3.ふたりきりに

 鳥居をくぐって鶴岡八幡宮つるがおかはちまんぐうに入ると、ほんとうにものすごい人で、オレは本気で帰りたくなってきた。スマホのゲームは重いし、聡と大樹は「スイッチやろうぜ」とスマホを早々に諦めて、スイッチでゲームしてるし。

 あーあ。オレもスイッチ持ってこればよかったな。スマホのゲームはかたまって、もう動かなくなってしまっていた。

 美月みつきと琴子はオレたちの少し前にいて、オレたちは集団が動くたびに少しずつ右の端の方へずれていっていた。どうも端の方が動きが早いみたいだ。

 スイッチをしている聡と大樹は琴子に追いついて、琴子は振り返り大樹と何やら話している。美月はスマホで写真を撮ったり、スマホを見たりしていた。美月のスマホは使えてるのかな? ――そのうち、集団が動くにつれて、美月は琴子たちから離れて中央寄りに行ってしまう。

 ああああ、美月、またはぐれてる。

 琴子は大樹のスイッチの画面を覗き込んでいるし、美月は何やら遠くを見ている。

 そして、どんどん美月だけ離れていっていた。

 美月、はぐれていること、いつ気づくかな。

 オレは集団が動くたびに少しずつ美月の方へ移動していた。

 美月のすぐ後ろに移動出来たとき、美月は琴子がいないことに気づいたようで、慌ててスマホを見た。でも、どうやら使えないらしく、泣きそうな顔になっている。

 ああ、もう、泣きそうな顔もかわいい。

「みんな、いなくなっちゃったね」

 泣きそうな顔もかわいいけれど、泣いてしまってはかわいそうなので、声をかける。美月の顔はいっぺんに安堵の表情となった。よかった。

せい、背が高いけど、みんな見えないの?」

 と言われ、さっきみんながいた方を見る。ああ、ちょっと離れちゃったな。人混みの中に顔が見え隠れしていた。

 すると、聡がこっちを振り向いて、目で何やら合図してきた。オッケー、聡! たぶん、分かった!

 聡の意を汲んで(!)、「うん、分かんないなあ」と答える。ネックウォーマーをまたぐいと上に上げる。

「気づいたらいなくなってたんだよね。ゲームしてて、ゲームがかたまったーって思って顔上げたら、いなくなってた」

 よし。ゲームがかたまったのは、ほんとう。

 美月は笑ってくれた。よかった。

「スマホ、使えないね」

「うん、重い。ゲーム、出来ない」

 まあ、美月と話せるから、ゲーム出来なくていいんだけど。

「Twitterも見れないよ。LINEも」

 オレはスマホをポケットにしまった。美月もしまった。

 聡たちの方を見ると、あっちの集団はオレたちよりも先に進んでいて、小さくなっていた。琴子たちには聡がうまく言っておいてくれるだろう。よし!


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