いてる?」


 授業の終わりのチャイムと共に急いで昇降口に向かうと村井が待っていた。


「ごめん、待たせた」


「いいよ全然。私も今きたとこだし。行こっか」


 神谷以外と二人で出かけるだなんて思いもしなかった。神谷の時は緊張しなかったけれど村井といると緊張する。慣れないからだろうか。


「ごめんね、急にお願いして」


「ううん。どうせ暇だったし」


「西鷹君って愛とどういう関係なの?」


「愛?」


ああ、神谷のことか。下の名前を聞くことなんて滅多になかったから誰か分からなかった。


「小学生の頃一緒だった、幼馴染てきな?」


「そうだったんだ。てっきり付き合ってるのかと」


「そんなわけないよ……神谷に俺は釣り合わないし。風島との方がお似合いだ」


後ろめたく言う。神谷みたいな人気者と幼馴染だなんて、それだけでも幸せみたいなものなのだから。


「それじゃあ西鷹君は愛のこと好きなの?」


「え…?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る