後編

 女声の持ち主への質問が本来の目的だった筈だが、この時の私は完全に当初の計画を忘却してしまって居た。速やかに階を登り切ってみると、中規模の建物が視界に出現してきた。三つの鳥居の劣化具合から察するに、ある程度は古い社だろうと思っていたが、入り口に当たる箇所――楼門ね――は極彩色で松やら梅やらの装飾と白い猪の絵画が施されている。そこで立ち止まって、楼門とやらの装飾を色々見てみた。掲げられている絵の中に、アルビノと思しき四脚獣が描かれているのを見た。西洋画の技法も混じっていて珍しい絵画だ。続いて得意げな声がする。

 ――それから、目の前に見えるのが拝殿、その奥に儀式するための空間の幣殿、神様の居る本殿は一番奥。基本的にはそんな感じで並んでるらしいよ。

 ……よく知ってるな。この手の施設の建築様式なんぞに関心を有しておらず、全く知らないから不図そう言った。半ば本来の目的を忘れていた為に、私の両脚は速やかに砂埃を被った社の敷居を跨いでしまった。ただの散策ではないと言う事を振り返った時、脳裏に響く甲高い女声はやや興奮していた。そうして奥に見えるのが社務所である事、その隣に会館がある事、境内の入口近くに植わっている若い常盤木は、数年前に折ったせいで歪になってしまった事、年上の知り合いが社務所の受付をしているらしい事、……その受付の娘が、何故か我が脳内のソプラノを無視している事、東の山での自殺者を減らす為に大凶を置かなくなった事を立続けに言ってきた。

 ……実際、昨日一昨日の御籤は何度引いても最低で末吉くらいしか出て来なかった。そうした理屈だったのか。我が心内に木霊する女声について、そこから翻って考えると、ソプラノが言及する情報は、現実に即して、それでいて、いささか詳し過ぎるような気がした。

 幽かに木霊する女声に対する疑問は一旦傍らに置くとして、問題は、結局指環についての説明を用意し損ねたまま、境内地に踏み入ってしまった事にある。賽銭を入れ、祈る間に適当な文言を準備しようか。いっその事、無策で話してみようか。そう考え、私は一度、社務所の方面を見遣った。――この時期なら、お母さまもそこにいるはず。――。御守などと言った、気休めになる物品が数多く並べられている空間の奥に、さっきソプラノが話していた「会館」があった。

 儀礼的な建造物と言うよりは、古く鄙びた木造の公民館を縮小させた佇まいで、所々修復された神社の装飾と緩やかに調和していた。よく観察すると、会館の入り口の横には掲示板があり、無論、情報の氾濫した紙面が貼り出されていた。祭典に関する広告、町の催しに関する周知、遭難した女児に関する情報を求める紙。……何度も見てきた貼り紙だ。それこそ、さっきの人混みの中でも散見された。だから、ここで見る掲示物にも真新しさは全く無かった。しかし、一つだけ気になる事があった。

 ――さっきから、ジロジロと何を見てるの?

 情報提供先の住所表記、その下部に市販のフエルトペンで波線が打たれて、強調されていた。

 ――ああ、だって、これは、ここの住所だもん。――ここに来た人が、この。――何だっけ、行方不明の、いなくなったのは。――あれ、この女の子。――あたし、あたしは。――この、この子、この子は――。

 そこで再び、幼げな女声は途切れてしまった。あまり美形とは言えない子供の写真を凝視したせいで衝撃でも受けたのか。……絶句の理屈は分からぬが都合が良い。上着から燐寸の輝きを放つ指環を取り出して観察しながら、私は指環の持ち主の親に会う為の口実を考えてみた。仮に会えなかったとしても、何らかの情報を得る事も出来るだろう。例えば、この安い装身具に興味を抱いてしまうような人物の性別や、精神年齢、性格、趣味、趣向、その他諸々、それを知るだけでも、脳裏に反響するソプラノを問い詰める材料になるだろう。

 数分が経過した後、私は、断崖で指環を拾った、行方不明になった女児と関連するのか分からないから、私の拾った指環を見て判断して欲しい、と言う旨を受付の黒髪の雀斑に伝えた。

 ――ちょっと、目立つけどさ、そんなこと思わないほうが良いんじゃないの。

 御守りに埋もれて受付をしていた、女声の知り合いと思しき黒髪もまた典型的な巫女ふじょ装束に身を包んでいる。雀斑は一瞬固まったように、こちらへ虚ろな眼を呈してきたが、すぐに生気を吹き返して、少々お待ち下さいと、実に御決まりの文句を放って、奥に引っ込んでしまった。雀斑は我が行為を質の悪い悪戯と思ってしまったかも知れない。

 ――き、気にし過ぎだよ。あの人が、ああ動くんだったら、ちゃんと大事おおごとだと思ってくれたってことだよ。……それはそれで不安だ、大事にされても困る。静かに事を進めた方が、遣りやすい。たどたどしくも復活した甲高い声の言う事に茶々を入れながら矢や絵馬を見るなりして、私は時間を潰した。

 暫くして、受付をしていた装束が戻って来たが、その後ろから、物々しい雰囲気を羽織った純白の直垂がやって来た。

 ――あっ。

 我が心内をぎった若いソプラノは絶句したようだった。額の上で煌めく黄金で唐草文様が印象的な立烏帽子と、腰に取り付けられや白鞘巻を模した装飾は、神職の正装ではない事を強烈に主張している。化粧に紛れた肝斑が見えなくも無いが、確かに息を呑んでも仕方の無い美を漂わせていた。

 ――お母さまっ。

 水干の色彩こそ紅白のツートンで統一されていたが、全体的には舞踊可能な可動性を有しているように見受けられ、古臭く見えない。ただ年相応かと尋ねられると、即答は難しいと感ぜられた。

 ――お母さま、あたしよっ。ねえっ!

 幽かながらも幼い女声は強烈に響くので、耳を塞ぎたくなってくる。……君の姿は、この周辺には存在しない。だから、喚くだけ無駄だ。――やってみないと分からないじゃない! それにしても、社から出現した者の格好は静御前に代表される中世の白拍子を彷彿とさせる艶かしい出で立ちであった。そう考えると、侮蔑と憤怒の籠った思考が一瞬だが、我が神経を通過した。

「――あなた、あの東の山で、何か見つけたのですか」

 染みを持ちながらも端麗な烏帽子はメゾソプラノで以って右の事を毅然と発言し、我が不格好かつ不細工な顔面を食い入るように見つめてきた。好きで見ている筈も無い。指環を発見した私を珍獣視しているだけである。――お母さま、あたしの声、聞こえないの? ……そんな事を考えても仕方ないので、さっさとポケットから例の指環を取り出し、白拍子に見せた。

 あの山中の崖で、これを見つけた。気になって麓の店で鑑定して貰ったら、子供の玩具だと言われた。それで、あの失踪に関する張り紙の事が記憶の底から浮かび上がった。だから、ここを尋ねたのだ。発言の骨子をこのように定め、その通りに話す事に決めた。

 ――ちょっと、あんた! もっと言葉を連ねてよっ! お母さまから聞きたいことがあるんだからさっ。

 脳裏に木霊する提案を無視して、白拍子に今までに起こった事象の……無論、我が経験における日常的な部分の抜粋だが……梗概を伝えると、相手は我が掌に有る、燃え盛る焔を頂いた銀色の環を見つめてきた。

 ――何であたしのこと無視するの! ねえ、お母さま!

