第二章 3

宮下が居なくなってからは学校生活は静かになった。宮下とつるんでイキっていた数人の男子はあっという間に大人しくなった。


あいつらは宮下がいなきゃ何にもできない、弱い奴らだったんだ。


「透夜君、ご飯食べに行こう」


一つ変わったことは学校で神谷とよく話すようになった。みんな最初は驚いていた。


そりゃあクラスでの人気者がクラスのど陰キャに話しかけているのだから。


どうせ同情で仲良くしてくれてるんだ、と解釈していたけれど。


「神谷さん!今日の放課後カラオケ行かない?」


「いいの?!行く行く!」


神谷は友達によく遊びに誘われていた。ちらっと神谷の笑顔を見つめる。あんな笑顔をされたら誰だって殺人鬼だなんて思いもしないだろうに。


違う、神谷は殺人鬼じゃない。ただ人を助けようとしているだけ。


「にした…」


誰かが僕の名前を言った。聞き間違えだろうか。そのまま無視して本を読む。僕なんかを呼ぶ人はいないはずだ。


「西鷹!」


あまりにも大きな声にビクッとなる。横を見ると会長の風島がいた。


「な、なに?」


「今日みんなでカラオケ行くんだけど、君も来ないかい?」


予想外の遊びの誘いに一瞬戸惑うも、僕なんかが行ったら雰囲気をぶち壊すだろうと思い断った。どうせ誰も僕が行くことに賛成じゃないし。


「……そうか」


風島はそれ以降何も言わず自席へと戻って行った。心から来てほしいと思っていなかったんだろうな。


「透夜君、カラオケ行かないの?」


次は神谷がやってきた。


「うん。僕が行ってもつまらないだろうから」


「そんなことないよ。私は透夜君がいてくれた方が嬉しい!」


そんなこと言ってくれるなんて嬉しい。けれど行こうという気持ちにはなれない。


「ごめん。用事があるから」


「そっか…じゃあまた今度遊ぼうね」


「うん…」


そんな僕らの会話を誰かが冷たい視線をおくっているのを僕は気づいていた。




「これ以上神谷に近づかないでくれ」


空はどんよりとした真っ黒な雲が浮かんでいて大雨が降っている。水溜まりがあちこちにできていて小学生がバシャバシャと遊んでいる。


跳ね返ってきた水を拭き取りながら前を歩く男の後を追う。色々と面倒なことになってしまった。


遡ること2日前、僕はまた神谷に誘われて風島、神谷、僕、村井と一緒に遊びに行くことになった。村井とは神谷が一番仲良くしている女子である。


最初は断ったものの、神谷の上目遣いに負け行くことになった。行く日の前日に僕は風島に呼ばれた。そして大雨の中、雨の音にも負けない声で放たれた言葉。


「俺、神谷のこと好きだから」


急な発言にピタッと思考が停止する。なんとなく心の奥底で気づいていた。クラスでの二人を見ていて分かる。


「お前はどうなの?」


風島の問いかけに言葉が詰まる。どうって、好き、なのかな。よく分からない。昔は好きだった。それに間違いはない。


けれど今は好きなのかがわからない。神谷と一緒にいる理由は青い雛菊について話したりしているから。


それ以外に理由は…


「好き…じゃないよ」


「そうか。それならこれ以上神谷に近づくな」


「え…?」

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