第二章 4
「大丈夫?透夜君」
ソファーの上でボーッと天井の電気を見つめていると横でiPadをいじっていた神谷が言った。
風島と話した次の日の遊びはどうも気分がのらなかった。
神谷に話しかけたくても風島の言葉が引っかかり話しかけられずにいた。しかし村井と仲良くなることができた。彼女は外見はあまり喋らない女の子かと思ったけれど、話してみると面白かった。
風島が神谷を連れて二人だけで回りたいと言い出した時、二人になって気まずかったが村井が楽しませてくれたおかげで気まずくならなかった。
神谷以外にあそこまで喋れる人はいないだろう。学校でも少しずつ話すようになった。神谷とは相変わらず距離をとっていたけれど。あれから二週間後の今日、神谷に呼ばれて家を訪ねてきた。風島に見つかったらなんて言われるか不安だったけれど大丈夫だろうと思い、来た。
「ごめん、考え事してた」
「そう…ちょっと透夜君に見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの?」
「うん。私の努力の証を」
連れられてきたのは最寄駅から電車に乗って五駅先の駅。人通りが多く高いビルがたくさん建っている。顔を見上げキョロキョロしていると神谷に「着いてきて」と言われ歩き出した。
途中何人かが神谷を見ては見惚れていた。神谷は気づいていない様子だ。
「帰りは電車乗れないからバスで帰ろうね」
神谷が振り向きながら言った。
「どうして?」
僕の問いに神谷はニコッと微笑んでから唇に人差し指を当てた。内緒ってことか。まあいっか。
数分人混みの中歩いて着いたのは商店街。美味しそうな匂いが鼻にツンとくる。
「お腹すいたでしょう?何か食べようよ」
神谷は僕の手を引っ張っていった。その時の彼女は無邪気な女の子だった。
「美味しい、来て良かった」
ご飯をたらふく食べてベンチで休んでいる。さっき神谷が言っていた努力の証、ってなんだろう。疑問に思うもら神谷にもなんかしら考えがあるはず。口に出さず心の中で留めておいた。
「そろそろかな。行こっか」
「え…うん」
また歩き出し、先ほどの駅に戻ってきた。駅には入らず向かったのは線路の上を跨ぐ跨道橋だった。上には登らず下で止まった。
「ほら、見て」
神谷が指を指したのは跨道橋に立つ一人の男の子。あの子がなんだろう、と考えてみるとあれはクラスメイトで僕を虐めていた赤田だった。
「な、なにをしようとしているんだ?」
「まあ見てて」
『まもなく…番線に…』
電車が来る音がする。嫌な予感がよぎった。その瞬間走り出す。急いで階段を登り向かう。もうそこまで電車が来ている。
「ダメだ…!」
僕の叫びも虚しく消え、赤田は僕の前から消えた。鈍い音と電車の音、誰かの悲鳴が混ざり合って耳に響いてくる。耳が痛い。過呼吸になる。冷や汗が止まらない。下を、覗きたくない。
「透夜君、大丈夫?」
神谷は平然と立っている。どうしてそんな平気な顔して立てるの。目の前で人が…死んだのに。
「これが透夜君に見せたかったもの。どう?失望した?」
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