 音声は悲痛に感ぜられた。掛ける言葉も考えに浮かばなかった。仮に何らかの情報を与えたとしても焼け石に水であろう。――このイジワルっ!

 僅かな憤怒を湛えて木霊したソプラノには母と思しき人物の声こそが必要だったろう。しかし、立烏帽子は、直立不動で両目を潤ませていた。そうして、目を閉じて紅を塗った自身の唇を静かに少しだけ噛んだ。充血しつつある目を開けて、私に話掛けてきた。

「確かに、あの子は、この指環を持っていたように思います。ですが、見ての通り、ありきたりな、縁日で誰でも簡単に買える、おままごとの玩具です。……本当に、あの子の、あの子の持ち物だと断言できるかと言われますと……」

 ――そんなっ! ……不謹慎な悪戯と叱責されないだけ有難い。

 口籠った状態で白拍子は俯いた。流石に居た堪れない。重苦しく無音の空気が漂い始めた。

「……ごめんなさい。……お気持ちは嬉しいのですが、もう、捜索については、警察に一切を任せておりますので、……すみませんが、お引き取り下さい……」

 ――お母さまっ!

 境内にも拘わらず陰湿で重苦しい雰囲気が醸し出される状況下、一瞬だけ私は耐えられずに眼を逸らしてしまった。拝殿の賽銭箱の真上に、正面を向いた木彫りの白猪が居た。牙を剝き出しにして、黄色い目で私の居る方面へ威嚇を行っている。その形相を見た後、再び視点をソプラノの母らしき人物へ合わせた。兎にも似た両目だった。

 ……もう、これ以上の対話は無駄だろう。――何で、何であたしの声が聞こえないの! お母さまっ!

 半狂乱に陥っている声をかたはら痛く感じながら私は、忙しい中、突然押し掛けて済まないと言う旨を述べて、今日執り行われる祝祭が成功する事を願っていると、型に填まった社交辞令を付け加えた。

 ――心にもないこと言って話を切り上げないでよ、バカっ!

「……お祭り。……そう、そうですよね、今日が、おめでたい日だとは分かっているのですが、それでも……。……あの子は無事なのかと……」

 社務所で最初に話し掛けた雀斑が白拍子に駆け寄り、もう時間だと告げた。目を赤く染めた立烏帽子は、事務的に挨拶を済ませ、再び奥へ引っ込んでしまった。境内に静寂が流れ込んで来た。それは我が脳裏についても言えた。幼気いたいけな声は完全に押し黙ってしまっている。

 ……何だ、その。……指環、受け取ってくれなかったな。

 我が心内に響く幽かな声に何と言って良いのか分からず、口籠るような調子で、私はそう考えながら、玉石と漆に彩られた境内を後にして行った。

 ――あなたは、もうちょっと食い下がろうとした方が良いよっ。それにしても、お母さま。本当にあたしのこと分からなかったのかな。

 ……姿が見えないから仕方ないだろう。君は私の脳内……本当に我が心理へ直接に語り掛けているのかは知らんが……現時点では、私にしか君の話は分からない事となろう。今までの会話を誰かが知り得ていない可能性が無い訳では無いが、神社に至るまで、極めて日常的かつ普遍的な会話しか行っていなかったような気がする。仮に誰かが我々の発言、或いは思念の交換を認知したとしても、雑踏の中に紛れ込んだ他愛の無い会話と見做されているだけであろう。当然、この巫裂ふざけた事態なんぞ知る由も無い。それに、彼女の家を知った肝腎の会話はホテル内で発生した事だった。そして、先ほどの立烏帽子の言動から考えても、やはり私にしか、このソプラノの声は聴こえない事になる。……そうなると、あの水干に、我が精神に木霊した甲高い女声の所有者の姿を見せて遣るしか、彼女の思念を伝える方法は無いだろう。

 しかし、声の主である彼女の本体は、どこに居るんだ? 仮にどこかに居たとしても、おそらく彼女は行方不明者だ。それも捜索から数日が経過している状態にある……。

 そうした我が思考に構わず、幼い女声は何の澱みも無く言ってきた。

 ――お母さまと話をするには、やっぱり、その、あたしが、直接、お母さまと会うしかないのね。何となく、わかったよ。

 母親と思しき人物に反応されなかった事が、相当の衝撃だったのだろう。若い声は力無く、呟くように続けた。

 ――今、自分がいる所なんだけど、何となく察しはつくけど、おぼろげにしか分からないの。たぶん、あなたが、その指輪を拾った場所の近くだとは思うんだけど、それだけじゃ、ちょっと分からないよね。――ねえ、確認だけどさ、あなたは、どこで、指輪を拾ったのか教えてくれない?

 いずれ聞かれると予想はしていた。しかし、指環を拾った地点は、女声の出現が有った最初の地点でもあるのだから、私に聴きたゞす必要も無いと考えられたが、私は若干哀れなソプラノに答えて遣ろうと思った。

 ……町の東の山だ。それも登山道から逸れた所に有る、崖っ淵での事だった。――あぁ、あの元宮のガケね。あんなヘンピな場所まで行ったんだ。

 記憶を振り返るだけでも不思議だった。幾星霜を掛けて風化した岩石で覆われた地面に、人間の手に依って鋳造、研磨、塗装、装填が施された装身具を見つけたのだ。どうして落ちていたのだろうか。持ち主と思しき女声の所有者は、どういう経緯で環を亡失したのか。……考えても無駄だ。麓に広がる俗世に続く石段を慎重に降りながら、私はそう考えた。

 振出しに戻る他に方法も無かろう。指環の他に何かが落ちていたのかも知れなかった。それに、当事者に掛け合っても、門前ならぬ鳥居本払いを喰らってしまった以上、あの高圧的で民事不介入と宣ふ厳めしい館に出向いたとて、同様に冗句と判断され拒絶されるのは明白であった。物的証拠を拾い上げれば、ある程度の説得も可能であると推察された。……そこまでして、女声の持ち主の実在を証明してどうするのか?

 ――ねえ、何考えてるの?

