第47話 side料理人

「さぁ、めしあがれ!」

「「いたたきまーす!」」


 うちが作ったシチューを美味しそうに食べる二人を見ているとおぼろげな記憶を思い出しそうになる。

 小学生になる前、パパとママは事故にあった。誕生日にできるだけうちが食べられるものを買いに出かけた先での出来事だったらしい。

 いつもうちのために食べられるものを作ってくれたママの得意料理は具の入っていないシチュー。ほぼシチューの体をなしていないけども十分内にはごちそうだった。


「おいしー!」

「うん、今まで食べたシチューの中でも一番美味しいかも!」


 ワイワイ話しながら食卓を囲むことなんて久しぶりすぎて何を話して良いか分からない。けれども久しぶりに感じた人の温かみに癒されたのは確かだ。


「世辞でも嬉しいなぁ。まだおかわりできるから食べたかったら言ってなー?」


 母の味と言うものがあるとすれば恐らくそれはあの具なしのシチューだと思う。既に顔や声がかすんで思い出せなくなって来ていてもあの味だけは忘れることはなかった。

 うちの食べれない食材はとことん抜いたシチューでも美味しく感じたのはきっと愛情が代わりに入っていたからだと思う。

 なら、うちもそんな風になりたいと思うのは自然ではないだろうか。


「おかわり!」

「日向は食べるの速いねー私も!」

「はいはい、ちょっと待っててなー!」


 シチューを注いで戻るとうちを待つ二人の姿が見える。かつて、ママのシチューを楽しみにしている自分に重なって思わず苦笑する。


「おかわり持って来たでー!」

「「待ってました!」」


 待ち侘びたようにシチューの皿を受け取る二人は食べ始める。

 日向はよほど美味しかったのか冷まさずに口にスプーンを運ぶ。


「そんなに急がんでもシチューは逃げないで?」

「大丈夫、火傷なんてしな……〜〜!」


 言ったそばから熱かったのか腕をパタパタ動かしながら悶絶する。


「あっははは!だから言ったのに!ほら、水。」

「あひがとう……あ"〜死ぬかと思った。」

「そんなに急ぐから……私みたいに落ち着いて食べれば火傷なんて、熱っ!?」


 まるでコントのように二人揃ってシチューで火傷した二人を見て笑ってしまう。


「ぷふっあー面白い。仲良いなぁ、双子みたいや。」

「ちょちょ!?泣いてるの?」

「ありゃ?なんでやろ、別に泣くつもりなんてなかったんやけど……」


(おかしいな……別に悲しくなんてないんやけど。)


「す、すまん。ちょっとこっち見んといて。すぐに止まるから!」


 どうしても止まる様子のない涙は見せるのはこの楽しい雰囲気を壊してしまうと背を向ける。


(涙なんて最後に流したのがいつかなんて忘れるくらい流してなかったのに。)


 ダムが決壊したように止まらない。

 

「大丈夫、辛い時には誤魔化さないで吐き出したほうがいいよ。受け売りだけどね。」


 白が後ろから抱きしめてくる。真っ白な雪のような肌と違いとても温かく感じる。


「…………ありがとなぁ。ならもう少しだけこうさせてくれ。」



◇◇


「よーし復活!ありがとうな、白。」

「いいよ、それにしてもどうしたの?」


 泣き出した理由を聞いてくる白。それは聖が自分の吐き出したことをやさしく聞いてくれていたからであり自分もしてあげようという優しさからだった。


「えーあーっと……」


 まさか人の温かみを感じて泣いたなど言えないのだが、白の抱擁を続けてといった手前言わなければならない状況だった。


「ちょっと久しぶりにこんな楽しい食事をして感極まってなぁ…うち、一人暮らし言うたけどほんとはずいぶん前に親が事故で死んでしもうたから一人だったんよ。シチューもな、ママの得意料理でなぁ。ぐずっ」


(あぁやばい、思い出したらまた涙が……)


「そっか、なら今度から一緒に食べる?」

「え?」

「私の家はこんなに広いのにお父さんたちはいないし、空き部屋もあるからね。もしよければだけど。」

「ええんか?たまに情緒不安定になるかもしれんよ?さっきみたいに泣き出すかも。」

「大丈夫、またさっきみたいに話聞いてあげる。涙なんか出せるときに出した方がいいんだよ。」

「私置いてきぼりなんだけど……まぁ白ちゃんが決めることに反対はしないかなぁ……居候だし。」

「ずびっなら世話になろうかな……よし、朝昼晩美味しい食事を出したる!これからもよろしく!」

「「うん!」」


こうして新たに白の家に居候が一人追加された。


「それじゃ、明日にでも家に戻って色々持ってこんとな……まず着替えがないと。」

「今日だけなら私の貸すよー?」

「ちょっと着れないかなぁーって。別に来たくないわけではなく。」


 白と絶歌の身長は確かに違う。しかしそれだけでなく————


「あぁ、白ちゃんって大きいもんね。」

「牛乳だけなのがいけんかったか……ママはそこそこだったはずなんやが……」


 自分の体を見ると幼少期からの栄養不足で発育が不十分な体。

 かたや、陶器のような肌にシミもなく見るからに自分とは違う物体を二つ搭載している白に少し羨望に似た嫉妬を感じざる負えない。


「あぁ、そういえば揉むと大きくなるとかいうんだっけ?今日はもう疲れたし早くお風呂に入って寝ようか~」

「そうやな、着替えは日向のを借りてもええか?」

「いいよー」


 目に怪しい光をともしながら白を置き去りにして話す愉快犯と料理人は白を風呂場に押していく。


「待って嫌な予感する!す、少し落ち着こう!?」

「うちの話聞いてくれるんやろ?悩み事があるんや風呂場で聞いてなぁー?」

「リビングで座って話せばいいよね!?そのほうが落ちつけると思わない!?」

「「はいはい、落ち着いてるからおとなしく揉ませろお風呂場に行こうね」」

「今なんか別のこと言おうとしなかった!?」


 バタバタと暴れる白を押しながら楽しそうに笑う絶歌であった。


後書き

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