第48話 傷だらけの血塗れ姫

 「昨日はひどい目にあったなぁ……」


 風呂場で揉みくちゃにされた後、3人で私のベットで寝ることに。私と日向に挟まれる形ですっぽり入った絶歌は若干不満げだったけどすぐに可愛らしい寝顔を見せてくれた。


 そんな絶歌は一度家に帰って荷物を持ってくるらしい。空き部屋に居候してもらう事になったわけだけど「手伝おうか?」と言ったところ慌てたように拒否されたので暇になった。

 日向も一度家に戻るらしい。


「よっと!」


 そういうわけで私は今、初心者の森の開けた場所で魔物を狩ってる。3人分の食費を稼がないといけないし、早めにレベルを上げたい気持ちもあるからね。


「魔纏は便利だよねー離れた位置の魔物も見えるし。ん?あれは………人!?すっごい怪我、助けに行こう!」


 獲物を探して周囲を索敵していた白が見たのは全身真っ赤に染まっている探索者の姿。明らかに血だと分かる痛々しい様子で肩で息をしている。

 そんな探索者にストーンディアのツノが迫る!


「届かない……!【闇魔法】」


 闇の弓矢を作り出して思いっきり力を込めて引き絞る。まるで銃声かのような音を鳴らしながら飛んだ矢はツノに探索者が貫かれる前に眉間に刺さった。


「大丈夫ですか!?」


 眉間に刺さったのと同時に倒れた探索者に駆け寄ると体の至る所から出血していた。


 迷ってる暇ないよね!ちょっと高いけど中級のポーション使おう。

 緑色のポーションを倒れる探索者に飲ませようとするけどなぜか飲んでくれない。このままだと死んじゃう、復活するけどここで放置しちゃうと魔物に襲われて痛い間に合うよね。


(これはファーストキスではなく救助だから!だし!)


 ポーションを口に含んで経口摂取させる。


「んぅっ!?」


 少し暴れてるけどすぐに治るからね、飲みやすいように舌を入れたのは許して!


「ふぅ、これで大丈夫。」


 唇から垂れてくる緑色の光る系を拭って起き上がるのを待つ。既に怪我は傷口が光り治っている。


「………んで」

「ん?」

「なんで、治したのよぉー!!!もう少しで一番いいところだったのに!」

「ええええええええええ!?」



◆◆


「全く、人の獲物を横取りしないとか常識でしょう?しかも……………………………キスとか。」

「ごめんなさい。危なそうだったから、つい。」

「どうせ死なないんだからほっとけばいいのに。お人好しねぇ、ん、あなた確かこの前話題になってた子よね?あれくらい強いならこのくらいの常識知ったきなさい。じゃあね。」


 そう言うとあの人はまた森に入っていった。



「何だったんだろう………うぅ私の始めてぇ無駄に使っちゃった〜。」


◆◆


「何なのあの子!まさかポーションを口移しするなんて。……………ファーストキスだったのにぃ。」


 身体だけでなく顔まで真っ赤にしながら歩く彼女は今度はホーンラビットに向かっていく。


◆◆


「そろそろ帰ろうかな。このくらいあれば足りるよね。」


 絶歌より持たされたマジックバックに素材を仕舞い込んでいく。


「便利だなぁ、中で勝手に整理してくれるし容量もいっぱい入って重く感じない。アーティファクトって凄い。」


 絶歌より渡されたバックはダンジョンで手に入れたもので、未だ魔道具化できないものの一つだ。空間拡張系の魔道具は開発が困難なものの一つでどう言う仕組みかわかっていない。

 一説には極小のダンジョンのようなものではないかとまで言われているらしい。


「全部、日向が教えてくれたことなんだけどねー。ダメだ、寂しくなって独り言が増えてる。日向ロスだ。」


 朝あったと言うのにもう寂しくなっている私はのそのそとダンジョンを出るために歩き出す。


「まだレベル上がらないなぁ、のわぁっ!?」


(何かにつまづいた!?魔物かな!?)


 つまづいた者を見た私は既視感を覚える。真っ赤なシルエットに長い髪、そして、ほぼ私服と変わらない軽装の女性。


「さっきの!この数時間で前より重症になってる………助けるかぁ。」


 勿体無いので低級ポーションを今度は口に突っ込む。「どうせ死にかけてるんだから窒息してもいいよね」と割と雑に突っ込んだ。


 ビクッとした後ゴキュッゴキュッという音と共に瓶の中のポーションを飲み干したと思ったら起き上がり開口一番「そう、それよ!あなた良いわね!!」と顔を赤くしながら言い放った。


「え?」



◆◆


「つまり?やられていたのではなくわざと攻撃を受けていた、と?」

「えぇ!身体を突き抜けるような衝撃…!芯に響くような衝撃…!全てが良い!」


(ツノに刺さったり鹿にタックルされてるだけだよね?何でこんなに興奮してるのぉ!?)


「それにしても最初は余計なことをと思ったけど良いわねあなた!」


(こっちに標的変えて来たー!)


「容赦のない瓶の突っ込み方…!蔑むような眼差し…!最高よ!!」


 「あ、関わらない方が良かった」と思った白だったが既に手遅れだった。肩に手を置かれて逃げ場はなく、日向や絶歌はここには居ないのだから。


「そのぅ、そろそろ帰ろうかなって……」

「え〜そうなの?今度一緒にダンジョン行きましょうよ!あなた運がいいもの、ネームドとか来そうだし。」

「えっとパーティーメンバーに聞いてみないと……それじゃ!」


 私は逃げた。

 外見などでその人を判断することなどない私だけど興奮した様子で詰め寄ってくるのは怖いよッ!それが無ければ美人な人なんだけど。


 後ろを追いかけて来ていないことを確認して私はダンジョンを後にした。


◆◆


「あぁ魔物以外にあんな良い子が居るなんて……ダンジョンって最高ね。」


 置いていかれた探索者の周囲に魔物が現れる。まるで合図でもしたかのように一斉に攻撃した魔物は自身と探索者の間に壁がある事に気がつく。


「……せっかく…余韻を楽しんでるのに……邪魔するんじゃないわよ!」


 刹那、全ての魔物は血みどろになって消滅した。


後書き

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