 そこで幼げな声が幽かに聴こえた。……あの白拍子の調子と、街中の張り紙から察するに、この町の行方不明者は女児で間違いなかろう。しかし、その人物は、控え目なメゾソプラノか、男勝りなアルトの持ち主かも知れない。甲高い中に透明感が存在し、あどけない声を所有しているとは言い切れなかろう。

 ……手っ取り早く、あの山に向かうには、やはり、あの喧しく酒池肉林に耽溺する者が漂泊する中央広場を経由するしか無い気がして、気が滅入っているんだ。

 ――そんなことないよ。いちいち町に行かなくても、山に入る方法があるんだ。

 そんな物があったのか。そう言えば、弐の鳥居の手前で見た交雑な案内に色々と抜け道が描かれていた気がする。

 ――さっき見たお寺から東の山に行けるの。後は、ガケに行く抜け道に入ればいいだけよ。

 りにもって、社の隣の寺院を通るのか。いささか遠回りになるとも思ったが、もう市街地の人波に揉まれるのは御免だった。

 木製の鳥居を潜り抜けると、先ほど通過した、安物の装身具を扱う露店の棚が遠くに見えた。上りの際は気付かなかったが、玉石と石畳しかない広場の為、良く見渡せたのだ。髪の毛を遊ばせていた先客達はもう居ない。種々の硝子細工が放つ光線も僅かに我が視界に入って来たものの、寒色系が目立つばかりで、暖色は橙止まりであった。燐寸みたく燃え盛る例の環は見えなかった。よく観察しても良かったが、あの客層に近付くのは憚られる。私は参道を横に逸れて、問題の寺院に続く階に行った。

 社に比べ、ヒトは皆無であった。黒ずんだ石段を慎重に駆け上がると、ひらけた場所に出た。青銅で鋳られた大香爐こうろが設置されており、例のごとく不完全燃焼した大量の線香から放たれた煙が、木材を燻した臭気と共に、私の顔面へ直撃してきた。奥には白漆喰と木材、黒鉄色の瓦に依る廻廊と、木目の細工と鉛色と金色の金具が美しいだけの本堂が見える。けれども、凝視してみると所々に蜘蛛の巣が有り、木材の傷んでいる箇所が多々見受けられた。参拝に赴いた訳では無いから、このまま直進しても時間の無駄である。

 蜘蛛の糸のように粘着質な白い気体を避けるように、私は本堂に向かう廻廊の入口から逸れ、寺の裏手に回る事にした。社に比べて、この仏閣は有名では無い為か、客は全く居なかった。大半は市街地の露店やら何やらに赴いているのだろう。

 ――とにかく、奥に進みましょう。

 こんな所に居ても仕方が無いと言はむばかりに、幽かなソプラノが我が脳裏に澱みも無く囁く。正面こそ大型青銅器を鎮座させて如何にも大寺院としての体裁を整えているが、参道から逸れ、秘仏を取り囲む建築物を迂回すると、随分と殺風景な世界が広がっていた。生命の名残は、僅かに繁茂する雑草程度しか残されていなかった。

 黒ずんで判読不可能な卒塔婆、苔に覆われて久しい墓石、埋葬者を待ち構えて居る小さな空き地、元和年間から存続するような桶、腐った供物を捨てる空間、単一的で面白味の無い生け花、しおれて枯れ果てた花弁の残骸、鴉に狙われている可哀そうな有機的供物、青々しく繁茂した茎、木片が焦げた臭い。……全体的に薄暗く、活気が無い、静寂を通り越した死滅の状況に等しく感ぜられたが、それでも、鳥居先の広場よりは遥かにマシな代物であった。

 ――どうして、そう思うの?

 賤しくも無能なる自身の肉体に左右され、不自由している癖に、自己を万物の霊長だと思い上がり、周囲の事物を讒謗で毀損して刹那の愉悦に浸る餓畜が跋扈する世界であるのだから、報いばかり喰らう。そうした自己の利権の拡充しか望まぬ代物が乱立する空間より、この静寂に満ちた世界の方が、却って冷静沈着として思慮深く行動出来る。

 ――あなた、本気で言ってるの?

 確かに、無機質な墓石の群は、都会に林立する凡庸な高層建築を彷彿させる。その点で、実に俗世的存在とも捉えられよう。しかし、下界の町みたく愚にも付かぬ存在ばかりで華の無い土地に比べて、この一帯は秋口にもなれば、鮮血のごとく滾る彼岸の花が見事に咲き乱れる筈だ。そうした我が思考に対し、呆れた声が心内に発せられた。

 ――まったく、そんな暗いことばっかり考えてるから、疲れてしまうんじゃないの? だいたい、あなただって欠点あるんだから、人のこと言えないはずでしょう。

 無論、私とて、結局は、他の物体を攻撃する事でしか存続出来ぬ程度に矮小で卑賤な詰まらぬ俗物の一種に過ぎない。そこに差なんて微塵も無かろう。所詮、この私は、そう言った取るにも足らぬ有機的塵芥も同然の事物と等号関係に有ろう。……だから、私は可笑しいのだ。その矛盾を解消する為に、巫裂ふざけた状態を清算する為に、私は絶命を切望するのである。

 幼げな女声は脳裏に響かなかった。おそらく閉口しているのだろう。盆の時期だと言うのに静まり返った墓地の真ん中に、万緑の季節らしからぬ冷たい風がソッと忍び寄るように我が双肩と背筋へ到来し、一気に駆け抜けて行った。夕暮れも近い。無機質な墓標の並ぶ空間と草木深い一体の境には立入禁止の文言も見当たらなかった。陽に照らされて熱気が籠っている墓所の奥に広がる涼しげな緑に向かって、私は歩行を再開した。

 手押し車一台が辛うじて通過出来る狭窄な未舗装路だった。地面の落葉が目立ち、乱雑に打ち付けられた私製看板も多い。左右に生息する木々も間伐や剪定が為されておらず、動物に喩えるならば、飼育放棄の状態に有った。生活道路とは称せないなと発想しながら、私は鮮やかな緑の中を進んだ。……本当に、この道で合っているんだろうか。

 そう思っている内に、今度は吊り橋の袂に差し掛かった。経年劣化したワイヤで支えられた錆だらけの橋だった。興味本位で下を覗くと、数m直下に川が流れ、岩場が剝き出しになっていた。……どうした事か脚が小刻みに痙攣する。

 ――そんなにこわい? こんなとこはいつも超えてるから、何の問題もないけど。

 脳裏に響く声の持ち主の発話は、非常に平凡な調子で、嫌味は無かった。女声にとって、この崩壊寸前の橋は日常の一部なのだろう。古びて軋む橋を恐る恐る渡った私は、さらに千万の叢中を貫く道の奥へと歩いて行った。

 山葵、若草、鶯、萌黄、常磐、青竹、深緑を呈する林とも森とも付かぬ小径は、次第に傾斜を伴うようになり、やがて小さな祠が等間隔だろうか、ある程度の距離を空けて私の進行方向に配置されるようになった。何となく既視感を感じた。特に、道筋に配置された燈籠にも似た祠は、先ほど登山道を登った時にも見かけたような気がする。――ご神体の近くだから、置いてあるんだ。

 ……御神体ね、元々は山岳信仰の村落だったか。……或いは社で見た、あの白い猪豚亜目。あれを崇めているのか。幽かに響くソプラノは、我が思考に構わず、鳥居先の集落と、地名の由来になった社殿と、その祭典に関わる縁起について話してきた。内容を聴いて、私は典型的な異類婚姻譚の印象を覚えた。若き処女が山を住処とする白い猪に嫁いで行く。そうする事で集落は安寧を再び獲得すると言う。そうした伝説から、かつて社の者は白無垢で仮装して舞っていたらしい。

 ――でも、お母さまが子どものころには、もう白無垢でもなくなってたみたいだけどね。いつごろからか古めかしい衣装で演舞するお祭りになっちゃったんだ。まあ、その方が面白いと思うけどね。

