第22話 雨降って地固まる

 気がつくと転身の神殿に私はいた。


「白さん、最近はうまく行っていたはずでは?もしかしてFランクダンジョンですか?」


 聖さんはすごく感が鋭い。きっと何人もの探索者を見てきたからなのかな。


「はい……狼にやられちゃって。うぇ?あはは、腰が抜けちゃったみたいです。」


 私は初めて自分が震えてる事に気がついた。あの時は日向を死なせたくない一心だったからわからなかった。


「……そういうものは誤魔化すと後々良くないことを起こします。ここには私しかいませんから好きなだけ気持ちを吐き出した方がいいですよ。」


 聖さんが抱きしめてくれた。前、魔力を流してくれたみたいに凄く優しくて落ち着く。ふいに、涙が溢れ出してくる。


「ぐすっごわかった!死んじゃうって思って、ぇぐっ、痛ぐで、日向が傍にいなくて怖かった!」

「大丈夫です、みんな最初は怖いものです。魔物を切る感触、斬られる感触、死ぬ実感。それを乗り越えて強くなっていくんです。だから今は溜め込まないで。」


 それから20分くらい泣いてた気がする。不思議と聖さんといると落ち着く気がして心の中の恐怖とかが薄れていった。


「ありがとうございました……その。」

「はい、ここで泣いていたことは内緒。ですよね?」

「お願いします……。」


 私が聖さんと話していると急に魔法陣が光り始めた。

 誰が出てくるのだろうと思ったら日向だった。なんで?どうして!?私、日向を守れなかった……?


「ぁ、白ちゃん。」

「日向、大丈夫!?痛くない!?怖くなかった?ごめんなさい、私何もできなくて。」


 元はと言えば私が油断して噛みつかれたからいけなかったんだ。日向が死んじゃったのも。


「ううん。全部私のせい。白ちゃんには攻撃が向かないだろうって油断してた。自分なら何とかなるって慢心もあった。」

「そんなことっ!私が油断して狼に噛まれたから……」

「違うのっ全部私が悪いの。私、白ちゃんに謝らないといけないことがある。初心者が行くならウルフ平原だっていうのは本当。でも、白ちゃんだけならゴーレム遺跡の方が攻略は簡単なんだよ。それを私は……自分がやり易い方に誘導した……。だから今回は……」


 日向が言いたいことは何となくわかったし、凄く後悔してることもわかった。でも、これだけは言っておきたい。


「私は!日向がいるならどこだって良かったんだよ?私、日向が必要としてくれて、一緒にダンジョンに行こうって言ってくれて嬉しかった。アバターを作ったあの日、誘ってくれなかったら一人でダンジョンに入ろうとしてた。きっとスライムにも勝てなくて平原にも出られなかったと思う。」


 今でも日光は浴びてみたいし、ダンジョンは少し怖いと思う。でも、日向がいるから私は頑張れる。


「これからも日向とダンジョンに潜りたいし、日光耐性をあげて一緒に日向ぼっこしたい!」

「……騙してたんだよ?自分勝手に白ちゃんを振り回して挙句、あのざま。それでも私とパーティーを組んでくれるの?」


 日向は声を震わせながら聞いてくる。きっと今の日向はパーティーに誘われた時の私だ。だからこそ、今度は私が引っ張ってあげる。


「私は、一人じゃ何もできないの。人混みは苦手だし、日傘がないと日陰から出られない。自分に自信が持てなくていつも端っこにいる。そんな私を引っ張り出してくれた日向が必要なの。」


 あの時言われた言葉を今度は私が。


「日向、一緒にダンジョンに潜ってくれないかな?」

「ゔん、こんな私だけどこれからも一緒にいていい?」

「勿論!勝手にいなくなられたら困るんだから!」


 日向が泣いた顔なんて初めて見たよ。きっと凄くいろんなことを考えて悩んでくれたんだと思う。聖さんがしてくれたことを日向にしてあげる。


「白ちゃんの魔力、凄く優しいね。お月様みたぃ。」

「疲れてたのかな、寝ちゃった。」


 日向は私が魔力を送ったら気持ちよさそうに眠っちゃった。このところ無理してたみたいだから休まるといいな。


「まさか、私の魔力流しを真似るとは思いませんでした。見たところ、日向さんは魂によくない傷ができていたので心配だったんです。」

「だ、大丈夫なんですか!?」


 確か呪いとかは死んでも持ち越しちゃうとか言ってたよね!?


「大丈夫ですよ。今、白さんが治しちゃいましたから。」

「へ?」


 魔力を流してリラックスできたらなぁと思っただけなんだけど。


「光魔法と闇魔法は特に精神と密接な関係がありますから。魔力を流してあげることで解消できるんですよ。白さん意外と神官向いてるのでは?」


 まさか。聖さんみたいなみんなを癒す聖母みたいなこと出来ないよ……


「日向が起きるまでここに居てもいいですか?私も、少し、疲れ、ました……。」


 白は精神的疲労で眠り始めた。寄り添いあって眠る二人はまるで姉妹のように見える。


「きっとお二人はいい探索者になりますよ。お二人の絆があればきっと。」


 聖は懐かしむように白と日向を見るのだった。


後書き

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