2.人混み
電車内はそうでもなかったけど、鎌倉駅は人で溢れていた。
わー、すげー人だな。
オレはスマホでゲームをしつつ、
……美月! 違う、そっちじゃない!
美月はなぜかオレたちとはぐれて、違う方向へ向かっていた。
「こっち!」
オレは思わず、美月の腕をぐいっとひっぱり、そのまま手を握った。
やばい、思わず手、握っちゃった!
美月は手も小さかった。
みんなと合流し、手を放す。……変に思われなかったかな。
「せっかくだから、参道から行こうぜ」と大樹が言ったので、参道へと向かう。
漬物屋の横を通り、突き当りの本屋を左へと行く。
美月は琴子と歩いていて、スカートがひらひらとしていた。
「歩行者天国になっているんだね」と、聡が言った。
ほんとだ。
本来車道であるべきところも歩けるようになっている。初詣に来たな、という感じがした。
「スパイダーマンがバイオリン弾いている!」と琴子が言うので、琴子が指さす方を見ると、本屋の少し先にほんとうにスパイダーマンがいた。
「でもあのスパイダーマン、ちょっと太ってるね」と大樹が言い、みんなで笑う。
スパイダーマンのお腹はちょっと出ていた。
お正月はいつもの鎌倉と少し違っていて、おもしろかった。
スマホでゲームをしながら、参道を歩く。
オレたちの前には美月と琴子が歩いていて、写真を何枚も撮っていた。美月、写真好きだよなあ。いや、女子はみんな好きなのかな?
オレと聡と大樹はゲームをしながら歩く。スマホ見ながら歩くなんて、余裕。口うるさい親がいないから、オレたちは好き勝手にゲームをしていた。
「ねえ、スイッチ、持って来た?」と大樹。
「持ってきてねぇ」とオレが応えると、「持って来たよ」と聡が言う。
「俺も念のため、持って来た」と大樹が言い、「だよね」と聡が鞄からスイッチをちらっと見せた。
「念のためってなんだよー」
「今日はさ、絶対に並ぶし時間かかると思ったからだよ」
大樹がどや顔で言う。
「でも、歩けてるじゃん」
「いや、でも、あそこ見ろよ」
聡が指す方を見ると、入り口の大きな鳥居の向こうは人混みで、列は全然進んでいるように見えなかった。
「げ。何あれ。オレ、人混み、嫌い。……帰りたいかも」
オレは回れ右したくなった。
「まあまあ」
と聡が言い、そしてオレの肩を抱き大樹には聞こえない声で囁く。
「ほら、美月チャンがいるからさ」
ちょっ! 何言ってんだよ、聡!
言葉には出来ずに、顔を赤くして聡をきっと見る。聡はにやにやしている。
あー、ダメだ。
こいつ、ほんと、鋭い。
この三人で私立受験したのは、オレと大樹だけど、実際には聡が一番賢い。勉強も出来るし、何より頭が回る。
やべー
オレはネックウォーマーを鼻の辺りまで引き上げた。
「今日の美月チャン、星と服装が似てるよね。わざとかな? 黒ばかり着ている星に合わせたとか?」
聡は、いつもは「美月」と呼び捨てにするのに、わざと「美月チャン」と言う。ああ、もう、こいつは!
オレは聡を無視して、「ガチャ回そー!」とわざと大声で言って、ガチャを回した。
「ガチャ、どう?」
聡の言葉が聞こえていなかった大樹がゲームの話に乗って来て、そのまま聡の「美月チャン」発言を放置する。
美月がオレと服装を合わせた?
いやいや、そんなはずは。
……それにしても、今日の美月は一段とかわいい。
美月のセーターの黒色が俺の服装の黒とかぶる。……わざと? ……だったら嬉しい。
オレは緩む口元をネックウォーマーに隠して、スマホを見ているふりをした。
☆☆☆
美月視点「金色の鳩」https://kakuyomu.jp/works/16817330651418101263の
対となる、星視点のお話です。
よかったら、「金色の鳩」もよろしくお願いします。
どちらから読んでも大丈夫です。
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