 私は文化人類学には疎い。それ故、彼女の発言に対する適切な感想・意見を述べる事は出来なかった。仮に知見を有していたとしても、この鬱蒼たる森林で議論をする必要性は感ぜられなかった。第一、相手方は、それで納得しているのだから、それを否定する道理は無い。

 それにしても、信仰対象と聴くと、あの社の本殿が記憶から蘇った。確かに白い、アルビノと思しき四脚獣が所々に模られていたが、いささか露骨な気がした。そこまでして世人の視覚を介して効率的に知らしめる必要が有ったのか。それとも、

 唐突に火薬が密閉空間で破裂する轟音が起きた。枝に居座っていた無数の嘴が我が頭上に圧し掛かる虚空へ一斉に飛び出して来た。

 ――また、何かあったのかな。最近、い、イノシシが下りてきたりするから、多いんだよね。

 自己防衛としての威嚇射撃か、人的被害低減としての狩猟か、どちらにせよ、猟師が発砲しただけの事だ。運が良ければ、我が胸部に熱い鉛の塊が減り込んでくれるかも知れない。胸元の指環程では無いにしろ、錆びて赤く変色した粘り気の有る液体が胴体から盛んに吹き出す。

 ――こりないね。もう、注意するのもバカらしい。

 しかし、ソプラノが最近は鳥居先周辺の山で銃声を多く聞くと話す事は、何らかの生物に依る被害が頻発しているからでもあろう。考えてみれば、私が断崖の突端で指環を拾う前、猟師と思しき出で立ちと擦れ違ったような気がする。あれも何かしら関連するのだろう。

 そう考えると、やはりあの白い四つ脚の事が脳裏に浮かぶ。社の周囲に施された木彫りの装飾で、注意喚起しているようにも捉えられたからである。無論、私の勝手な想像に過ぎない。けれども、彼の動物が化身ならば、その化身の棲む領域が即ち聖域となる訳であろう。寺社の裏山から東の山までは境無く地続きである。さもなければ、今私が歩いている山路は形成されていないだろう。

 ――何を考えてるの?

 ソプラノは自身の声を震わせながら、そう尋ねてきた。私の思考に何かを感じ取ったのだろう。構わずに歩みと思考を継続した。実際に現在踏行している小径は山間を通る物にしては平坦であった。この調子で行って、あの町の東の登山道に出て行くなら、おそらくヒト以外の往来も盛んであろう。……牙を持つ連中は登山を愉しむ者を、どう捉えているだろうか。

 連中にとって、Trekkingなる行為は、彼女の話に出て来た御神体の所有地を土足で踏み躙っているような物とも捉えられよう。穢れた土足で何遍も聖域を踏破していく。如何に温厚と伝わる和魂にぎみたまでも百年と耐え得る筈も無かろう。……

 道幅が徐々に広がり、緑の濃度が上昇する。供物を内蔵した小型の祠が点在するようになり、あの登山道に似た鬱蒼とした細い空間になった。

 ――何だか、気分が優れないな。

 こうした明度の低い世界に慣れていないからソプラノはそう言うだろう。実際、我が心内に響く女声は、私が宿泊しているホテルについても嫌悪の念を表していた。暗い世界が苦手なのだろう。しかし、結局は個人的な趣味の問題であるから、改善する方法も少ない。この場合、我が感覚と同期していると想像される以上は、私が速やかに、この山路を駆け抜けて遣る他に手段も無かった。

 深緑の廻廊を行くと、再び重く低い破裂音がした。そのせいで発生したか、頭上には無数の嘴から汚い音波が垂れ流され、同時に、大小様々な翼が上下運動を開始していく音が響いてきた。

 ――ちょっと、この山の様子が変な気がする。

 あどけなく幽かな女声が語る事に賛同出来るような気がする。先の発砲音と言い、自殺が未遂に終わってしまった時に比べて、この森林は妙に騒がしくなっている。今の所、この登山道を四足で駆け抜けるけだものに出くわしていなかったが、それでも周囲の深緑からは、何らかの動物の息遣いが反響しているようにも捉えられた。……行ける所まで行って、駄目だったら、引き返すか。その時は、……その時だ。

 あの装飾が美しい客室の清らな壁紙や寝台に、朱とも朽葉とも付かぬ季節外れの紅葉を散らしてしまうのは心苦しいが、この探索を中断する場合、止むを得ない結果であろう。

 ――もう、勝手になさいっ。それよりも、あの看板――。

 山を貫く縷々とした径は、何時いつか見た光景と然程変わらなかった。木々の緑の濃さも、そよぐ風の涼しさも、以前と同様の代物であった。けれども先程の登下山に比べて、日光の照射角度は傾いていた為に、周囲の情景からは、どこか薄暗い印象を受けた。陰りを含んだ木漏れ日に覆われた追分には、目印みたく看板が黄褐色の地面に刺さっていた。風化に依ってかインキが掠れて、「者」と「主」の文字しか認められなかった。

 ――前に来た時と同じ。何も変わってない。……さっき通ったんだから豹変する筈も無いだろう。――そう言えば、あなた、この上のガケで、あたしの指輪、拾ってくれたんだったね――。

 脳裏を過ぎる声が妙に馴れ馴れしい事を言ってくるので、私は若干薄気味悪く思ってしまった。心外だと立腹する幼気な女声をそのままにして、断崖に続く道に脚を進めて行った。山は相変わらず、火薬の弾ける音を呈していた。しかし、ここへ絶命しに来ている私にとっては、そんな些細な事はどうでも良かった。ただ、呆れた幼気なソプラノが心内に木霊する事が煩わしい障壁であった。

 あの時と同様、断崖へ続く路面は柔らかい土と縦横無尽に伸びる根の塊から、硬い岩石の複合物へと変化していき、ヒトの往来を拒むような険しい経路となった。木立の感覚が広がる空間に、ようやくヒトを威圧せむとする虎柄のロープが見えてきた。以前と同じく六つのパイロンが鎮座しており、猪に注意せよと表示された看板が掲げられていた。二度目の光景であったが、あの字面はどこかで幾度か見たような気がした。

 ――ここ。何となく、覚えてる。

 我が思考に呼応してか、ソプラノは弱々しくそう告げた。さっき通った場所であるし、そもそも女声の持ち主にとっては勝手を知った庭のような場所なのだから、知っていて当然であると感じた。それ以上に何の感想も抱かず、私は再び、六円錐が整列する規制線を越えて、その先に歩んで行った。踏み入った先に、ヒトの手が最小限にしか介入していない寂寥に包まれた未舗装路を歩いて行くと、妙な音がした。……変哲も無い岩石の混淆した木立の間隙であったのに、突然に幼げなソプラノが、一瞬だけであるが、まるで石でも投げ付けられて怪我でもしたかのような呻き声を上げたのだ。

 私は心配して、何か思い出す事でもあるのかと、心内で尋ねてみたが、我が問い掛けに対する応答は無かった。……どうにも、我が脳裏に響くこの女声は、核心的な事象に触れると沈黙してしまう嫌いが有るようだ。彼女の黙説とも付かぬ断続的発話を、もどかしく感じながら歩行を続行した。……唐突な沈黙は今回に限った事でもない。具体例を思い出すべく、今日の出来事を振り返ってみた。ホテルで女声の持ち主の所在を尋ねた際の応答や、社で見た張り紙に対する発言でも、あどけない女声の発話は、この時と同様に、中途で切れていた。

