第5話 フィアンセ
高校生活が始まって数日。
俺は青春を送ると決意したにも関わらず、友人という友人はできていない。高校で初めて会って一番仲が良いのは、隣の席の長月さん。
……まあ、まだ焦るような時期ではない。
そう思い、俺は普段通り由佳と登校したのだが。
「なにこの空気」
俺たちが教室に入った途端、ピキッと氷にヒビが入ったような音が聞こえてきた。
これは幻聴。
みんな静まり返って、ジッと俺たちのことを見てきてる。
「ねえ。もしかしてたかちゃんなんかやったの?」
「いやいや。由佳でしょ?」
「違うよ。たかちゃんと違って、私がなにかしたみんながこんな空気になることないもん」
「た、たしかに」
そんなやり取りを周りに聞こえないように小声でしていた俺たちの前に、一人の女子がやってきた。
ピンク色の長髪。キッと睨んでいるように吊り上がった目。
この人は……学級委員に入った、このクラスのリーダー的存在の人。頼れる人として由佳と違う意味でクラスで人気な人が、一体何の用だ?
「ようやく来たね」
表情を一切変えず、喋りかけてきた。
「えっと、どうしたのかな? たかちゃんがなにか悪いことしたなら、ちゃんと反省させるよ?」
「たかちゃん? ああ。あなたのフィアンセのことね」
「え?」
「うん。そうだよ」
「って、おい。なに当たり前みたいな顔してフィアンセって呼ばれてるの肯定してんだよ。俺たちは幼馴染だからな?」
「たかちゃん。全部言わなくても言いたいことはわかる」
「今言ったが?」
「私たちの関係がフィアンセなんかじゃないってことくらい、ここ数日同じ空間で高校生活を送ってきた人たちならわかってくれるよ! 大丈夫。心配しないで!」
俺の手を握り、悲劇のヒロインのような顔で訴えかけてくる由佳。
なに言ってんのか意味分かんないんだけど。
「おう。俺ら、お前たちのこと勘違いしてたぜ。だからよぉ〜……許してくれ! 今日からはそういうことだって踏まえて接する!」
カラオケで知らない歌を熱唱していた男が、涙ぐんだ声を発して頭を下げてきた。
なんでこんなことになってるのかよくわからない。
でも、ここで俺が言葉を間違えたら高校生として送る青春がなくなるってことはわかる。
慎重に少しずついこう。
「あのさ。ちなみに聞きたいんだけど、勘違いしてたって具体的にどんなこと勘違いしてたの?」
「え。あ、あれだあれ。お前らの……関係ってやつ」
妙に目を泳がせてるな……。
なんか怪しい。
もっと深いところまで質問するか。
「関係を勘違いしてたってことは、勘違いだってわかった瞬間があったんだよね? それって何時何分頃だった? 多分、印象的だったから覚えてると思うんだけど」
「…………俺の負けだ」
両手を上げ、男は由佳に顔を向けた。
「よぉ〜しっ。じゃ、あの約束ちゃんと守ってね」
「おう。任せろ」
二人の会話の後、教室は普段通りの空気に戻った。
……が。
なんの勝負してたんだろ?
気になって気になって仕方なくなり、俺は女子のグループで喋ってる由佳のもとに行った。
「あっ由佳ちゃんのフィアンセくんだぁ〜」
「フィアンセ……。それは婚約者、許嫁のことを指す。高校生でフィアンセと呼ばれるのは全部で3通りあり……」
「やだやだやだやだ。フィアンセやだやだ。男やだやだやだ。男やだやだやだ」
直視できないほどキラキラしたオーラを放っている女子。
丸メガネをかけ、一生解説をしてる女子。
ボサボサの髪で顔を隠して、椅子の上で縮こまってる女子。
なんて言うか……うん。
由佳が喋る人たちって変わってるな。
「たかちゃんじゃん。どしたの?」
「あー……いや。さっき負けとかなんとか言ってたの、気になって聞きに来た」
「フィアンセくんも知らないことあるんだぁ〜」
「婚約者だとしてもプライバシーがあるかと。ちなみにプライバシーというのは……」
「やだやだやだ。プライバシーの侵害で訴える。訴える訴える訴える訴える」
「たかちゃんがなんて言うのかっていう、ちょっとした勝負だよ。勝った方は常識の範囲内ならなんでもお願いできるんだぁ〜」
周り3人のキャラが濃すぎて由佳の話が全く入ってこない。
……でも、ま、軽い感じで言ってるからあんま重大なことじゃなかったんだな。
「会話遮ってごめん。じゃ」
「うん。またね、私のフィアンセ」
「幼馴染な」
由佳までフィアンセだなんだ言ったら、収集がつかなくなるじゃないか。
全く。
正妻を気取るのならもっと余裕を持てばいいのに。
なんか高校生になってからの由佳、結構踏み込んだことしてくるな……。
なにかに焦ってる気がする。
―――――――――――――
妥協して書いた話なので内容変わるかもしれません
申し訳ないです
俺の青春が正妻気取りの幼馴染によって壊されてる件 でずな @Dezuna
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