第4話 え、私死んだ?
目をつぶって念じた後少し浮遊感を感じて目を開けると私は元の神殿に戻っていた。
「お帰りなさい。良いアバターは作れましたか?」
神殿にはまだ私しかいなくてキョロキョロしながら探したけど黒音さんは見つからなかった。
「えっと、私と一緒に来ていた子はまだ戻ってきてないんですか?」
「まだ帰ってきてないですね。あ、噂をすれば!」
背後から光が漏れ出てきたから振り返ってみると黒音さんが戻ってきていた。
私より遅かったみたいだけどそこまで悩むことあるのかな?……あ、いや私は日向ぼっこができれば良いと思って髪と肌の色を変えただけだもんね。そりゃ早いか。
「ん、戻ってきた、みたい?あ、白ちゃーん!どう?目当てのアバターは上手く作れた?」
「うん、すぐにでもダンジョンに入りたいくらい。あの、この後すぐにダンジョンって入れるんですか?」
私はプレゼントをもらった子供みたいに待ちきれなくて聖さんに聞いてみた。すると聖さんは少し羨ましそうな、それでいて懐かしさを感じているような顔をして答えてくれた。
「勿論です! と言いたい所なんですが。アバターを使った人たちはまず探索者ギルドに登録してもらう必要があるんです。これをしないとダンジョンに入らないようになっていて、ついでに初心者に向けて講義とか装備の貸し出しとかもしているので絶対に行ってください!」
「分かりました!あのッそのギルドはどこに!?」
私は詰め入るように聖さんに話しかける。若干引いた感じはしたけど答えてくれる。
「この神殿を出てゲートの近くにかなり大きな施設があります。そこに入ってもらえれば探索者ギルドです。この周囲の建物は探索者のための施設が大半なので登録したらこの通りに通うことが多くなると思いますよ!」
「わかりました!行ってみます。日向も行こう!!」
「うん!一緒に探索者デビューだ!!」
私たちが神殿を出ると入る前にいた人だかりは嘘みたいに居なくなっていた。
えっと大きな建物……絶対アレだ!
学校よりも大きそうな外国っぽい装飾の建物がゲートの左手にあった。
中に入ると凄い賑わっていて正面に見えるカウンターにいる受付さんは忙しなく働いていた。あ、あの光ってる石が魔石かな?他にも毛皮とか爪とかを渡してる人もいる。
(もしかしてあれ、ナイフとかで剥ぎ取ってるのかな……)
「白ちゃん、新規登録者窓口あっちだって!早く行かないと列が長くなっちゃうかも。」
「それはやだ!早くダンジョン入りたいもん!」
私たちは急いで窓口に並ぶ列に加わった。並んでる人は大体が高校生から大学生くらいの男の人。たまに女性もいるけど運動できそうな感じじゃないからスキルとかを手に入れるためか、私みたいにダンジョンに入ってみたい人かな。
並んでいる事10分くらいやった私たちの番が回ってきた。
「はい、次の人。これに生年月日、氏名と未成年の場合は親の氏名も書いてください。」
カウンター越しにマニュアル通りに作業する受付の人が紙を渡してくる。
私はすぐに書き終えて受付の人に渡す。後はなにをするんだろう。
「これで仮探索者カードを発行しました。発行から1年以内にダンジョンに潜ってステータスを確認後、報告する事で正式登録、Gランク探索者となります。質問はありますか?無いようなので終了となります。次の人ー。」
「え、はい。」
正直私は勝手にゲームとか小説みたいに何かに手をかざしたり、血をとってカードを作るのかと思っていたから市役所みたいな風にあっさり終わって放心していた。
「あ、白ちゃんも登録終わったみたいだね。」
「なんか凄くあっさりしてて感情が追いつかないんだけど私、探索者になったんだよね?」
「凄いよくわかる……!なんかこう不思議な演出とかあるのかなって想像してたから。取り敢えずこれでダンジョンに潜れるようになったんだから入るだけ入ってみてステータスを見てみよう?流石に本格的に潜れないし。白ちゃんの目的の日向ぼっこだけしよう!」
「うん!!」
私たちはギルドを出てゲートの前までやってきた。ゲート前には大きなディスプレイが複数あって探索者の人たちの映像が写っていた。
「あ、そうそうアレ!アレが生放送してる奴ね。ランダムで映るから面白そうな探索者を見つけたい人はここに来てみてるよ。有名な人なんかはお金を払ってあっちのディスプレイで配信してる。企業なんかのスポンサーがついてる人が大体かな?」
黒音さんが大きいディスプレイの話をしてくれる。でも、私に取ってそれは重要じゃなくて。
「そんなことより早くダンジョン入ろう?早く日向ぼっこしたい!」
「しょうがないなぁ、あそこにある機械にカードを読み込ませると行けるダンジョンが表示されるんだって。仮登録だから初心者用ダンジョンしか行けないらしいけど。」
初心者ダンジョン。私に取ってそれも正直どうでも良かった。そんなことより大事なのは私の夢が叶うかどうか!
「そこは日光ある!?」
「大事なのそこなんだ……確かずっと奥まで広がる平原だって聞いたよ。出てくるのもスライムだけらしい。」
平原!それもずっと奥まで広がる平原!!そんな所で日光浴したら気持ちいいに違いない!
ついに夢が叶う。それだけが私の思考を支配する。
「行こう!」
「うん!」
私たちは機械にカードを通すとアバターを作った時と同じ半透明な板が出てくる。そこには
リデヒ平原って書いてあった。
それを選択するとゲートが白く輝く。
「それじゃあせーので一緒にいこう!」
「「せーのっ!!」」
私たちはゲートの白い光に飛び込んで行った。
中に入るとまるで別人の体を着るみたいな感覚がする。多分これがアバターなんだと思う。
白い光が収まると私たちは建物の中にいた。
「ここがダンジョン?平原って言ってたはずだけど?転身の神殿に似てる気がする。」
「ゲートから出たすぐの場所は【|安全領域《セーフゾーン】って言って魔物も来ない安全な場所なんだって。そういえば髪の毛黒くしたんだ。綺麗だったのになぁ。」
黒音さんが私の髪の毛の色について聞いてきた。やっぱり気になるよね!お気に入りの色にしたんだもの!変じゃないよね?
「うん、私黒い髪の毛に憧れてたから!肌が弱いから髪を染めることもできなくて日光浴の次にやってみたいこと、叶ったよ!」
「そっか!ならその日光浴もしちゃおうか!あそこの扉から外に出られるみたい。先に行ってきて?私はステータスを確認してからいくから!」
黒音さんは透明な板を出して見ていた。多分自分のステータスを確認してるんだ。私は黒音さんの言葉に甘えて一人で外に出ることにする。
「うん!行ってくる!」
私は踊る心を抑えながら扉を開けて外に出る。そこには見渡す限りの平原が広がっていた。まるで私に日光浴しろって言ってるようなダンジョンだった。ご飯とか持ってきてピクニックとかしたら楽しいだろうなぁ。
「凄い綺麗。いつも黒い傘を刺してたから景色なんて見てなかったけどこうして見てみると世界って綺麗なんだ!あぁ日光に当たるのって温かくて気持ちが安らぐんだぁ。」
私は寝そべって大の字になって全身で太陽の光を浴びる。
「体がぽかぽかして少しヒリヒリしてくる。これがみんなが浴びてる日光・・・」
後ろから扉の開く音がして足音が聞こえてくる。多分黒音さんだよね。なんか慌てた様子で走って来てる気がするけど。
「日向、日光って―――――――」
「サイコー!」
声が反響して何度も私の声が聞こえる。私は何事かと思って起き上がって辺りを見渡すと神殿の中だった。
あれ?もしかしてアバターを作ってる間に寝てた!?私。
「あれ!?もしかしてさっきの!もしかして死んじゃったんですか!?」
え、死んだ?私が?夢じゃなかった。でも私日光浴してただけなのに?
転身の神殿に駆け込んでくる足音が聞こえて見ると黒音さんだった。
「白ちゃん!!無事!?」
「あ、日向。私どうなったの?」
「私がステータスを確認して外に出たら白ちゃんが安らかな表情で消えかけてたからびっくりしてっ。本当に無事で良かったッ。」
なんで死んじゃったんだろう。周りには何もいなかったし、何かしたわけでも無いのに。
私は自分が死んだ原因を考えたけど全く思いつかなかった。
「あのーもしかして。人間以外の種族になったのでは?」
聖さんが私に聞いてくる。そういえば私ステータス確認しないで外に出たんだっけ。
「ダンジョンに入った時点でステータスは手に入れてるはずだから確認してみて。カードにステータスが載ってるはず。」
私は恐る恐るカードを見てみるとそこには【種族】:吸血鬼(真祖)と書いてあった。さらに日光耐性の文字見えた。
「私、吸血鬼になってるー!?」
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