 ――ご、ごめんなさい。ちょっと気分が、すぐれなくて――。

 体調不良にでもなったかのように覇気が無く、実に覚束ない口調で脳裏の女声は、そう言ってきた。心内に再生される音声の不調を聴きながら歩みを進めると、木々の生える領域が終了し、寂寥たる岩山の情景が眼前に出現した。私が指環を拾い上げた地点は、何一つ変わっておらず、前と同じく殺風景な岩の地面を呈していた。

 ……ここに指環が有ったんだ。そう考えながら私は、硬い地盤に安いクロムメッキの物体を置いて当時を再現しようと試みて、上着のポケットより例の深紅の硝子を頂いた銀色の装身具を取り出してみせた。同時にソプラノが呟くように脳内に共鳴した。――そう言えば、あたし。ここに来て――。

 傾いた日光によって、鮮やかな血栓にも似た水晶が強烈な瞬きを放ち、我が視神経に命中した。思わず眼を閉じた。その瞬間、恐怖に彩られた絶叫とも言うべき奇声が途轍も無い大きさで我が心内に生じた。同時に、瞼を閉じたにも関わらず、巨大な白猪が突進する姿が、木彫りよりも生々しい息遣いを含んで、我が網膜に出現した。けれども、その情景は一瞬で消滅して、視界は赤褐色から暗黒に変化した。そこで、またしても発砲音が轟いた。……以前より増して、大きく聞こえた。いや、近過ぎる。

 眼を開くと、再び荒涼たる崖っ淵の情景が飛び込んで来た。銃声の名残か、反響音が辺りに立ち込めていた。この近距離で発砲が有ったようだ。幼気な女声は、再び沈黙を貫くようになってしまった。……何かを聴き出せる状態では無い事は確からしかった。

 この調子で声の発声を待っていても埒が明かぬ。何とかして何らかの情報を得ようと考えた私は、指環を拾った崖の突端に向かい、そこから緑色の下界を見下ろす事にした。恐る恐る覗き込むと、やはり高低差に圧倒され、脚が竦む。しかし、脚の震えを無視して凝視すると、ただの森林だった情景に、建物のような物が有ると気が付いた。屋根瓦は青黴を想起させる大量の苔で覆われており、壁の木材にも黒い靄のような、煤のような汚れで飾られていた。……だから先程見た時に見落としたのだろうか。

 ――あ、あれ。見えるでしょ。あれが元宮――。

 我が視界に入った情報を知り得たのか、ソプラノは気怠そうに力無く呟いてきた。あの廃屋とも捉えられる建造物が崖の名の由来になった聖域である事は、延喜式も全く知らぬ私のごとき素人でも直ぐに推測出来る。

 直後、我が背後のくさむらで枝葉が擦れた音がした。何かが動いたのだろうか。牙を持つ獣が来ては困ると考え、私は、断崖から早急に立ち去り、有難い事に、近くに有った繁みの裏へ回り、咄嗟に我が身を潜めた。

 ――い、いきなり何? な、何があったの?

 発砲音が強烈であったのも道理だ。息を潜めて問題の叢に目を遣ると、そこから草花とも岩石とも付かぬ鮮やかな暖色塗料を携えた服装が黒鉄の筒と真鍮の薬莢を引っ提げて複数出現した。彼らは、まるで例の指環の硝子細工の色合いに似たような服を着ていた。誤射と避ける為、周辺の色を練り込まなかった赤色彩に身を包んだ者の中には、肝腎の武器を携帯していない者まで有った為、全体的に随分と身軽な装備のように感ぜられた。

 そうして、橙色の遠縁を纏った者たちの周辺を観察していると、今度は白装束の一部が乱れた山伏、疲弊の色を隠せない登山客が混淆して万緑の藪から出て来た。

「これで全員だな」

 顔面に憔悴と困惑が浮かべている一人が、そう呟いた。

「整えた装備を一旦放棄したのが悔やまれるが仕方ない」

 草木の中からやって来たこの人々の息遣いは荒く、水筒を傾ける者も数名有った。林檎色の末端らしき存在が、安堵と疲労の声色で喋った。

「……ここも危ないでしょう。アレが来る前に一度、倉庫か集会所に戻って、彼らを下山させた後で、再び装備を整えましょう」

 崖の下に有るらしい倉庫は旧式の装備が多いから使い勝手も悪いと愚痴を零しながら、末端は同僚または年配と思しき人物たちへ計画変更の訴えを行った。柘榴色の中で白髪交じりの一人が、不安げに口を開いた。

「例の動物の処置については、今は見送るとして、問題は、観光客と修行者すぎやうざだ。これ以上、危険な目に遭わせる訳にはいかない。速やかに下山させる必要がある」

 疲弊の色をも漂わせる茜色らは全員これに同調した。確かに、先に数度発生した発砲音を勘案すると、正しい理屈であるように考えられた。

 ――どうするの? あの人たちは山の中で何か見つけて、ふもとに下りるみたいだけど。

 弱々しいソプラノが我が脳裏に尋ねてきた。私は避難して来た遊山と狩猟から視点を外して、手に持っている指環を見つめながら、応答を考えた。

 ……君は、この近くに自分が居ると思っているんだね?

 ――このガケまで来たのは、何となく、覚えてるけど、そこから先が、ちょっと、覚えてないなぁ。

 実に歯切れの悪い返答だった。もう少し具体的な情報が欲しいと思った矢先、藪の向こうの情景に変化が生じた。

「あの、みなさん。向こうの藪がやかましい気がするんですが、ひょっとして――」

 紅と緋を足したような一人が、そんな事を言ってきた。……まさか、私の存在に気が付いた訳でも無かろう。少なくとも私はアレに相当するような振舞いを行った覚えは無い。しかし、繁みに隠れている以上、私を指していないとは言い切れなかった。

 発言の真意はすぐに解明した。私の潜んでいる叢とは異なる、別の雑草帯から葉枝を掻き分ける音が聞こえて来たのである。朱の隊列と白装束と登山靴は、恐怖の色彩を呈した。――なんだか、ヤな予感がする。

「全員、速やかに、ここを発とう。でないと、えらい目に遭ってしまうぞ」

 山から下って来た者たちは賛同した。そうして、重装備と足駄とスニーカーは速やかに、あの六つのパイロンと虎柄のロープが有る方面へ行ってしまった。一瞬の事で、白昼夢のようだった。私は繁みから立ち去ろうかと考えたが、気に掛かる事が有った。向こうの繁みから音がする事と、それに対して我が精神に響く女声が嫌な予感を覚えた事であった。

 ……白い。

 繁みの奥に在る物体は、色素異常のせいで猪と言うよりは豚に近い感覚がした。白い事には白いが、厳密には定期的な毛繕いを怠っているせいか、その毛は所々が砂埃らしき汚れで黄ばんでいた。――あ、あいつっ。脳裏の声は絶句した。社で見た絵画にも、こいつのような物が有ったように記憶しているが、とてもじゃないが、あんな温和な外見ではない。その目玉の黒い部分は野生の中でも殺意の籠った陰湿で粗暴な具合に腐っていて、白目とも言うべき箇所は黄色く汚濁し、血管が浮き出ている。

 ――あ、あいつ、あいつが、あたしに向かって、向かってきてっ、向かって来たの!

