選ぶ、よく考えて。

蒼鉛

選択肢1 「起床、二度寝」の選択

目が覚めた。

昨晩は友人と通話しながらアニメを見ていたからか、その余韻がまだ残っているようで、心の中に綺麗な何かがたまっている感覚がする。

名作だった、時間を空けてまた見よう。もちろん友人と一緒に。

そんなことを考えながらスマホで時間を確認する。

六時二十二分、大学生の自分にとっては非常に早起きである。高校時代は6時に起床しないとホームルームに間に合わないぐらいだったのに、人間とは数カ月でここまで生活リズムが変わるものなのかと感じる。


それはそうと、今日は土曜日。大学に行く用事も無ければ、アルバイトの予定もない休日である。

さて、今の自分には起きるか、二度寝するかの選択を迫られている。

時間はたっぷりとある、今からこのことについて考えるとしよう。

なお、この場合の起床は「布団から出て、完全に覚醒した状態になること」とする。

まずはここで起床した場合のことを考えてみよう。

おおよそ六時半、朝ごはんの時間としても良好であり、「健康的な朝を迎えた」という幸福感に包まれることだろう。

休日の過ごし方を朝食を食べながら思案するのもいい。行ってみたい場所にはいくつか候補があるから、そのまま支度して出掛ければ一日で複数の場所を時間をかけながら回ることも可能だろう。昼食は知らない店でとって、新たな発見をするのもいいかもしれない。

充実している。SNSに一言一句載せたら、嘘だと思われるようなそんな充実した一日になること間違いなしである。悪くない、むしろ最高だ。

じゃあ次に二度寝をした場合のことを考えてみよう。

今自分がいる布団には、自分の体温と同じ位のぬくもりが残っていて、非常に暖かい。

今日は晴れ、窓から見える空には青空が広がっている。しかし、現在の季節は冬。

部屋の温度は夏の朝体感温度の二分の一程度しかない。ここで布団のこのぬくもりを手放してしまうのはあまりにも惜しい。

そして二度寝の魔力というのは非常に大きいものだ。人間の三大欲求の一つは睡眠欲であるとよく言われるが、まさにその通りだと自分は思う。事実、この二択について考えている今も、軽い睡魔に襲われている状態であり、このまま眠りについてしまえば非常に気持ちいいことも過去の経験からわかっているため、先ほどの考えから生まれて来た起床する決意も揺らいでしまう。

ベッドの心地よい感触、枕の絶妙に頭にフィットした形状、予定のない休日。睡眠のありとあらゆる条件が自分仕様になっている今、眠ることで得られる幸福は計り知れない。それに、先ほど考えた起床した後に行うことは二度寝を行った後でもできるし、なんだったら別の休日にも行うことができる一方、この「二度寝」は通常の睡眠では味わうことができない特別な「睡眠による幸福感」を得ることができる。限定商品とロングセラー商品を目の前に出されて、限定商品のほうをとってしまうのと同じ心理がいま自分の中に働いているのである。


じっくりと考え、どちらにしようか悩むことおよそ二時間半、時刻は九時になろうとしていた。

結局考えているうちに脳が覚醒してしまい二度寝は出来ず、早起きとは言えない時間の起床になってしまった。

即決するというのもたまには大事なのだと、そう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

選ぶ、よく考えて。 蒼鉛 @bismuth083

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