第35幕 希望とともに

時刻は13時40分。

お屋敷での公演に終演が近く。


庭園内の噴水の石段に立ち、リオンのバイオリン演奏とカリーナの歌声のデュオによる"星に願いを"は庭園に集まった観客たちを魅了する。

"When you wish upon a star ,makes no diff'rence who you are,anything your heart desires will come to you"

脱退して5年経つとは思えないほど、息の合ったバイオリン演奏と歌声。

この再会もウィルソンの家族思いの優しい心が、引き合わせてくれたもの。

ウィルソンとアリシアがキルトの街のホテルに泊まらなければ、カリーナがこうしてリザベートの街に来て、ショーに参加することもなかったのだから…。


ウィルソン、マリッサ、シエル、マイル、ライザはカリーナとリオンが演奏する隣で、ゆったりとした曲調に合わせ曲芸を披露する。

スティックリボンを舞わし、側転や逆立ち、ブレイクダンスを織り混ぜながらパフォーマンスをするシエルとマイル。

ウィルソンが6歳でサーカス団の門を叩いてから傍にいて支えてくれた2人のおがけで、こうして今まで続けて来られた。

大切な姉弟であり、良き理解者なのだ。

それはこれからも変わることはない。


マリッサの上に座るライザがバランスボールに立つウィルソンに3本のフラフープを投げる。

最初の2本はウィルソンが両腕を伸ばし頭の上に上げ、輪投げのようにフラフープをくぐる。

最後の1本は両腕を横に広げ、フラフープは首にネックレスのように掛かる。

バランスボールの上に立つことは非常難しく、体幹を鍛えなければ出来ることではないが、それは厳しくもずっとそばで稽古をつけてくれたゴードン団長のおがけである。


リーガルはアイラと一緒に2番テーブル席のお客様に向け、トランプのマジックを披露する。

観客たちは巧妙なテクニックで繰り出すリーガルのマジックに目を丸くして驚いている。


ライアンとキースは6、7、8番テーブルのお客様に向け、白フクロウのマットの紹介をする。

子供連れで来ていた7番テーブル席のお父さんが代表としてパフォーマンスに加わる。

お父さんは頭の上にリンゴを乗せる。

ライアンとキースは客席と5m程の距離を取り、三角形になるように立つ。

マットがキースの腕からお父さんの頭の上のリンゴ目掛け飛び立つ。

マットはリンゴを咥えライアンの位置に戻る。

「ぅわお!」とお父さんは叫び子供とお母さんに笑われる、微笑ましいひとときが流れる。


アリシアとマリーは3,4番テーブルのお客様にお菓子と紅茶のおかわりを提供するため、アリシアはフィナンシェの入ったバスケットを持ち、マリーは紅茶のティーポットの乗ったトレーを持ち移動する。