 若干、会話が支離滅裂になっている声は随分と震えており、我が脳髄に振動が伝わる程であり、我が身体の震えと共鳴しているように感ぜられた。幸いにして、白亜の四脚獣は枝葉の向こうで右往左往を繰り返すばかりで、未だ私の存在を認知していないようだった。……先の迷彩及び聖俗混淆組と同様に、下山するルートを採った方が良い気がしてきた。けれども忍び足で、現在居る藪から移動しようとした時、誤って地面の枝を踏み貫いてしまったようだった。

 ポキっと言う、植物の残骸の内部構造が破砕する際に生じる情けない音が我が靴の裏から流れた。偶蹄類の様子を覗う為に問題の叢に目を遣った。しかし、振り向く速度は相手の方が優れているようだった。目が合った気がする。――こわいっ。

 少なくとも、あの黄色く濁った眼は、私の胴体を捉えただろう。しかし、その事に気付いた時には、もう色の抜けた猛獣がこちらに向かって助走を始めていた。これでは、パイロンに向かう事は、ほぼ不可能だ。情けない事に、ひたすら逃げる以外の選択肢が我が脳髄に浮かばなかった。私は兎に角、断崖近くの繁みから、獣道とも叢の間隙とも捉えられる空間に出て、細い小径とも呼べぬ代物を縫うように走った。緩やかな下り傾斜であると感ぜられたが、そんな事に構ってはいられなかった。相変わらず、呟くようにソプラノが発せられた。

 ――あいつ、あいつが、あたしのことを、追い回してきたんだっ。

 在来の狼も断絶して久しい。熊を除けば、この山中で最も獰猛な生物と推測された。齢十三にも満たない幼い子には酷な事であっただろう。脚力に長けている四つ脚のけだものは、未だに全速力で私を追尾して来た。

 ――それで、あたし、疲れたんだった。

 藪と樹木の群れを避けるように走って、岩石と茎根の混ざった山肌を重力に任せて下って行く。看板も丸太で設けた階段も無かった。万有引力と、脚の筋力を頼りに、山路とも称し難い道を下って行くと、視界が突然開けた。腐葉土に草花と落葉を散らしただけで、人工物がほとんど無い寂しげな林の世界だった。上空は登山道と違う若々しい黄緑と逞しい深緑、そして厳めしい断崖で構成されていた。

 突然に視界が変化したせいか、私は周辺の情景ばかりに視点を合わせてしまって、路面に対する注意を怠ってしまった。結果、岩と言うには小さ過ぎる石の存在に気が付けず、私は傾斜の途上で躓いて転倒してしまった。

 ……ここで転んでしまうとは情けない。右脚に鋭く痛みが走り、鈍い物に変化した。問題の箇所に触れてみると、出血や痣こそ無かったが、どうやら脛を痛めてしまったようだった。痛みを我慢しながら私はすぐさま、下って来た方面を見て遣ると、そこには、まだ何も来ていなかった。……撒けたのか。それともまだ見えていないだけか。

 ――お、おびき出そうとしてるだけよ。ここらへんのイノシシは、案外賢いんだ。それで、畑とか荒らされたり、そうだ、ケガした人だって多いんだ――。

 やや悲し気な調子で、幼げな女声は言った。この場合は、彼女の心持ち通り、悲観的に捉えていた方が良かろう。脚の痛みを忍びつつ、私は斜面から立ち上がり、ゆっくりと下に広がる平坦な場所へ歩いて行った。

 木立の広がる殺風景な空間だったが、そこには建物が在った。烏帽子の居た社で拝殿越しに一瞥した本殿と相似しているように捉えられたが、本殿に比べて建築物は苔に覆われて老朽していた。装飾も漆を多用していたが、極彩色を取り入れてはおらず、木材に限定して組み上げられたような物体だからか、三つの鳥居を擁する町の北に所在する社に比べて、小ぢんまりとして、簡素に見えた。

 ――あ、あれよ。あれが、上から見えていた、も、元宮。む、昔は、あそこで、ぎ、儀礼してたらしいんだけど、今はもう使ってないの。――あたし、だれも行かなくなった、元宮に、もとみやに行こうとして、あたしは、あのガケまで――。

 振動するように我が脳裏へ木霊する声は、どうも力が無いように感ぜられた。木彫りの装飾が施されているか観察したかったが、逃げるのが先だった。痛む脚を何とか動かし、元宮なる社の裏に回る。宮の影から、降りて来た経路を見遣ると、まだ何物も顕れていないようだった。

 ――ねえ、もう、ま、町にもどった方がいいと思う。あのリョウシさんたちだって、町に帰っちゃったんだから、やっぱりキケンだと思う――。

 危険なのは承知しているが、あの黄色い目をしたけだものが、ここまで来ていないとも限らない。逃げるにせよ、あの神とも化身だの使者だのと、過剰に意義を背負わされている単純な四つ脚の追跡を撒かなければ、無事で済まされない。

 白亜の野生動物が来ない今のうちに距離を稼ぎたい。疼く右脛を強制的に移動させて、さらに木立の奥へ進むと、基礎が略されて簡易的に設けられた小屋を見つけた。その入口付近には山積している木材が、頑丈に織られた青いビニールの布と植物性の縄に依って保護されていた。無論、扉には鍵穴が有ったが、ロック状態のドアのラッチがラッチ受けの金具にぶつかっていて、完全には締まっていなかったのだ。

 ――一人でガケまで行ったの。お母さまに行っちゃダメだって言われてたけど、もう最高学年なんだから、大丈夫だって――。

 尋ねても無いのに余計な事を言う。話の真贋は不明だが、そうした些細な事を思い返して述べている事から察するに、おそらく我が脳裏の女声は半ば取り乱しているのだろう。……あの直線的に走る動物の出現に依って。

 未だに残っている脚の痛みをこらえつつ、不用心な小屋の入口に手を掛けた。抵抗や呵責が無い訳では無い。しかし、この界隈にアルビノの大猪がやって来るのは時間の問題でもあった。杞憂に過ぎないのなら、それに越したことは無いが、今までの私は非常に運が悪い存在であった。おそらく、今回もそうであろう。「関係者以外立入禁止」と貼紙されている戸を閉めず、半ば自棄やけになってドアノブに手を掛け、手前へ引いて見ると、何の変哲も無い物置が我が視界に飛び込んで来た。

 ――あぁ、開けちゃった。

 小屋の中へ入った。両脇に鎮座する棚には乾パンや水が詰まったボトル、分厚い毛布、大型の懐中電灯など備蓄品や、ゴム製の合羽、合成革の長靴、ステンレス製の登山用の杖など備品も陳列されていた。特に装備品を保管していた箇所の近辺には、覆いを無造作に取り払った後や開いたまま放置された救急箱の姿や、ほんの数分前までヒトが居た痕跡も所々に残っており、戸締りもままならぬ事態だった事が思い知らされ、いささか無断進入した事が居た堪れなくなる。照明弾や緊急用の斧が見つかれば、それを引っ提げて元来た道を戻ろうかと思案している中、ある物を見つけた。

