第41話 赤き月
この赤い狼と赤い空は何か関係があるの?
考えても仕方がないが、それでも白は考えずにはいられなかった。自身を一度殺した相手が普段とは違うダンジョンに狙ったように現れたのだから当然と言えば当然だが。
「白ちゃん、またあの狼がなんで現れたのかわからないけど。強くなった私たちならなんとかなる。いつも通りにやろう。」
日向の指示で作戦を開始する。私は矢ではなく槍を数本用意する。流石に矢のダメージではこの狼を倒せないと思ったから。
「それじゃ行くよ!【猫爪】【魔纏】!」
日向が勢いよく飛び出して赤い狼の脚をすれ違いざまに切り続ける。その間も溜めた槍を圧縮していく。
日向の体力も限界になった頃、合図が響く。
「白ちゃん!」
「いっけぇ!」
確実に仕留めた。そう確信するほどに槍は赤い狼に直撃した。魔纏により強くなった槍は狼を中心にして爆発した。
「はぁはぁはぁ流石に無事じゃ済まないでしょ。あの時の狼を倒した威力の数倍は上だもの。」
「うん、日向のおかげで動けもしないはずだし。」
爆発による土煙が晴れていくとそこには消滅どころか傷を少ししか食らっていない狼がいた。確かに脚を負傷していたが何故かそれも狼が纏う赤い光によって治っていった。
「ウソッあの魔法を喰らってピンピンしてるの!?それに再生能力付きって明らかにおかしいよ!白ちゃんコイツやばい!!」
明らかに普通とは違う赤い狼に私たちは動揺する。すると、日向がある提案をする。
「白ちゃん、先に謝っておくね。ごめん。今から生放送する。私たちが死んでも異常を確認した人たちがなんとかしてくれる。人にあまり見られたくないのは知ってるけど」
「うん、わかってる。それに日向とダンジョンに潜るって決めた時からそうなる覚悟はしてたから。」
日向がステータス画面と同じような透明な板を操作する。多分これで生放送されてるんだと思う。
「緊急事態発生、現在Fランクダンジョン、狼平原で明らかにおかしい赤い狼と接敵中!」
日向が早口で現状を伝える。その間も狼はわたしたちを狙ってくるわけで。
「日向の邪魔はさせないよ!【闇魔法】!」
ありったけの魔力で狼を牽制する。
「ありがとう、白ちゃん。伝えたいことは伝え終わったよ。後はできるだけコイツから情報を抜き出す!」
「分かった、作戦は?」
「いつもので、命大事に!」
日向がまたしても接近する。大きい図体で多分わたしたち二人分くらいある狼は日向を見つけられずにいた。
「意外となんとかなりそう……?でも嫌な予感がする。」
その予感は的中する。
赤い狼は日向を探すのをやめて息を大きく吸い込んで上を向く。その瞬間、鼓膜が破れるかと思うほどの遠吠えをしてきた。
ま、ずい。身体が動かない!?日向があの狼に殺されちゃう!
至近距離で浴びた日向は意識を失っていた。自身の近くで倒れている日向を見つけた赤い狼はその鋭い爪で引き裂くために前脚を大きく振り上げた。
ダメ!!あの時みたいな思いはしたくない!あの時みたいに手が届くのに動けないのも嫌!動いて私の身体!動いてよ!
それでも身体は動かなかった。
闇魔法は無理、魔力がない、血液操作も血が無いから出来ない。どうしたら!?
そこで脳裏に浮かんだのは赤い餅のような仲間の存在。
「【眷属召喚】大福、日向を助けて!」
呼び出された後すぐに状況を察した大福は日向と赤い狼の間に滑り込んで前脚を弾き返した。
だが、それで精一杯。振り落とされたために微かに当たっていたのかバラバラに切り裂かれてしまう。
「大福!そんな、ごめん。」
自身がそうなるように呼び出したのだからこうなることはわかっていた。それでも日向を助けたかった。
跳ね返された狼はもう一度日向に攻撃を仕掛けようとする。
もう大福に守ってもらうこともできない。私がどうにかしないと!
そこで白は自身がまだ発動していないスキルの存在を思い出した。
「【
以前発動した時は代償が必要と言われ、やめたスキル。だが、この緊急事態にそんな事を気にすることはなかった。
浮かんでいる透明な板を押し退けて発動させる。
代償はスキルポイントを20使う事。しかし、それを満たさなかったため、レベルすら一消費して発動した。
背中には神秘的な羽を生やし、口には牙が伸び、髪は普段のような白髪に変わっていった。そして、迸る魔力が形となって自身に纏っていく。それはまるでドレスアーマーのような服に変化した。それに伴って顔が見えてしまったのだがデメリットすら今の白には存在しない。
「今助ける!」
空中を滑るようにして移動し、狼を吹き飛ばす。
「大丈夫!?日向!」
「あれ?白ちゃん、髪の毛どうしたの?」
割と呑気な日向を抱えて空を飛ぶ。なんとなく力の使い方を本能的に自覚した白は狼を見下ろす。
「あれ、私今飛んでる!?」
一瞬思考も飛ばして日向を助けることだけ考えていた白は自身の変化にやっと気がついたのだった。
後書き
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