第21話 厄災の猫
日向の目の前で白が消滅した。それは日向にとって最悪の結末だった。自分が死ぬことは別にいい。だが、白が死ぬことは想定外だった。
ローブを渡した、より強くなれるように情報を渡した、敵が白に行かないように足止めをした。
そうしてまで白を死なせたくなかったのは日向自身、白が居なくなることを許容できなかったからだ。
それも、自分のエゴの為に白が死ぬ要因を作ったのならなおさら日向の心は砕ける寸前だった。
白ちゃんが……死んだ?それも苦痛に塗れて?私のせいだ。私がここに来ようなんて言ったから。大人しくゴーレム遺跡に行けばこんな事には……!
日向の心に渦巻くのは激しい後悔。自信の行いによって死なせてしまった事、それによって白が負ったであろう苦痛を想像しただけで嫌になる。
「このままじゃ、終われない……!白ちゃんに顔負け出来ない。命懸けで倒してくれたのに私がここで死んでどうするんだ。」
日向は自身の周りにいる五匹の狼を倒すことだけを考える。半ば八つ当たりに近いがそれでも、このまま死ぬことだけは出来なかった。
心の中で渦巻く後悔と懺悔は狼と相対する日向とは裏腹に高まっていく。それによって日向の
それは日向本人にすら隠された称号である。発動条件は日向の感情が高まった時。それも、マイナスの方向に。
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種類:アクティブ
厄災の猫はあらゆる厄災を自他共に振り撒く。悲しみに濡れた飼い猫は自身にも制御できない力に振り回される。幸福なるうちはただの飼い猫故に。
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この称号の効果。それは自身が攻撃した対象を1/5の確率で即死させるというもの。が、自身にも同じく1/5の確率で即死の判定が入る。
当然、日向はこの効果を知らない。だが、その狂爪は狼に迫る。
「【猫爪】!」
昂る感情に起因して日向の魔力が溢れ出す。それは本人の意思に反して彼女の体を強化していく。
身体が軽い。頭が沸騰する。目の前が赤くなっていく。
日向は弾丸のように群れの中に突っ込む。狼が反応できない速度で通り過ぎ、その瞬間に一撃を叩き込む。日向の攻撃は狼の体を抉るが、致命傷ほどではない。
弧を描くようにして反転した日向は続けて2撃目、3撃目と加えていく。
「はぁはぁはぁ、やっぱり私だけじゃ何ともならない……!」
厄災の猫が発動中とはいえその確率は高くない。未だ即死は発動せず倒せたのは一体のみ。むしろ、日向が即死しないことの方が奇跡だった。
日向がそれを自覚することはないのだがここまで日向に即死が起こらないのは二つ、理由があった。
一つ目は日向の種族にある。
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黒音日向
種族:
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幸運を振り撒き横切ったものに不運をもたらす運命の猫である。ただ、日向は自身の命を狼を倒したらどうでもいいと考えている為そこまで意味をなしてはいない。
問題は日向の腕で輝くブレスレットであった。白の送ったブレスレット【キャットアイリング】はアーティファクトである。
その発動条件は3つ。
一つ、装備者は誰かから譲渡された事
一つ、装備者が猫にまつわる者だという事
一つ、譲渡した者が装備者を想っている事
この条件を満たしたことで発動した効果の一つが『装備者をあらゆる厄災から守る』というもの。この発動条件が白が死んだ瞬間に発揮されたのだった。
日向が展開するキリングゾーンから出ることすらできずに狼は切り刻まれていく。もはや、日向は思考すらせずに全滅させることだけを目標にして攻撃していた。一体、また一体と即死が適用されても切り刻むその様子は普段の日向ではなかった。
それほどまでに白を失った日向は荒れていた。
そして、最後の一体を倒して全ての狼が消滅した。
「なん、とか、なった?もっと早く私が倒せてれば……あ、ブレスレットが光ってる。白ちゃんが助けてくれたんだ。」
日向はブレスレットを大事そうに抱えて倒れ込む。強制的な身体の強化と心身の疲労で動けなくなっていた。そして、ブレスレットからも光が消えていく。
白が死ぬ間際の想いがブレスレットを発動させたがそれも時間切れだった。
最後の一体が仲間を呼んでいたのか更に群れが日向に寄っていく。が、日向にすでに気力はなく、最後の一体に与えた一撃が自身にも即死効果を与えていた。
白ちゃんとのパーティーも終わりかなぁ……嫌だなぁ。傍にいるって決めたのに守れなかった。
日向は白がダンジョンがトラウマになったのではと危惧した。守ると言ったのにできなかった自分を責めるのではとも。
即死した日向は消滅したのち転身の神殿に戻るのだった。
後書き
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