 それは細長い木片で、古めかしいボルトアクション式の排莢機構を有する鉄筒を兼備していた。貧弱な知識に基づいて観察すると、の三十八年製にも見えるが、どうせ販売から四~五年が経過しただけの現代的な中古だろう。

 骨董品に見惚れていると、小屋の中に居るにも関わらず、豚の悲鳴にも似た啼き声が僅かに我が鼓膜を掠めた。……例の獣の為せる仕業だろうか。

 ――どうしよう。やっぱり、ま、町にもどった方がいい気がしてきた。

 ソプラノは偶蹄目の発声に慄いているようだった。――何だか、とてもこわいの。

 少女の感性として、至極当然な事であった。銃を眺めながら、私は問題である指環の持ち主について思考した。

 ……確かに、どういう訳か、嫌な予感がしてきた。指環を見つけてから薄々と、我が精神に出現する悪寒とも言うべき暗い予兆を感じていたが、おそらくは彼女はその事を既に把握しているだろう。勿論、お互いに音声の形式として自身の発想の共有を行っていない。しかし、もう捜索が始まってから幾日かが経過しているのだ。もう彼女自身は……。

 闇夜のように見通せぬ予想を考えながら、私は鈍く発される疼痛を呈する右脚を神経系の力で以って無理矢理に動かし、簡易的な小屋から退出する事にした。結局、鉄砲と弾丸を二、三発程度持つ事にした。その形状から察するに、おそらくは散弾銃と判断可能だが、この私に果たして扱えるだろうか。控え目に言って、練習場に二、三度だが顔を出した程度で、機構に関する知識も万全ではない全くの素人Amateurである。けれども、威嚇射撃ならば辛うじて行えるかも知れない。それに弾丸が無くなったら、重い鈍器として扱う事も可能だ。

 ――あ、あぶないよ、そ、そんなもの。持ってこない、こなかった方が、よかったんじゃない?

 僅かに痛みが残る脚をいたわりつつ、開けっ放しの戸から出て行く。鉄筒を利き手で弄ってみると、錠前が解除される時によく聴かれる、金属が擦れてシリンダが動くような音がした。これで確認可能な状態になった筈だ。

 その瞬間、我が鼓膜を猛々しい憤怒に満ちた声が貫いた。私の近辺で繁みを掻き分ける音がした。あの疾走する白い生物だろうか。周囲を見回したが、それらしい姿は無かった。

 私とした事が猛獣を見落としていたのだと気付いた時には遅かった。どこの叢とも無く、雪のような白髪を纏った大きい鼻と牙と黄色い血眼が我が視界にあらわれてしまったのだ。

 ――イヤっ、あいつ。ここまで、ここまで、きたんだ。で、でも、なんで? な、なんで、ここまで追いかけてきたの?

 ソプラノは完全に怯えているようで、最早会話は不成立であった。黄色の牙を剝き出し、唾液をダラダラと地面に垂らす白猪は、これまた黄色い眼で私を睨み付けて、大声で啼いた。……確かに、女声が言う通り目的が分からない。目の前の動物は……先の我が妄想の通りに動いているとも限らなかろう……何の為に、この私を威嚇しているのか、憤怒しているのか。どんな心情に基づく代物にせよ、彼の白色生物は私に対して敵意を表していた。

 恐怖からか、今まで都合よく止んでいた疼痛が再び右の脛に走った。正面の四つ足は断崖近くの斜面を難無く下って来たのだ。健脚である以上、覚束ない走行で向こうに見える元宮の裏手に戻る策を採るのは危険過ぎた。アルビノの偶蹄目は、私に向かって、優雅に余裕を持たせて確実な歩みを進めて来た。

 今から小屋に戻っても、辿り着く前に突進されて大怪我するだけであろう。

 ――ど、どうするの? このままじゃ、あの時の、あたしみたいにっ――

 幼気な女声は再び取り乱し始めたようだった。仕方が無い。気が進まなかったが、私は今手にしている鉄の筒に我が命運を賭けてみようと考えた。護身用に無断借用している銃に弾が入っている。しかし、火薬が湿気った不発弾かも知れない。最悪の場合は、この鋼鉄の筒自体を全力で投擲して相手方へ命中させるしか無かろう。

 所詮は予備で配置された型落ちの銃だ。正常に動作する筈も無い。仮に作動しなかったとしても、出来るだけ頭部を殴るようにすれば良い。運が悪ければ……或いは運が良ければ、総白髪の獣を絶命させられるかも知れない。ちょっとした運試しだと考えて、私は、しなやかな引き金に触れた。

 機構は滑らかに作動する。

 雷鳴にも怒号にも絶叫にも似た轟音が四方へ飛散したと感じた瞬間、白い野生動物の鼻っ柱はグチャグチャに圧し折られてしまった。そこには鼻腔なのか、副鼻腔なのか、脳髄なのか、脊髄なのか、眼球なのか、頭蓋骨なのか見分けが付かない肉片が生じていた。私は無意識のうちに次弾を装填しながら、近寄って行った。リンパや血管が露出して、そのせいで周囲には、油分と血潮と汗と腸液と涙と脳漿と唾液の混じった血なまぐさい臭気が一瞬にして木立の空間に撒かれ漂った。顔面だった箇所から眼を背けると、白い腹だった部分にも穴が開いているのが分かった。やはり、私が手にしたのは散弾銃だったようだ。肝胆脾膵の類でも崩壊したのか、黄とも赤とも橙とも称せる暖色系の液体が散弾に依って生じた穴から漏れ出している。最早、虫の息すらしていない。

 白い毛皮を身に着けた肉塊は、贔屓目に見ても生きているようには感ぜられなかった。手抜きの画用紙同様の外見故に、だらしなく漏出されている紅葉のような体液や、行き場所を失い体外に露出してしまったはらわたの中にあった筈の黄褐色の内容物が余計に目立つ。

 白い毛玉の惨状を見る限り、最早生きてはいないようだった。……喜ばしい限りである。

 ――い、いや。こ、殺すことなかったのに、こんなすがたっ。見たくないっ――。

 ソプラノは弱々しく、それでいて、恨めしそうな声として脳裏に登場した。けれども、我が行為に反発する発言とは裏腹に、声色からは気力と覇気が有るようには感ぜられなかった。

 ――でも、あたしは、こいつに、追い回されて、こんな風に――。

 私は散弾が命中した肉塊を一瞥し、その場から立ち去る間際に思考した。

 ……生き物なんてこんな物さ、脂を含んだ水風船、或いはスポンジ……それも肉の膜で造られた。実にあっけない物だよ。そう考えながら、私は、彼女もまた、あっけなく散ったヒトなのだろうと感じた。こんな猛々しいだけで何の哲学も打算も理念も邪推も戦略も無く愚直に脊髄反射で生きているだけの肉塊に攻め込まれてしまったのだろう。

