第18話 伝える思いは言葉でなくとも
…………………あまり眠れなかった。きっと人に話せばどうでもいいかもしれないし気にしないことかもしれない。けど私にとっては一世一代のとても緊張することなんだ。
「日向に話したらなんて言うかな。」
私は日向にどうやって昨日買ったブレスレットを渡そうか悩んで遠足が楽しみな小学生みたいに眠れなかった。お母さんたちからプレゼントを貰うことはあっても誰かにあげることなんてしたことないから緊張する。
「取り敢えず学校に行く準備しないとね。」
私はいつも通りパンを焼いてジャムを塗ろうとする。だけど、ちょうどジャムが切れてた。
「あっそういえば買うの忘れてた……。」
しょうがないので何も付けずにそのまま食べる。食器を片付けて私はバックを持って玄関に向かう。日向に渡すブレスレットだけはしっかりとバックにしまったことを確認する。
「よし、あとは日向に渡すだけ。きっと喜んでくれる、よね。」
学校に着いた私はすぐに日向と合流した。
「おはよう、白ちゃん!昨日は大変楽しそうなことをしてましたなー?」
「えっ?何のことかなー。」
うぇえ!?もしかして私が日向にプレゼント買ってたことバレてる?
「昨日、スライムを沢山狩ってたでしょー。掲示板スレに白ちゃん載ってたよ?」
掲示板?ってなんだろう。やっぱり、私のこと変だとか書かれてたのかな。
「面白い新人だーとか、あのローブの下の顔は一体!?とか言われてたかな。多分白ちゃんが思ってることは書かれてないよ。」
日向は何で私の考えてることがわかるんだろう。私、口に出してないのに。
「白ちゃんは意外と表情に出やすいからねっ?ふふ、可愛い。」
「なっ」
そ、そんなに分かりやすいかなぁ!?うぅ、恥ずかしくて顔が赤くなってきた。あ、確かに分かりやすいな。
カーンコーンカーンコーン
「ほら、席につけー!授業始めるぞ。」
あ、しまった。日向に渡すの忘れてた。渡すタイミング間違えたかな。
その後も何度か渡そうと思ったけどことごとく何かが邪魔をしてタイミングを逃していった。
「お腹減ったー!そうだ、白ちゃん。屋上で食べようよ。私日傘持ってきたんだー。これなら二人で食べれるでしょ。」
「うん!」
よし!屋上なら邪魔は入らないし渡すチャンス!朝のジャムから空回りしてたけど今度こそ。
「よいしょっと。んー風が気持ちいいねー。ほら、白ちゃんもおいで!」
この日は雲がちょうどいい具合に出ていて日傘さえ差せば外でも昼ごはんが食べられる。私は日向とご飯を食べるこの時間が楽しくて仕方がない。ただ、少し思ってしまうこともあるけど。
「うん、今行く。」
「いやー。いつ見ても白ちゃんのお弁当は美味しそうだ!自分で作ってるんでしょ?」
「うん、冷凍食品も使ってるけどね。」
「そうだ、私のウインナーあげるから白ちゃんのおかずちょうだい!」
すごく友達っぽい!あげるあげる!あ、でも美味しくなかったらどうしよう。
「ん、おいし!白ちゃんは将来いいお嫁さんになりますな。」
「良かった、美味しくなかったらどうしようなんて思ってたから。」
そうしたら急に日向が私の頭を撫でてきた。なんだろう、すごく安心するぅ。
「美味しくなくても、不味くても、私は白ちゃんが作った料理は好きだし。きっと自分のせいで私に他の友達ができないなんて思ってることも私はどうでもいいの。白ちゃんがいてくれればそれで。」
日向はいつもの元気な様子とは違って湿っぽくそれでいてお母さんみたいだった。
そうだ、渡すならこのタイミングだよね。
「日向に渡したいものがあるの。これ、貰ってくれる?」
凄く緊張して手が震える。喉も唇も。でもさっき言ってくれた言葉で不思議と勇気が湧いてくる。
「私に?なんだろう。ここで開けてみてもいい?」
「うん。」
日向はどう思ってくれるかな。もし、変な反応されたら、気に入ってくれなかったら。そんな考えをしてたけどきっと喜んでくれる。
「ブレスレットだ!それにこの宝石……綺麗。本当に私にくれるの?」
「うん、日向にもらったローブには及ばないかもだけど。私の気持ち。」
どうだろう、気に入ってくれるかな。
日向の様子を伺っていたけど私は慌てる。日向の目から一筋の水滴が流れたから。
「ひ、日向!?えっブレスレット嫌いだった?」
「ううん、違うの。嬉しくて。ぐすっありがとう、これからもよろしくね。」
良かった、喜んでくれたみたい。急に涙を流した時はどうしたらいいか分からなかったよ。そこまで喜んでくれるなんて。
「付けてみて?日向に似合うと思って昨日、探索者通りで買ってきたの。」
「どう?似合ってるかな。」
日向の腕に合うように大きさを変えたブレスレットにはまるで日向の瞳のような宝石が輝くのだった。
キャッツアイの石言葉それは、「守護」「慈愛」そして、「未知の将来を見る」奇しくもそれは2月の誕生石、日向の誕生月でもあった。
後書き
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