第57話 カオスな空間
「はぁ~白ちゃんって一人になると話題に事欠かないよねぇ」
「そ、そんなことないよ!?」
日差しが頭上にある昼下がり、私と日向、絶歌の学生三人は屋上でお昼を食べながら聖さんのことを話している。
「いやいや、一人にしたとたん掲示板で騒ぎになるわ、神官をスカウトしてくるわ普通は一人になってもそんなことにはならないと思うんだけどなぁ」
「白は自分のことになると無頓着というか気にしなくなるからなぁ。知っとる?学校で密かに白のファンクラブができとるの」
「まさかぁ。私なんかよりほかの人の方が綺麗だし可愛いよ、ねぇ?」
「ウンソウダネー」
白は日向をはじめいろいろな人との出会いを通して多少の自己肯定感を得た。
が。
それでも長年自分の容姿に自信がない白にとって自分が他人よりきれいだということは誰かから聞かされたとしても馬耳東風、右から入ってそのまま左に抜けていくだけである。
同時に、面と向かって白に綺麗だという者もそういないためこの考えは完治が難しい。
「とにかくこれでギルマスさんの言ってたクラン結成の条件は達成できたよね」
「そうなるね。といってもほぼパーティー兼クランみたいなもんだけど」
「最初はそんなもんやろ。うちは人数増えて食べさせがいがありそうで楽しみや!新しいダンジョンにも本格的に挑戦すんのやろ?」
「そのつもり。もちろん最初はお試し、試運転もかねて見晴らしのいいところがいいかな」
「ゴブ穴だけは行きたくないから助かるわぁ。臭いし狭いしおまけに食材もないからな」
「絶ちゃん的にゴブリンは食材じゃないんだ?」
「あれを食材と認めたくはないなぁ…………スキルは食材判定やけど」
絶歌のスキルは食材なら何でも切れるからやろうと思えばできるんだろうけど……うん。私もあれを食材だと思いたくはないね。
放課後に聖さんも含めてクランの結成届をギルドに出しに行くことになっているけど大丈夫かなぁ。聖さんは問題ない、頼れるお姉さんだ。問題は————
「天道さんも来るんだよね……」
「白ちゃん大丈夫?」
「うん、さっき天道さんに連絡したら……」
屋上に行く前、日向に聖さんのパーティー加入を言ったときのこと
「あ、そうだ。天道さんにも伝えておかないと。『ダンジョンに入る前に少し時間をもらえますか?』あ、すぐ既読になった。『わかた、待ってる』もしかして忙しかったのかな?誤字してる」
忙しいのかなと思って少し時間をおいてスマホを開きクランの結成届を出すことを伝えた。その返信が……ちょっと怖かった。
普通の文のはずなんだけど言葉の端々から何というか初めて会った時のような圧を感じた。
と思いきや、急にスンって静かになったから余計に。
「うーん、がんばれ白ちゃん!」
「日向の役立たずぅ!」
そして、放課後
「しろー!待ってたわ!」
ギルド前に尻尾を振り回す幻覚が見える天道さんがいた。たまに日向にも猫耳と尻尾が見えるけど天道さんは飼い犬みたいな幻覚が見える。
「こ、こんにちは天道さん。」
「環奈って呼んで」
「か、環奈さん……」
す、すごい。尻尾が垂れ下がるオプション付きだ!?名前で呼んだ瞬間、まるで扇風機みたいに回り始めてる。
なんとなくこの人の接し方がわかってきた気がする。
「それでぇあと一人来るのよね?少し時間時間かかるのかしら?」
「そうですね……あと20分くらいで来るはずです。」
「なら、白。お願い聞いてくれない?」
「お願いですか?」
「えぇ!ほら、加入するとき言ったじゃない」
ま、まさか!待って、ここギルドの正面だよ!?こんな場所で言うつもり!?
「少しでいいからぁ罵倒してくれない?こう、蔑む感じで!!」
周囲の人たちが一気にざわざわし始める。中にはスマホをいじり始めた人もいる。確か日向が掲示板とか言ってたやつに書き込んでるの!?ま、まずいぃ!
「環奈さん!少し人の少ないとこ行きますよ!」
「やぁん、そんな積極的だなんて……」
「うっさい!そんなことより人目がやばいので避難するんです!」
「白ちゃんどこ行くの!?絶ちゃん追いかけるよ!」
普段使わないような口調で環奈さんを引きずりながら人の目が少ない場所に移動する。無意識に体を魔纏で強化して移動していたのは早くこの場から移動したい気持ちの影響だろうか。
「はぁはぁ、いいですか?確かに私は偶にならいいとは言いました!でもあんなところで言わなくても!」
「ごめんなさい……そういえば目立つのは苦手なのよね、少しはしゃぎすぎたわ」
「まったく、環奈さんのその変態癖を否定しませんけど場所をわきまえてください」
「はい。な、ならダンジョンの中なら人目もないしいいわよね!?」
「日向がこれからは配信すると言ってたので配信外でですよ?」
「配信中でも……だめ?元気出るんだけど」
「黙ってください、変態」
「~~~~!やっぱりその目がイイ!もっと蔑んで!?」
遅れて日向と絶歌が二人を追いかけて到着する。
そこには体を小刻みに震わせながら顔を蕩けさせている環奈といやいやとは思えないほどノリノリで罵倒している白の姿、そしてギルドに向かう途中にたまたま白の声を聴きやってきた聖の三人がいた。
「聖さん!?いつの間に……というか居たのなら白ちゃん止めてくださいよ!」
「日向さん、いえその、人にはいろんな秘密があるものですし……神様は寛容ですから」
「いや、歯止めが効かなくなってるだけなので今すぐ止めますよ!?白ちゃん、スト―ープ!」
「あ、日向。環奈さんがどうしてもっていうから。外で言わないようにお願いしておいたよ!」
「そっかぁ~」
「白ぉ〜好きー!」
頬を赤く染めて白に抱きつく環奈さんを白はガシッと顔を掴んで止める。ちょっとはぁはぁ言っててゾクっとしてくる。
「白ちゃんから離れろー!白ちゃんもそのSっけしまって、聖さん来てるよ!」
まさにカオス。
日向は白と環奈を引き剥がすが白の上手く治らないSの雰囲気に内心、ゾクっとしている。環奈のことをとやかく言えたものではない。
聖と絶歌は共に立ち尽くして見ているだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます