第53話 最強の変態

「それじゃ、ダンジョンに行きましょ!私の力をアピールしてしっかりとパーティーメンバーに入れてもらわないと、ね?」


「私たち、まだEランクのダンジョンに入ったことなくて出来ればFランクダンジョンにしたいんですけど……」


 日向は珍しく緊張した様子で鮮血姫さんに提案する。


「それじゃあ、つまらないじゃない!それにFランクだとここにいる人なら一人でもなんとかなるよね?」


 まぁ、確かに……ピンチになるほどじゃない


「確かにそうですね……絶ちゃんはどう?」


「うちはどこでもいいっていうか……新しい食材があるなら大歓迎や!」


 絶歌はそうだよね、うん。新しい料理も食べたいし新しい景色を見てみたいな。きっと景色が変わればまた違った日向ぼっこの気持ちよさがあるかも!


「わたしもEランクダンジョンに行ってみたい!」


「こうなったら反対する理由もないか……それで?どこに行きますか?」


 日向がそう質問した瞬間、鮮血姫さんの雰囲気がしっかりとしたお姉さんからこの前の怖い気配に変化した。


「もちろん、行くのは決まってるじゃない……暴力と略奪の恩讐満ちたゴブリンの巣穴よ!ふへへ」


 私にだけ見えるようによだれ垂らすのやめません?



◇◇


『ぎゃgyがyがygyが!』


 薄汚れた小鬼は目の前の獲物に向かって突進してくる。手にはぼろぼろの剣や鉈を持って振りかぶる。


「あ~いいわ~この殺気と身体を舐めまわす視線!最高だと思わない!?」


 顔を紅潮させ、はぁはぁ言っている獲物にさしものゴブリンといえど逡巡する。ただ、彼らの本能はそれを乗り越えて目の前の豊潤なにおいを漂わせる女に武器を振り下ろす。


「ごふっ!あぁ……いいわよ、もっと!」


 女は全く抵抗せずに切り刻まれ、服もどんどん破かれていく。


「鮮血姫さん!!」


 ゴブリンは気の住むまで切り刻んだところでおかしいことに気が付く。「あれ、この女切っても倒れないしなんかはぁはぁ言ってるな。同類か?」と。


「もう終わり?まぁなんかいつもより気持ち良くないからいっかー」


 身体はすでにボロボロ、服はズタズタで真っ赤に染まっているが、平気そうな鮮血姫は体に魔力を纏う。


「【負傷反射壁ペインシェアリング】」


 周囲に透明な壁を展開し、それに触れたゴブリンは体に切り傷を大量に作り消滅した。


「ふぅーきもちいいー!」



◇◇


 それから何度か抗戦を行い、白たちは【安全領域セーフゾーン】に戻ってきた。


「どうだったー?私の戦闘は」


「その、凄かったです。いろいろと……」


 日向が代表して答えたが、一同の思っていることは一つ。



『もっと傷つかなくても戦えるのでは?』


 そもそもとして、壁で防げるのなら防ぐべきだしわざと攻撃を受ける意味もないのではないか。そう言った考えを3人は彼女に向けた。


「うんうん、言いたいことはわかるよ。ただ私のスキルはそう便利な物じゃなくてねー。ほら、少し触ってみて?」


 鮮血姫さんがさっきのスキルを発動させたからポーションを片手に持って少し触ってみる。あれ?何ともない。ポーションを準備する必要もなかったかな。


「ね?」


 鮮血姫さんはニコニコ笑いながらスキルを解除した。


「もしかして……カウンターの類ですか?」


「正解!私の受けたダメージを壁に触れた相手に共有する効果があるの。ただ、今みたいに私が傷を負ってないと意味無いんだよねー。」


 さらっと言うけどそれってかなり使い辛くて痛いんじゃ!?


「最っ高のスキルだと思わない!?私が受けたダメージを相手に与えて敵を倒せるからパーティーの役に立つし、私は痛みを知れるからwin winなの!」


「はい?」


 訳がわからないんだけど……!?痛いんだよね?そういえばあの時も……


 白は昨日ポーションを飲ませた時に逆ギレされたことを思い出した。


 痛いのを味わっていたかったってこと!?そんな人居るんだ……………いや、私も大概かな?


「でも、一々攻撃を喰らっていたらすぐに死んでしまいません?私たちはまだ貴女を守りながらは戦えませんよ?」

「そこは大丈夫!勝手に治るから!」


 よく見たら服とか体の傷も綺麗に治ってる。これもスキル?


「【オートヒーリング】魔力の続く限り傷を治してくれるスキルよ。それに服は【フェニックスの羽衣】って言うアーティファクトでね?勝手に直るから重宝してるの。」


 前に日向が言っていた弱点を補うスキルとか装備を使うことのある意味完成系なのかな。私もこのローブを使ってるし。


「そう言う訳だからどんなに囲まれてもみんな守れる頼れるお姉さんを仲間に入れてくれない?」


 日向は私と絶歌の方を振り向いて確認してから鮮血姫さんの方に向き直る。


「ここまで強い人がパーティーに加入してくれるのは正直嬉しいです。ただ、貴女にとって私たちのパーティーにそこまでの魅力はないと思うんですけど……」


「そんな事ないわよー?私はこのパーティーに入れればそれで良いの。生放送を観たけどこのパーティーはもっと強くなれると思うし……何より女の子だけなのが良いッ」


 いつの間にか日向の後ろに!?


「ちょっ!?」


「男がいるパーティーだと身の危険を感じるのよねぇ。………………虐めてくれないし」


「どこ触って、にゃあ!?耳はダメぇ!」


 ……………まだパーティーに参加するのは良いとして……………


「日向は私のなんだから返しなさいっ!」

「あふんっ」


 鮮血姫さんにすかさずチョップを喰らわせて日向を奪還する。日向はちょっと顔を赤らめてるけど無事かな。


「わ、私のって…………そんなぁ、うへへ」


 何か喋ってるけど無事だね。


「あぁ!やっぱり貴女のその目!良いわねgood!」


 日向以上に顔を赤くして息も荒い鮮血姫変態が起き上がってくる。


「日向にちょっかい出さないって誓えます?」


「誓うならもう一回その目してくれる!?」


「まぁ、はい。」


 正直、ここまで個性の強い人は初めて観た。これが【ドM】って言うやつなのかな。…………あまり関わりたくないけどしょうがない。


「ち、誓うから少し罵倒してくれないかしらッ」


「近寄らないでもらえます?変態さん?」


「はうっ!」


 まさに昇天するかのような安らかな顔で再び鮮血姫は倒れた。


 ここまで空気だった絶歌はというと………


「お、大人の世界すぎるよぉ。」


 少し離れたところから顔を手で隠しているものの隙間から見ていた。

 普段の関西弁は父が喋っていたのを真似した物なのだがこういう気が動転した時は素が出るのである。



後書き


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