第54話 勧誘

「起きてくださーい!」

「おぉ……!天使がいる、ここがヴァルハラか……」


 全然起きないからビンタしたけどまだダメなの!?それにこれ以上叩いたら何かやばい気がするし……


「ほい」

「はぐぅ!?」


 絶歌が何か袋を鮮血姫さんに嗅がせると元の顔に戻った。


「その袋なんなの?」

「これはな、数種類のミントを合成した匂い消し袋や。臭みの強い肉とかに使うんやが……まぁ急に鼻ん中に清涼感たっぷりの匂い嗅がされたら起きるやろ」


 なるほど、その手があったか。


「あれ、私をいい感じで罵倒してくれる天使は何処に?」

「そんなものいません。馬鹿なこと言ってないで帰りますよー」


 二人がもう戦える雰囲気じゃなくなってるからね。絶歌と話し合った結果、今日はここまでにしようとなった。


 ダンジョンから出てもまだ戻ってこない日向をそろそろ現実に引き戻さないと。


「戻ってこーい!うりゃ」

「うにゃ!?」


 日向に効くのはやはり耳なので思いっきり揉みしだいてみる。


「あれ、いつの間に外に戻って?」

「日向と鮮血姫さんがダンジョンに潜る雰囲気してないから帰ってきたの!そんなに何かあった?」

「あ、ごめん……なんでもないから!」

「そう?」


 そんな会話をしていたら正気に戻った鮮血姫さんが会話に混ざってきた。


「ごめんなさいね、ちょっと楽しくって羽目を外しすぎたわ。それとまだ名前を名乗ってなかったわね、いつまでもその二つ名で呼ばれるのはこそばゆいかなって」


 そういえばまだ名前書いてなかったっけ。てっきり本名を隠してるのかと思ってたよ。


「【天道 環奈てんどう かんな】よ。よろしくね」


 それから各々自己紹介をしていった。急にダンジョンに入ることになったからそう言うことをするのを忘れてたよ……


「それじゃ私と環奈さんはパーティー申請してくるね。」

「うちもダンジョンで取れた素材を換金してくる!」


 それぞれギルドの窓口に向かっていって私一人だけ待っていることになった。暇だなぁ。


「おい、アレって!」

「紫藤だ」

「最強様がなんでこんなところに?いつも部下が来るだろ?」


(なんだろう、入口の方が騒がしいな。)


 そう思ったあと、騒がしさはどんどん私の方に広がって、いや、近づいてきた。


「やぁ、少し時間いいかな?」


 私に話しかけてきたのは日向と買い物をしていた時にあった人だった。


「改めて、僕の名は【紫藤 光輝】。一応、【比翼の鳥】のクランマスターをしているよ。今日は君に用があってきたんだ」

「私に?」

「僕のクランに加入する気はないかい?」


 それはある意味で断崖絶壁、崖の端まで追い詰められた気分だった。ギルドにいる人がみんな私を注目してる。私の動きの一つ一つを固唾を飲んで見守る視線が至る所から感じて背中に一筋、水滴が流れ落ちるのを感じた。


「私は……」


 人混みは苦手だし、私を見る視線は体がすくむけど、それでも!日向との約束を守りたいから!


「ごめんなさい!私は貴方のクランには入れません」


 ギルド内はざわついてきて、一気に視界が狭くなるけど、頑張らないと。


「どうしてもダメかい?待遇はいいものを用意するし、装備だって用意するよ」

「はいはい、やめましょ?あなたの悪い癖よ、紫藤。こんなギルドの真ん中で勧誘なんてするものじゃないわ。いくら、白が魅力的だろうとね?」


 口を開く前に私の肩に手を置いて助けてくれたのは天道さんだった。


「天道……君がこの子の肩を持つなんてね。どういう風の吹き回しだい?君はずっとソロだと思ってたんだけど」


「別に組みたい相手がいなかっただけ。貴方つまらないし」

「そうか、なら今日のところは帰るとしよう。いつでも歓迎するからね」


 そう言って紫藤さんは帰っていった。


「ありがとうございます、天道さん。助かりました」

「いいの、紫藤はああいう性格だから私嫌いなのよ。」


 しばらくして日向達も帰ってきた。


「ごめん、白ちゃん!紫藤さんが来てることは分かったんだけど白ちゃんのところに行こうとしたら止められちゃって。比翼のメンバーだったから確信犯よあの人!」

「紫藤は面白そうな新人は囲みたがるからね。大体の子はクランに入るけどそうじゃなさそうな子はさっきみたいにすることがあるから気をつけて」


 ダンジョンに入って強くなって日光を浴びたかっただけなのにいつの間にか大変なことになっちゃったなぁ。


「やっぱり早めにクランを作った方が良さそうだね。天道さんはもし勧誘したら入ってくれます?」

「もちろん!」

「となると、あと1人か……出来れば回復出来る人が欲しいところだよね。白ちゃんはどう思う?」


 回復出来る人、かぁ。思いつくのは1人だけいるけど……


「うーん、いないことも無いんだけど今度聞いてみるよ」

「取り敢えずは天道さんが入ってくれたことで一歩前進かな、タンクとして頼りにしてますからね」

「任せといて!それでそのぉ、白にお願いなんだけどたまにでいいから罵倒してくれるとぉ嬉しいな」

「はぁ、わかりました。偶にですからねー」

「ありがと、白ー!」


(日向ぼっこ、したかっただけなのになぁ)



後書き


ここまで読んでくれてありがとうございます!

面白いと思ったら星とフォローをお願いします!作者が狂喜乱舞して喜びます。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る