第36話 side日向 親子喧嘩
白ちゃんが転身の神殿にいる聖さんに魔法を教えてもらうっていうから私も蓮さんに魔纏の使い方を学ぼうと子猫の憩い亭に来たんだけど……
「やっぱりここにいやがった。ったく急に家を出ていったからびっくりしたぞ。おい、蓮。なんで俺に黙ってたんだよ。」
「日向ちゃんの為を思っての行動ですよ、それにいい加減子離れしなさい。もう、高校生なんですから。」
背の高く細身なのに妙に威圧感のあるこの人、私のお父さんが店にいた。
「私が出ていった理由は聞いたんでしょ?ならほっといてよ。これから蓮さんに魔纏を見てもらうんだから。」
「なに!俺を差し置いて蓮から教わってんのか?おい、なんで教えなかった。」
蓮さんにお父さんが突っかかる。だって、お父さん……
「あなた、全部グッだとかドーンとかでしか説明できないでしょう?それに貴方には仕事があるでしょう、そろそろ戻らないと大変なことになりますよ。」
いけいけ、蓮さん!お父さんを追い払って。
「別にいいだろ、明日やれば。それより日向の方が大事だ!取り敢えずしなねぇように鍛えないとな。」
「あぁもう、こうなると人の話を聞きませんよね。すみません、日向ちゃん。今日はお父さんが教えることになりそうです。」
くそぅ、ごねたときのお父さんのめんどくささに負けたかぁ。でも、強くなる為ならなんでも使わないとね。一応反省したみたいだし。
「しょうがないからお父さん、魔纏の使い方を教えて。」
「本当か!なら、家に……」
「戻らない。」
頭の上に『ガーーン』と見えるくらいわかりやすいなぁ。これを機に子離れすればいいんだ。
「まぁ良い、いずれ俺が恋しくなって戻ってくるさ。それじゃ、訓練場行くか。蓮、下使うぞ。」
「はいはい、日向ちゃんこっちに来てね。」
実は子猫の憩い亭には地下があって下にクラン専用の訓練場が併設されてる。魔力を使っての戦闘もできる優れもの。
「そんじゃ、魔纏使って俺に攻撃してみろ。」
「怪我しても知らないから!【魔纏】【猫爪】」
脚力を強化して全力の一撃を叩き込んだ。筈だったのに爪はいとも簡単にいなされてしまった。
「速度も前より良くなってる、威力もある。だけどな、手数が足りない。見えてる攻撃が一回だけなら防いでしまえばもう次がこねぇんだから怖くもなんともねぇ。」
確かに速さに翻弄されて次の攻撃までが遅いことには気がついてるけど出来ずにいた。
「そういう時はこうやるんだよっと」
お父さんが消えたように移動した後、私の後ろに現れてまた消えて元の位置に戻った。
正直今のを見てもよくわからなかった。ただ私より速いくらい。
「な?」
「いや、分かんないよ!?」
この人もある意味白ちゃんと同じ天才の部類。何となくどうすれば自分の理想の動きができるか分かるから上手く説明できない。
「全く、一人にしなくて正解でしたね。日向ちゃん、お父さんの動きで気になったことはないですか?」
気がついたら近くに蓮さんがいた。気がついたことって言われても……そういえば戻る時だけ姿が見えていた気がする。
「一瞬だけ姿が見えたけどそれのこと?」
「何で一瞬だけ日向ちゃんで見えたと思います?」
確かにお父さんなら一瞬でも私に見られるくらいの速度にする必要ないかな。速くなって、一瞬遅くなった後にまた加速した?………そうか!
「切り返しの時だけ速度を0にして切り返すってこと?」
「そういう事!なんだ、わかんじゃねぇか。蓮に諭された感じは癪だけどよ。ほれ、やってみろ。」
初速を最速にして、一瞬だけ0に!ってうわっ!?
速度を殺しきれなかった日向はそのままゴロゴロと転がってしまう。
「はぁはぁはぁ、よくあんなに、綺麗に、止まれるよね。」
「なんとなくギュッと止まってダッてやるんだよ。なぁ?」
「それでわかれば私はいらないんですよ。日向ちゃん、跳躍のブーツを使う時、着地の瞬間衝撃がゼロになるでしょう?あんな感じで魔力を使って止まってみるんです。速さのベクトルとは逆に体内の魔力を操作して相殺することでうまく止まれる筈です。」
とは言っても私、魔力コントロール得意じゃないんだよね……やるしかないか!
「魔力で逆に……」
もう一回全力で走った後体内の魔力を操作して速さを殺そうとする。一応は成功したんだけど、今度は両足の魔力量が違くて転んじゃった。
お父さんみたいな適当な人が何でここまで繊細なコントロールができるのか不思議でならない。
その後も何度も転びながらどうにか切り返しのやり方を身に付けたのだった。
「まぁまだ荒削りだが、形にはなったな。んで?この後どうすんだ。白とかいう奴と狼のとこ行くのか?」
今、きっと白ちゃんも自分の課題を克服するために頑張ってる筈。もし、解決したら狼にリベンジしても良いかも。
ポーションを飲みながら考えて、再び切り返しの練習に戻る日向であった。
後書き
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