第55話 pastel blue-2

「・・・・・・ね、もっかいしよ」


汗がまだ引いていない首筋に唇を寄せて囁けば、智咲がくすぐったそうに身を捩った。


明日は休みだし、予定は空白のまま。


どれだけ朝寝坊したってかまわないのだから、一度で終わりにするのは惜しくて返事を待たすに枕元に手を伸ばせば。


「ちょ・・・っと・・・待って・・・」


掠れた声で返事をした智咲が、弱い力で理汰の手を押さえて来た。


「ん、待つけど、するよ。しんどい?」


額にキスを落として、ひとまず二個目に手を伸ばすのは一先ずやめにする。


背中に腕を回して抱き寄せれば、まだ息が上がったままの彼女が赤い頬で肩に凭れて来た。


「理汰・・・」


「ん?」


「あんた出張帰りよね・・・?丸二日あちこち動き回ってたんだよね?」


「そうだけど?」


「なんで疲れてないの・・・」


「いや、疲れてるよ。疲れてるからしたいんだけど」


疲労と性欲が比例していることを説明するべきかどうか迷っていたら、先に智咲が口を開いた。


「まじで意味わかんないわ・・・」


「だって行く前もしてないし」


「週末はしたでしょ」


「俺たち新婚だよ?週に三日って少なくない?」


「多い少ないあんのそれ・・・」


他所は他所、うちはうち、と言い放った智咲が今日はもう腰痛いから無理、とぼやいた。


腰が痛くないような体位でしたつもりなのに。


「イくの我慢するから腰疲れるんじゃない?」


素直に身を委ねてくれたらずっと気持ちいい場所を揺蕩わせてあげるのに。


「・・・・・・は・・・?だ、って・・・なんかもう勝手にそうなるっていうか・・・」


困惑顔の智咲は、自分の身体をどうすることもできないようだった。


結婚する前もそうだったけれど、結婚してからこちら、彼女の思考をどうやったら根こそぎ奪えるのかをずっと考え続けている。


相性は悪くない、いや、むしろいい方だと思う。


智咲の身体は心地よいし、腕にほどよく収まる感じがたまらない。


本人は凹凸が少ないとぼやくけれど、この身体はどこもかしこも智咲らしい感じがする。


入庁当初から体型が変わっていないと永子も話していた。


太りにくい体質なのかもしれない。


結構飲んで食べるはずなのに、その栄養素はどこに消えているんだろう。


最近は、こうして抱き合うことで体力を使わせている自覚があるのだけれど。


「じゃあさあ、いっぱいイく練習する?」


智咲に触れていると心地よいし、最後まで出来なくてもいいよ、と提案すれば。


「・・・・・・疲れるからヤだ・・・・・・ねぇ、もう今日は寝よ・・・明日、明日しよ」


飲み会の解散みたいな発言が返って来た。


むうっと眉根を寄せながら、まだ赤い頬にキスを一つ。


「・・・・・・明日って・・・朝していいの?」


色んな期待を抱きながら智咲の返事を待つこと数秒。


「んー・・・起きれたらね・・・」


あっさり頷いた智咲が、さっき理汰がベッドの端に放り投げたキャミソールを手繰り寄せた。


いそいそとそれを着こむ彼女を手伝いながら、もう一度問いかける。


「・・・朝起きたらほんとにするよ?」


言質はしっかり取っておかなくては。


夜より朝のほうがいろいろヤバいのだけれど、たぶん智咲はその辺りのことを何も考えていない。


これまで抱き合うのは決まって夜、それも薄暗いベッドルームでのみだったことを、彼女は忘れてしまっているようだ。


「んー・・・いいよ、朝ね、朝」


「・・・・・・やっぱやめた、はなしね」


「・・・・・・うん」


しっかり頷いたのを見届けて、それなら今夜は寝かせてやろうと、深い呼吸に切り替えて自分を落ち着かせる。


理汰のほうは当分眠れないだろうが、駄目なら智咲が眠った後で自分でどうにかすればいい。


どうせ朝にはご褒美が待っているのだ。


数時間の辛抱である。


「・・・昨日もあっち行ってたの?」


優しく髪を撫でて静かに問いかければ、コロンとうつぶせになった智咲がこちらを向いてくれた。


「永子さんが呼んでくれるから、ついねぇ」


「面倒だったら断ってもいいよ?」


義理の母親になったからと、いつもいつも無理して付き合う必要は無い。


「面倒じゃないし・・・・・・ってか、理汰ぁ、私、あんたとの付き合いより、永子さんとの付き合いのほうが長いんだからね」


それを言われると痛い。


智咲の入庁当初からずっと間近で見守って来たのは、他ならぬ自分の母親なのだ。


理汰が見てこられたのは、羽柴家で見せる智咲の表情のみだった。


「知ってるから、言わなくていいよ」


けれど、これからは違う。


ゆくゆくは母親と過ごして来た時間以上の時間を貰うつもりなので。


「ほんとに・・・よくして貰ってるのよ・・・私・・・・・・あんたと結婚してよかったわ」


「俺じゃなくて母さん見て言うのやめてよ」


「・・・・・・だって永子さんが居たから、理汰がいるわけだし・・・・・・」


「・・・・・・ねえ、俺夫として及第点貰えてるの?」


半分は嫉妬心からそんな問いかけをしたのだが。


「・・・え?百点に決まってんでしょ」


当たり前のように答えた智咲が、いい旦那貰ったわぁ、と微笑む。


「・・・・・・ねえ、もう寝る?」


やっぱりおやすみは言いたくないな、と彼女を抱き寄せたら、すうっと穏やかな寝息が聞こえて来た。

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絶恋カタルシス~アラフォー女子の恋心を起こす方法~ 宇月朋花 @tomokauduki

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