第3話

時計をみると開演二十分前になっていた。


僕はプレゼントを持ち、食べ終わった器をカウンターまで持っていった。


鍋子も後からついてきて器を片付けた。


このまま一人で走り去りたい衝動が急に僕のなかを駆け巡った。


きっと、そんなことをしても鍋子は平然としているのだろうと思うと悔しくなった。


何とかして面の皮をはがしてやりたい。




鍋子の機嫌を悪くしようと僕は考えを巡らせた。


プレゼントを目の前で捨てるというのはどうだろうと思ったが、離婚にまで発展


しかねないとやるのを辞めた。


代わりに僕はプレゼントを落として、鍋子にみせつけた。


鍋子は怒る様子もなく、それを見て不気味な微笑を浮かべるだけだった。




その顔に一瞬で頭に血が上り、落としたプレゼントを踏みつぶした。


包み紙が破れ、中からぬいぐるみが姿をあらわした。


豚は虚空をみつめていた。


鍋子は豚をゆっくり拾い上げて、抱きしめた。


そして焦点が合わない視線を僕に送ってきた。


それを無視して映画館へと足を向けた。


背後から鍋子がついてくる気配はない。


僕の心は鬼になっていた。


不安すら感じないから。

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哀しみの構造の家 @mikado2019

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