第19話 side日向のダンジョン攻略

 涙を拭いて私は急いでお弁当を食べる。


 まさか白ちゃんからプレゼントを貰えるなんて思わなくて感極まって泣いちゃった。あの人混みが苦手な白ちゃんが、人通りの多い探索者通りで私のプレゼントを買いに行った光景を想像しただけで笑みが溢れてきちゃう。


 私の腕にぶら下がるブレスレットの宝石が日光でキラキラと光る。よく見ると猫の目みたいな模様がある。可愛い。


「日向、そろそろ授業始まるから教室に戻ろう?」

「あっもうそんな時間?ごめん、白ちゃんがくれたブレスレットが嬉しくてさー。」


 私たちは教室に戻るために階段を降りていく。


 本当に嬉しかったんだよ?中学生の頃にもプレゼントをくれた人はいたけど私よりもお父さんとのコネを作るためなのが透けて見えてた。


 けど、白ちゃんは違う。私だけのために買ってきてくれた。私だって少し後ろめたいことがある。強引に白ちゃんをパーティーに誘ったけど本来もっと人を誘った方がいいのにしない事。


 白ちゃんは私が遠慮して他の人たちと関わらないと思ってるかもだけど逆なんだ。私を私として見てくれる白ちゃんといたいの。だから白ちゃんがこんな私と一緒にいてくれるって言う言外の証は嬉しかったんだよ。


 だが日向はこの思いを白に話すことはない。それは白の目的を尊重しているからだ。白の目的である日向ぼっこをすること。

 それは早い段階で可能になる。きっともっと一緒にいたいなどと言えば、白は目的を果たした後も居てくれるだろう。

 だがそれは日向に付き合ってくれているだけであって現在のお互いのしたいことを果たす手段が同じである状態ではない。

 だから日向はその思いを話すことはない。


「よーし!ダンジョンに行こー!」

「うん!」


 私たちは放課後にダンジョンに潜ることにする。ただ、この前と違うことが一つ。


「Fランクダンジョンに潜るって言うけど、どんなダンジョンに潜るの?」

「Fランクダンジョンの中でも初心者向けなのはウルフ平原かなぁ。スライムのダンジョンと風景が変わらないし、攻撃力が低い初心者でも倒せるから。」


 ここでも私は少し後ろめたさを感じる。何故なら白ちゃん単体ならば屋内ダンジョン、『ゴーレム遺跡』のほうが相性がいいからだ。デメリットである日光はないし、闇魔法も避けられる心配もない。私が倒せないからウルフ型の魔物を倒しにいく。


 白ちゃんが早く強くなっていくことはより早く日光耐性を得てしまうこと。


 自身の醜悪さを気持ち悪く感じながら私はゲートに立つ。


「Fランク……これかな?日向、行こう!」

「……うん!」


 白ちゃんは私にとっての希望であり太陽。私のこの気持ち悪い気持ちも受け入れてしまえるんじゃないかと思ってしまう。


「また、神殿みたいな建物に転移したね。【安全領域セーフゾーン】は大体この建物なのかな?日向は何か知ってる?」

「うーん、知らないかなぁ。他にも違う建物だったりするかもだし、そもそも建物じゃないところもあるんじゃないかな。」


 私の知識はお父さんから聞かされた知識。だからそこまで万能ではないし、うる覚えだったりする。それでも白ちゃんに必要とされるこの感覚は自身を肯定される気がして嬉しい。


「一応、ウルフ型の魔物の注意点を言っておくね。スライムと違って群れで行動して連携してくるから、一人で倒そうとすると私たちだとほぼ負けちゃう。」

「連携が必要ってこと?」

「そう言うこと。私が引きつけて、白ちゃんが魔法で吹き飛ばす。スライムの時みたいにね。それにほら、ローブのおかげで気が付かれにくいから私だけが狙われると思う。信頼してるからね。」


 白ちゃんなら、私は全幅の信頼を寄せられる。きっと何とかなる。


「うーん、自信ないなぁ。私はまだ槍しか作れなくて一体ごとなら何とかなるけど群れだとこの前みたいに日向を巻き込んじゃう。」

「それは大丈夫。一体ずつ倒していって?それまでの時間は私が稼ぐから!」


 私の素早さでタンクの真似事をすればなんとかなる。白ちゃんには攻撃が向かないことがいい方向になる筈。


「大丈夫なら良いんだけど……。」

「大丈夫だって。」


 私が死んでも白ちゃんは戻ってくれば死ぬことはないからね。


「それじゃローブを被って?まず、一回やってみてそれから微調整して行こう!」

「うん、頑張る!」



 しばらく平原を探索すると3体で集まっている緑色の狼がいた。『グラスウルフ』だ。


「白ちゃん、私が接近して一体持っていくから私を狙ってくる個体をお願い。いける?」

「うん、日向をちゃんと守るからね!」


 白ちゃんが傍にいる。それだけで私は勇気が湧いてくる!


「行くよ!【猫爪】」


 お父さんからこの身体で戦う方法を教えてもらった。お父さんも悪戯で種族が変わってしまった一人。


「いいか?攻撃力がないなんて言うのはそこまでデメリットじゃない。確かに一撃の威力は下がるけどな、その分速力が大幅に上昇してるなら」


「攻撃力に速さを掛け合わせる!」


 体勢を低くして全力で駆け抜ける。いちいち止まって攻撃するのではなく辻斬りのように通り過ぎながら攻撃する。


 まるで槍のように直線的に加速した日向は走る音に反応した一体をその爪で断首する。

 しかし、群れがやられたことに動揺すら見せず一体が日向に攻撃をする。未だ身体を完全に制御できない日向は一度止まらなければ反転できない。


「【闇魔法】!」


 日向に襲いかかったグラスウルフは背後から飛来した闇の槍によって貫かれ、日向の左側に落下した。


「ナイス!!あと一体。【猫爪】」


 白ちゃんから飛んできた魔法に混乱している今!首がガラ空きだよっ


 最後のグラスウルフは首と身体は泣き別れとなった。残されたのは牙と爪、そして光の球であった。


後書き

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