 ――あっけない。でも、こんな、こんなヒドいこと、しなくても、よかったでしょう。でも、あたしも、追い回されて、あっけなく、あっけなく、あのガケから――。

 元宮の方面へ戻って行く途中も、ソプラノは不調の様子だった。壊れたレコード盤みたく滑らかな発話が一部で引っ掛かって気になる。我が精神に嫌な予感が過ぎると、さっきまで幽かに聴こえていた声が、次第にしぼむように、かすれるように、収縮し始めた。それでも、この指環を女声の持ち主に渡す必要が有る。そう考えながら脚の疼きをそのままに、古びた建物の裏手、ちょうど崖の下に当たる地点に赴いて行った。邪魔も消えて探索可能になったからだ。上着の胸ポケットから指環を取り出して確かめようとすると、前方に何かが見えた。

 ――追い回されて、ガケで、あたし、もう、どうすればいいか、分からなくなって――。

 木立の隙間とも言える土の真ん中に物体が有った。それを一目見た時、私は思わず指環を木の葉の多い土の上に落としてしまった。

 あどけない声は、弱々しいすすり泣きになり、忽ちに意味を失った。それは、泥で汚れたリボンの成れの果てであり、砂埃が付いたワイシャツの破片であり、漆黒や臙脂えんじ、常磐に変色しかけている四肢だった何かであり、熟れた柘榴のように弾けた頭部であり、損傷激しいものの、此世の疲労を漂わせぬ実に安らかで綺麗な寝顔であった。

「……崖から落ちてしまったのか」

 不図、私は溜息を漏らすように、そう言った。その刹那に私は、我が脳髄に木霊していたソプラノを喪失してしまった。私の声だけが鬱鬱とした空間にこだました。土に還りつつある相手は何も発さない。悲嘆の声も挙げぬ。……黒い豆粒が飛んで居る。長い齧歯が頭蓋骨の当たりを貪っている。白く小さな芋虫状の代物が数十匹から数百匹程、両脚だった箇所にたかっている。肉塊が分解されつつあるのか、虫喰いの多い彼女の人体は、赤土にも似た血液、黄土色の消化液、真菌共の分泌物と琳巴、水とも付かぬ唾液、血漿、脳漿、髄液、涙液の成れの果てを漏出しているせいで、どこか茶色く感ぜられた。

 目の前で腐肉と骨髄を謳歌する気色の悪い下等生物共を徹底的に排除したい。暴食を許す筈が無い。手許の散弾銃で全員完膚無き程に打ち殺したい。しかし、これ以上彼女を傷付ける事は、どうした理屈か、避けたかった。次の弾丸を装填し、銃口を天に向けた。日が没して黒ずんだ空を鉛玉が貫いた。怖れを為して逃げる虫ケラも無くは無かったが、まだ居座る物も在る。発砲で熱くなった銃の先で、比較的大型の連中を蹴散らし、潰しながら、持っているライターで芯の赤い蒼焔をチラつかせて、虫けら共を追い出す。夏場の山なのだから、速やかに処置しないと益々腐敗してしまう。

 彼女の一部を焦がしてしまったが、ようやく彼女を持ち上げられる状態にして遣った。消化器、循環器、呼吸器等が腐敗し、心無い蟲獣に喰われてしまったせいで、非常に軽い。この青や緑、黒に変色し、真菌や幼虫に集られている皮膚も、その内粉々になって分解し風化して逝くだろう。

 気を利かせて、君を母親の元まで送らせて貰うと言ってみたが、全く反応が無かった。さっきまで、あんなに帰りたがっていたのに、ここへ来て無視を決める。疲れている事は重々承知しているが、いささか我儘に感ぜられた。巫裂ふざけないでくれ。そう思いながら私は地面に落としてしまった例の装身具……赤い硝子を頂いた銀の指環を取り出し、骨の露出している彼女の左薬指に嵌めて遣った。

 確かに彼女が婚姻を望んでいたとは限らない。しかし、作中人物が一瞬でも夢見ていない事を叶えるべきでないと揶揄する事が果たして適切な批評と言えるだろうか。貴君ら読者は物語表現と言う上辺への苦言に終始する事で、その物語内容の吟味・鑑賞・推論を放棄する状況の危険性について良く検討しなければならない。第一、三文小説にケチを付けなくては健全なる社会生活も営めない読者なる存在は、適切な読解が困難な状況に置かれている存在と言わざるを得ない。せめて死人を、人生における晴れ舞台の格好の一部で彩ろうと試みる心理の、一体何処に問題が有ると言うのか。私は彼女に指環を還して遣ったのだ。これに関して非難される謂れは無いだろう。

 結論から言って、その際、嫌がる声すら起こらなかった。……どうせ、喪われた小娘を一方的に悼む身勝手な妄想が、支障ばかりで機能不全に陥っている我が精神に作用したのだろう。もう、そう言う事で良い。どうでも良かった。

 発言を反故にするのも莫迦らしいので、彼女の躯を背負ってみると案外に軽く、滑り気と粘り気と臭気がじかに感ぜられた。急いで小屋の近くまで戻ると、引き金に触れても無いのに、火薬を用いた爆音が響いた。見上げると、粉々になった毛細血管の残骸が黒く塗られた虚無を背景にして飛び散り、一瞬で消滅した。実に儚く虚しい光だった。上空へ無造作に打ち上げられる雑音を無視しながら、彼女を負ぶって行く。少女をここに置いて行っても良かったが、猪まで殺して、ここまで来てしまったのだ。今更、善人ぶって引き返し、遺棄を試みても無駄であると想像された。

 仮に社に続く最短経路を採れば、猪や蟲の餌食になってしまうだろうし、暗い中、あの橋を渡るのは危ういと感ぜられた。彼女が損傷している以上、これ以上の蟲喰いと亡骸の紛失だけは避けたい。気は進まなかったが、私は正規の下山道を歩く事にした。……徒に祝祭へ身を投じるだけで聖性を包含していると錯覚している市街地の連中に、彼女の姿を見せ付けて遣ろうでは無いか。そうして、彼女との会話が有ったと語る事で、三文小説は完全に開き直った狂気の領域に突入する。

 第一、主人公とは概して盆暗な三千世界を相手取って、己が欲望を成就せむが為に他者へ平然と迷惑を働くよこしまな概念だ。今まで散々他者に依る妨害を受けてきたのだから、今度はこちらが連中を妨害して遣れば良い。そう己に言い聞かせた。

 六つの円錐が立ちはだかる例の地点に戻ってきた時、彼女の発声がもう一度するかと期待したが、そんな事は起こらなかった。蜂の胴体みたいなロープを跨ぎ、下る小径に入ると、靴も影も無かった。これから先には、息を呑む者、絶叫する者、怒鳴る者、様々有ると予想されたが、そんな俗物どうでも良い。時間が止まったような唖然たる街並みを過ぎ、あの社に辿り着いたとしても、あの可憐な少女の発言は一切無く、ただ寡婦の悲痛な嗚咽しか聴く事が叶わなかろう。しかし、そうする事で、私は心置き無く、この無能な肉塊を絶命に達せられるのだと考えた。

 鬱蒼とした静寂の中を駆け抜けながら、指環を嵌めた少女の死骸と散弾銃を背負った私は、燈籠の焔にも劣る乱雑で忙しなく汚れた光線に加えて神楽の曲以上に無秩序な騒音を湛える下界へと再び堕ちて行った。

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招魂祭 一ヶ村銀三郎 @istutaka-oozore

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