第6話 偉い人?

 私たちは登録した時とは違う探索者専用カウンターと書かれた受付に向かう。

 登録の方の人より親身になってくれそうな気がする。だって聖さんみたいに優しそうな声だもの。


「今日はどのようなご用件ですか?」


「今日探索者登録をしたんですけど正式登録をしにきました。それであまり知られたくないこともあるのでギルドマスターを呼んでくれませんか?」


 私はよく分からないから何も言わないで少し後ろで二人の会話を見ていた。だけど受付の人の表情が少し曇ったのが見えた。


「ギルマスは忙しい人なのでそのような事でお呼びできません。個室を用意するのでそこでお聞きします。」


「そこを何とか!」


「ですから……!」


 ヒートアップして二人の声がギルドの中にいた人たちの注目を集めてきた。どうしよう、とめたほうがいいよね!


「日向っ……。」


 私が意を決して放った言葉を日向は聞き取った。自分の声が思ったより大きくなっていたことに気がついたみたい。


「ごめん、少し熱くなってた。」


「ううん、いいの。」


 日向の熱が落ち着いてきた矢先、受付の奥にある階段上の扉が壊れるくらいに音を立てて開いた。あっ扉の留め金が壊れてる!


「おい、うるせぇぞ!なに騒いでやがる。」


 降りてきたのはまるで熊みたいな筋肉質で体の大きい男の人だった。眉間に皺がよってて顔がすごく怖い。


「ギ、ギルマス……この子たちがギルマスに合わせろと。アポ取りも無しだったので追い返そうかと思って。」


「あほ、嬢ちゃんの顔よくみてみろ。どうしてもって顔してんじゃねぇか。そういうのと馬鹿みてぇな虚栄心で俺を呼び出す奴の見分けが出来て一流だぜ?んで?俺を呼び出したい要件って何だ?」


 ギルマスってことはこの人がギルドマスターさん?ギルマスさんが私たちの方に鋭い視線を向けてくる。

 でも、なんだろう。いつも向けられる視線と何か違う気がする。この人はちゃんと私をみてくれてる気がする。


「私とこの白ちゃんのアバター制作でちょっとハプニングがあってここじゃ話せないんです。」


「……なるほどな。よし、俺の部屋来い。」


 一言だけ伝えてギルマスさんは階段を登って行った。えっとついて行った方がいいのかな?


「ついて行った方がいいのかな、日向?」


「え、あ、うん!行こう!」


 私たちはカウンターの奥の階段を登ってさっき壊れた部屋の前まで来ると部屋から怒鳴り声が聞こえる。


「この馬鹿熊!何度言ったらわかるんですか?扉は開くもの!蹴破るものじゃないと何度言えば……!」


「す、すまん。受付がトラブってる音が聞こえたから……。」


 わ、私たちのせいでギルマスさんが怒られてる!?


「あ、あのぉ呼ばれてきたんですけど……。」


 私はギルマスさんが怒られるのを止めたくて頑張って話を中断させる。


「お、来たか!ちょうど良かった!」


「あ?後でまた説教しますから。」


「マジかぁ。で?ハプニングって言ってたが何があった。」


 私のことだから私が話さないとっ。えっと、日光浴,じゃなくて太陽に当たって死んだ・・・じゃない。えーと。


「【ダンジョンの悪戯】に合いました。それも、私と白ちゃん両方が。」


 私がどう説明したらいいか悩んでいたら日向が説明してくれた。え、でもまって両方?私だけじゃなくて?


「二人とも、か?なるほどな、それで俺か。そこのえーと、名前なんて言うんだ?」


「私が【黒音 日向】こっちの子が。」


「【夜雀 白】です!」


「黒音……もしかして豹牙の娘か!!なるほどなぁ、だから俺を呼んだわけか。【悪戯】の危険性をよくわかってる。」


 危険性……?【ダンジョンの悪戯】って知られるとダメなのかな。

 私は自分がまずい状況にいると思って手を握りしめる。少し手の中に汗が溜まって気持ち悪い。


「【悪戯】はデメリットこそあるがそれをあまりある圧倒的強さがある。それを妬む者も少なくない。で、何になった?」


「私は【獣人・猫】です。それは問題ないです。ただ、白ちゃんが問題で。」


「私は【吸血鬼】になってしまったんです。」


 私がそう伝えるとギルマスさんは凄く悩んだ顔をした。

 そんなにまずいのかな、吸血鬼。もしかして探索者になれない!?


「日向の嬢ちゃんはまぁ良いとして吸血鬼だな。獣人に関しては前にも居たからな。が吸血鬼に関しては初めて聞いた。相当やっかみも増えるだろう。だがそう言うことじゃないんだな?」


 ギルマスさんは私の方を向いて私から話すのを待ってくれていた。吸血鬼のデメリットを教えたらびっくりするかな。正直、全く強い気がしないんだよね。


「えっとデメリットが日光を浴びると死んじゃうんです。」


 ギルマスさんは物凄く眼を見開いて驚いた。

 私はここまで驚いた人を見るのは初めてかもしれない。この人凄く感情が顔に出やすいタイプみたい。


「そ、そうか。まさか日光とはな。確かにそれはキツイ。何せ初心者はあの日光で照らされてる平原しか行かないからな。うーん、どうしたものか。そうだ、【暗月の森】はどうだ?」


「暗月の森ですか?なんか暗そうですね……。」

 

 確かにデメリットは暗いところなら問題ない。私は死なないし、強くなれるかも。だけど。


「おう、背の高い樹木が広がってるダンジョンでな。出てくる魔物は初心者の平原と変わらんし。ただまるで夜みたいに暗いんだ。本来、暗視スキルを取得したい探索者が行くところなんだがどうだ?」


「白ちゃん、絶対そこに行くべきだよ!そこなら白ちゃんのデメリットも何とかなる!」


 確かにそうなんだけどぉ……


「日向ぼっこ……出来ないよね。」


「あっはっはっは!おもしれぇ嬢ちゃんだ!強くなることより日向ぼっこがしたいって!?」


 あ、凄いイラッとする。私の夢を笑われるのは初めてで悔しくなった。そもそもで言ったことある人なんて日向とお父さんたちだけだから当然と言えば当然なんだけど!


「日向ぼっこは凄い気持ちいい……筈なんです!私は日向ぼっこするために探索者になるんです!笑わないでください!」


「おぉう、悪い。」


 わかってくれれば良いんです!私はあの数秒の快感を忘れることはないと思う。あの時の快感を味わえるんだったら何でもする。

 そうしたら隣にいた女性がギルマスさんに話しかけていた。


「ギルマス、暗月の森は初心者では入ることが出来ません。あそこはランクD以上の探索者のみが入れる場所です。」


 ランクDって私が今ランクGだよね。三つも上なの!?絶対に無理だよ!でも、無理を言ってるのは私の方だからこのくらいが当然なのかな。


「そこを何とかするのがギルドマスターの仕事だろ?で、何とかならない?」


「こぉの馬鹿熊がぁ!私に仕事を増やさないでください。はぁ。まぁいいでしょう、でしたらランクDの探索者をパーティーに入れるか雇うかしたら許可しましょう。」


 ランクDの知り合いなんていない。それに吸血鬼の私じゃ日向の足手纏いだけじゃなくて他の人にまで迷惑かけちゃう。


「そんなの無理だろ。何とかならねぇ?」


「なりません。」


 ギルマスさんって偉い人?なんだよね。なんだか隣の人の方が上に見えるなぁ。ギルマスさんが凄く良くしてくれるけどこれ以上は高望みだと私は思った。

 

「あ、あのわかりました。探してみます!そこまでしなくても大丈夫なので……。」


 私は申し訳なくてその条件でいいと言うことにした。だってそもそもで行けないところを条件付きで行ってもいいって言ってくれたんだからそのくらいで満足しないとね。


「そうか?なんなら俺が言ってやってもいいんだが。」


 ギルマスさんが配慮してくれてるけど……


「私たちで探すので大丈夫です!ギルドマスターが初心者のお守りでダンジョンに入ってるなんてそれこそ妬まれますから。」


 日向が先に言ってくれた。私のためにここまでしてもらうと逆に申し訳なくなってくる。


「そうか、なら頑張れよ!生放送でお前たちを見るの楽しみにしてるからな!」


 ギルマスさんは見た目と違ってかなり良い人みたいだ。隣の人は少し苦手だけど。


 私たちはそのあとステータスを登録して家に帰ることにした。今日1日で凄くいろんなことあったなぁ。


「それじゃあ私はこっちだから。」


 日向が別の路線の電車のためホームで別れる。少し別れたくないな、今日寝たらこれが全て夢になりそうで怖い。

 私は「さよなら」って言おうとしたけど口が、喉が震える。

 すると日向が振り返って。


「じゃあねー、また明日!」


「うん!」


 私はその言葉で胸がとても温かくなった。また明日、日向と会える。それがとても嬉しくて。


「また明日!」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る