銀色の鳩 ――金色の鳩②

西しまこ

1.待ち合わせ

 美月みつき、遅いな。いつも、待ち合わせの十分前には来ているのに。

 オレはスマホを見ながら、努めて平静を装った。オレは一番に待ち合わせの駅に来ていた。もしかして、早く来た美月と二人になれる瞬間があるかもしれないと思ったから。

 時計を見ると、あと五分で待ち合わせ時間だ。

 もしかして、今日来れなくなった、とかだったら?

 LINEを見る。――何もない。

 ほっとして顔をあげると、琴子ことこが手を振っていて、その先に美月がいた。珍しく走っている。

「お待たせ!」

 少し息を弾ませながらそう言った美月。今日は服装がいつもと違った。ロングスカートに黒いセーター。髪はいつもはおろしているのに、今日はアップだ。

 ……かわいい。やばい。

「あけおめ、美月」

「あけおめ、せい

 琴子、さとしの順に挨拶をして、出遅れて挨拶をする。

 オレはネックウォーマーをぐいっとあげて、スマホを見つつ、美月をこっそりと見る。口元がにやける。まずい。

 大樹だいきが最後に来て、オレたちは改札に向かった。

 電車に乗り込み、鎌倉駅へと向かう。今日は鶴岡八幡宮つるがおかはちまんぐうへ初詣に行くんだ。

 美月をちらちら見ていたので、目が合ってしまった。とりあえず笑っておいたけど、変に思われなかったかな。美月も笑い返してくれたから、大丈夫だったかな。……それにしても、美月、かわいい。


 もともと、聡と大樹とは小さいころからのゲーム友だちだ。そこに六年生になって、ゲーム好きな琴子が加わりいっしょにゲームをするようになった。そのうち、琴子の友だちの美月が加わって、五人で遊ぶようになったんだ。とは言え、オレと大樹と美月は受験組だったから、夏休み以降はあまり遊べなくて、むしろ受験が終わってから仲が深まっていった感じがする。スマホを手に入れたことが大きくて、LINEのやりとりは頻繁にあったし、年越しもそうだけど、時間が合えばLINE通話した。……まあ、オレはあまり発言しなかったけど。

 親には「スマホ買ったら、ゲームばかりして!」と言われているけれど、結構LINEを見ている時間が長い。「LINEもゲームもいっしょだ」と怒られるけど、全然違う! とオレは言いたい。


 鎌倉駅に向かう電車に揺られ、オレは聡、大樹とゲームをする。美月は琴子とスマホを見ながら何か話している。

 美月のことは、ずっとなんかいいなと思っていた。理由は分からない。美月が小さくて、目立ったからかも(でも、これはオレだけの感覚らしい)。それにかわいいし!(オレだけが思っていることかもしれないけど、絶対にかわいい)

 美月は受験も学校のことも、ちゃんと頑張っていてすごいなと思っていた。字がきれいで、ノートのとり方もきれいだった。……オレとは違う。

 オレは小学校の授業がけっこうバカバカしくて、適当にしていた。むしろ、息抜き、みたいな。でも美月は真剣に聴いていた。オレが大樹と「学校の授業、やってらんないよな」と言い合っていて、「美月もそう思うでしょ?」と大樹が言うと、「え、でも先生が一生懸命授業してくれているから」と美月は答えた。オレと大樹は驚いて、「美月、えらい!」と言うと、美月は少し困ったように笑っていた。

 正直、受験前はやっぱりギスギスしていたんだけど、美月に救われていた。美月も受験するというのに、美月はいつもとあまり変わらなかったし、前向きだった。そんな美月に励まされていたんだ。


☆☆☆


このお話は「金色の鳩」の続編です。

どちらから読んでも大丈夫ですが、もし未読なら「金色の鳩」も読んでください。

美月視点の対のお話です。

https://kakuyomu.jp/works/16817330651418101263

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