「ありがとう、紅茶もお菓子もとっても美味しいわ。ご馳走さま~」

「はい!ありがとうございます!」

アリシアはにこっと笑いお礼を言う。

お客様からの"美味しい"の声はとても嬉しい。

「楽しいですねアリシアさん」

「うん!とっても楽しい!これからこのお屋敷でこんな暮らしができるなんて素敵!」

「はい!私も楽しみです」

アリシアとマリーは顔を見合わせて笑った。


リズワルド楽団の全員参加で行われたリザベート公演は、たくさんの笑顔と拍手と喝采で大成功を収め、無事終了した。


_____________


時刻は16時20分。

2時間に及ぶ庭園での公演は無事終了し、

お客様も帰り、片付けの終わった庭園内は静まり返る。

屋敷の正門前にサーカス団の馬車2台が屋敷に背を向ける状態で駐車する。


話し合いの結果、リズワルド楽団の第二支部として活動をするメンバーが決定した。

これから第二支部に配属になるのは、

ウィルソン、アリシア、シエル、マイル、キース、白フクロウマット、リオン、雌象マリッサに決定した。

「じゃ、私たちもサンクパレスに戻って荷物まとめて、バスで戻ってくるからね」

「うん、また後でね」

シエルがウィルソンにこれからの行動について話す。

これからこの屋敷で生活をすることになるため、

数日分の必要となる荷物を、一度サンクパレスの宿舎に帰り持ってくることになる。


ウィルソン、アリシア、マリー、そしてカリーナが馬車で帰る仲間たちを正門前で見送る。

「ライアンもリーガルさんもライザさんも、いつでも待ってるからね!悲しい顔は無しだよっ!」

カリーナがサンクパレス本部に就くメンバーを励ます。

「おぅ、ありがとうカリーナ。カリーナも元気でな」

「久しぶりに一緒に公演ができて楽しかったよ、ありがとうカリーナちゃん」

リーガル、ライアンがカリーナの言葉に応える。

「私も楽しかった、ありがとう」

カリーナはアリシアの両手首を持ち、大きくアリシアの腕を振る。

ちなみにカリーナは屋敷に住むわけでは無い。

カリーナにはキルトに旦那さんが待つ家があり、シンクローズにも別荘がある。

この屋敷のお店がオープンしたら週1で通いに来るらしい…。


「ほらっ!団長から一言は」

シエルがネルソンの背中を押す。

「………」

ネルソンは無言でうつむく…。

「…く……、ウィルソン•ウィンターズ!」

メンバー一同静まり返る。


「…お前の作るお菓子…美味かった…。

…俺も…団長としてでっかくなるから!

お前のお店に負けないぐらい…、

立派なリズワルド本部にしてみせるから!

…お前には支えてくれる家族が付いている…、

それは離れていたって変わらない…、

そのことは…忘れんなよ…。

…お前のこれからの人生に……幸あれ…」


ネルソンとウィルソンの頬に涙が伝う…。

しかしこの涙は悲しい涙ではない…。

それはとても温かい…、

大切な家族の旅立ちを祝う、祝福と感謝の涙…。


「「がんばれ!ウィルソン•ウィンターズ!」」


…「ありがとう、みんな…」


_____________


屋敷の裏にある原っぱの、白樺の木が2本立つ間。

兄ダニエルのお墓の脇にリズの小さな骨壺と花束を置き、お墓の前に座るウィルソンの姿が。

シエルから預かった母親からの手紙を読んでいる。

"Dear 16歳のウィルソン へ

この手紙を読んでいるということは、

私はあなたに会えたということでしょう。

おかえりなさいウィルソン。

そして16歳の誕生日おめでとう。

あなたは今、どんな男の子になっていますか。

お友達はたくさん居ますか。

ガールフレンドはできましたか。

元気で暮らしているのであれば、

お母さんは幸せ者です。

私が16歳であなたを産んだ時から

16年も経ちますね。

離れて暮らしていてもあなたは

これからも私の宝物だよ。

大好きなウィルソン へ  母より "


母親の想いが綴られた誕生日を祝う手紙…。

母親の愛情が伝わっ―。

「お?読んでる読んでる」

「ぉわ!」

背後から声がしてビクッとした。

咄嗟にお尻の下に手紙を隠す。

「私が書いた手紙なんだから、

隠すことないでしょエッチぃ!」

母親のメリルがウィルソンの顔を覗き込む。

「にやにやしちゃってぇ…。

どうだったぁ?感動したぁ?泣けるでしょ?」

母親が息子をからかっている…。

「…ありがとうお母さん。大切にしまっておくよ」

「どういたしまして!アリシアちゃんがお屋敷で呼んでるわよ~」

「うん、わかった。行ってくる」

ウィルソンは立ち上がり、お尻の土を手で払う。

「それでね、ウィルソン」

「なぁに、お母さん」

「お店の名前はもう決まったの?」


「うん。お店の名前はね―」


―3か月後。


カランカラーンとドアは開きお客様が来店する。

「いらっしゃいませ-、"パイユ•ド•ピエロ"へようこそ~」

橙色のエプロンを纏ったアリシアとマリーが玄関でお客様を出迎える。

「2名様ご来店です」

シェフのウィルソンがリビング前で出迎える。

「いらっしゃいませ、ご予約のお客様ですね。

お席へご案内します」

天井にはシャンデリアが輝く。

リビングルームにはこの店自慢のアップルパイを求めて来店するお客様でテーブル席を埋めていく。

ここはサーカス団のピエロがシェフをする、

パイ専門店「パイユ•ド•ピエロ」。


「それではごゆっくり素敵なティータイムを…」


これからの未来への希望を胸に、

お客様に笑顔を届ける、サーカス団のピエロと小さな少女の出会いの物語。

この物語は2人の始まりのお話である。




第3章 終 ~After.story~ 第4章へ 続
























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

3つ星ピエロ 第3章 悠山 優 @keiponi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