微睡みの中で

@kerokero9

夢の後

 見覚えのあるような無いような風景。そんな場所に私はいる。曖昧な覚えに違和感を感じながら、私は自分が誰なのかということに気づいた。

 色んな私がいた気がする。

 生まれてすぐに死んだ私。

 夢を叶えるために努力し続け、結果的に叶うことなく生涯を終えた私。

 独裁者となり国を支配し、反乱の渦に溺死した私。

 他にも沢山あった気がするがわかるのは、どれもクソみたいな人生だったということ。

 朧げかつ鮮明に返る記憶に不快感を示し、私は何もしたくなくなった。

 ふと目の前に誰かがいた。

 見たことのあるような、無いような顔だった。いや、輪郭が落書きのように崩れ、顔が黒いクレヨンで塗りつぶされているような顔に私は見覚えがないはずだ。

 しかしその顔は、私に安堵、信頼、不快、憎悪、ありとあらゆる物をもたらし、私は酷く混乱した。様々な相が私の中で渦巻き、激流となって心を乱す。

 思考のまとまらない中、その落書きは言った。


「3÷%:……:6・2*…€:43…5:64:3rrrrrrrrr」



 なんて、いった?


「・2……:÷54」4々3・¥・…×6|*¥4々llllll」


 …わからない。複数の声が混ざって一気に流れているように聞こえる。耳を澄ましても、言葉がはっきりと聞こえるわけではない。

 理解に苦しんでいる内に落書きは急に黙り込んだ。うんともすんとも言わない、ただの木偶の坊だ。

 こいつはなんなんだ?

 ふと感じた単純な疑問。それに応えるように、落書きの輪郭が歪みだし、バラバラになり、ほどけていく。そしてそこには…やはり知らない顔があった。

 私はその顔に腑が煮え繰り返るような憎悪を感じた。私自身、信じられないが次の瞬間、わたしはその顔を引き裂いた。

 落書きの顔は非常に脆く、少し指で触れて引っ掻くようにするだけでその顔はバラバラになる。そうするとまた新しい顔が出てきた。同じような感情が起こり、わたしは再び顔を引き裂く。その繰り返しをしているうちに、気づいた。わたしの腕が落書きのようになっていることに。

 ハッと我に帰り、落書きの顔をマジマジと見つめる。そこには…わたしの顔がある。

 私の顔をした落書きはわたしの顔に触れると…わたしを引き裂いた。

 

 

 そこで目が覚めた。

 あまりのショックに両腕で心の臓を抑える。

 夢にしてはあまりにもリアルな感覚、そして記憶。冷や汗の垂れる額を拭ったわたしの手は落書きではなかった。

 一体あの夢はなんだったのか。そう思いつつ窓の方を見る。

 窓の外は落書きの顔で埋め尽くされていた。

 

 

 

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