第56話 魔力欠乏

「聖さんいますか?」


 日向に話した心当たり、聖さんに会うために転身の神殿にやってきたのだけど……


「あれ、居ないのかな。聖さーん!」

「白さん、どうしましたか?もしかしてまた魔法について何か質問ですか?」


 あ、よかった。また倒れてるかと思ったよ。


「今日は別のことで来ました。聖さんって元探索者なんですよね?今私たち回復できる人を探してて……」

「……今日は勧誘してくる人がいっぱい来ますね」

「今何か言いましたか?」

「いえ、こちらの話なので」

「?」


(なんだかいつもより元気ないのかな。声もそうだけど顔色が悪い気がする)


「ごめんなさい、私はもう探索者はできません。なの、で————」

「聖さん!?」


 やっぱり具合悪かったんじゃ!どうしよう……熱は―—冷たいっこれ普通じゃないくらい身体が冷えてる!!私は聖さんみたいに回復はできないし……そうだ!


(外は今曇り……いけるかな)


 闇魔法を発動して背中に羽のように展開!あとは吹っ飛ぶだけ!


「助けますからね!」


 向かった先は子猫の憩い亭。救急車を待ってる暇はないと一番頼りになる人に助けてもらうことにした。

 勢いよく扉を開けて蓮さんに助けを求める。


「蓮さん!助けてください!」

「白さん!?————ッ!すぐに店の奥に!!」


 勢いよく飛び込んできた私に驚いた蓮さんはすぐに状況を理解してくれた。店の奥にあった休憩室のベットに聖さんを寝かせる。


「白さん、聖に魔力流しを!」

「はいッ!」


 疑問の余地もない雰囲気に私は蓮さんの指示に従う。魔力を流していくと次第に顔色がよくなって―———嘘……どんどん魔力が抜けていく!?


「やめないでずっと送ってください!」


 こちらが魔力切れになりそうなくらい送っていくとやっと魔力がたまり始めた。


「ここまでくれば何とかなりますね……私は知り合いに連絡するのでそこにある魔力ポーションを彼女に飲ませてあげてください」

「はぁはぁ、わかり、ました」


 寝ている聖さんに少しずつポーションを飲ませていく。けど、意識がないからかうまく飲んでくれない。


「もう一度も二度も変わらないよね。救命行為だし!」


 ポーションを口に含んで聖さんに口移しで飲ませていく。舌がのどの奥につまらないように舌で舌を固定する。


「これで、いいかな。あとは蓮さんが戻ってくるのを待とう」


 しばらくして蓮さんが電話を終わらせて帰ってきた。


「ありがとうございます、白さん。あなたがいなければ聖が危ないところでした」

「聖さんと知り合いだったんですか?」

「ええ、彼女とは戦友といえるかもしれませんね」

「聖さんは………病気なんですか?」

「いえ、彼女は病気ではありません。彼女のこの症状は……呪いの影響です」


(呪いというと聖さんが治しているっていうあの?)


「それって聖さん本人が治せないんですか?」

「彼女では治せないらしいのです。私も良くは知らないのですが」


 そこまで話をしたところで店の鈴がなった。


「どうやら一番事情を知っている人が来たようです。少し待ってください」


 事情を知っている人って誰だろう。蓮さんの知り合いって言うと日向のお父さんのクランの人かな。


「戻りました、この人が———」

「紫藤さん!?」

「おや、既に知り合いでしたか」


 つい最近出会った人ではあるけどこの人を忘れることはない。


「聖!」


 紫藤さんは私のことなど目にも留めず聖さんのもとに駆け寄る。その様子はギルドの時と違い頼りなく感じた。


「良かった、無事みたいだ。まさか君が聖を助けてくれるとはありがとう」

「わわっ!?頭を上げてください!私も聖さんにはお世話になってるので……」

「そうか……でも感謝させてくれ。僕にとって聖は恩人なんだ」


 今目の前にいるのは探索者としてではなく紫藤光輝という一人の人間だと私は理解する。自信に満ちた顔は頼りなさそうに変わっていて、眉毛も下に下がっている。


「聖さんはどうしてこんな風に?」

「昔、聖は僕のクランのヒーラーだったんだ。それがネームドの最後の最後の一撃によって呪いを受けてしまって……解呪に使う光魔法を受けつかない特殊な呪いを身に宿してしまったんだ」

「それがあの魔力が抜けていく状態の正体ですか」

「ああ……」


 魔法を使えばだれでも魔力は減るし私だって魔力切れになったことはあるけど聖さんのあの症状はそれとは明らかに違うと感じた。


「常時魔力が体外に放出される呪い……常人ならすぐに倒れる量を聖は垂れ流しているんだ。魔力切れになった後に更に放出されそうになるとこうやって倒れることがあるらしい」

「治し方はないんですか?」

「僕のクランの古株も探しているが未だ見つかってないんだ。もし、あるとするならアーティファクトそれから―———」

「闇魔法、です」

「!」

「聖!」


 気が付くと聖さんが目を覚ましていた。なんというかいつもの聖母のような雰囲気が感じなくて気配がないような……


「白さん、私は一つ誤らないといけないことがあります。以前、私が光魔法と闇魔法は対極だと話したのを覚えていますか?」

「はい」

「私の呪いは光魔法を受け付けない代わりに闇魔法なら解呪できるという反転呪法というものです。白さんが闇魔法を持っていると知った時……いえ、白さんと魔力流しをしたときから白さんが成長して直してくれるかもと打算で接していました。ごめんなさい」


 ベットに横になっていたのは聖母ではなく弱っている一人の女性だった。


「謝らないでください。私も聖さんに甘えてました。色眼鏡で見ない聖さんの視線は私にとって心地の良いものでした。だから謝らないでください」

「ありがとう……」

「それで、私の魔法で治すことができるんですか?」

「いや、今の君の魔法だとレベル不足だね。対処療法がせいぜいだろう」

「そんな……!」

「だから、僕たちがサポートする」

「え?でも私は自分のクランを作るつもりです。紫藤さんのクランには」


 勧誘はまだあきらめて田舎たのかと思ったのだけどどうやら違うようで紫藤さんは続けて話をする。


「いや、それはもういい。本来、聖を助けられる人材を探す目的だったからね。強引なことをして申し訳なかった。情報だろうが力だろうが武具だろうがなんだって協力する。だから強くなってくれ」

「はい!」

「私も協力します。確かヒーラーを探しているんですよね」

「え、でも……」


(魔力を使っちゃうとまたたおれちゃうんじゃ……)


「白さんが強くなるのを私も協力します!幸い、ダンジョンならそうそう枯渇はしませんから」


 聖さんの決心のついたような顔を見たら止められないとわかった。だってパーティーのみんなと同じ顔してる。


後書き


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