第3話 もう一人の私

「それで、私はこの跳躍のブーツをお父さんからもらったって訳。私はまだ探索者じゃないよ。」


 神殿の中に入るための通路を歩いている間に聞いた限りだと、探索者になる事を決めた日向さんにお父さんが役立つからと餞別としてくれたらしい。


 神殿の中に入るとまるで教会にいるような神聖な雰囲気を感じた。中の装飾はそこまで豪華ではなくて正面の幾何学模様がある床とその奥の綺麗なステンドグラスくらいだった。


「わぁキレーイ!見てみて!あのステンドグラス。女神様かなぁ。」


 ステンドグラスには祈りを捧げる女性が描かれていた。


「アバターを作りにきた方ですか?」


 ステンドグラスに二人して魅入っていると遠くから声をかけられる。とても落ち着く聴いていると心が癒されるような声だった。


「はい!ここでアバターを作れるんですよね?」


 黒音さんが声の主、ステンドグラスの真下にいた神官服の女性に話しかける。私はこういう時中々話しかけられないからとても助かるなぁ。


「あの、その前にあなたは……?」


 名前を知らないと会話しにくいから早めに聴いておくことにする。


「あ、ごめんなさい。名乗るのを忘れていましたね。私は【聖 乃亜ひじりのあ】。ここでアバターを作る方を手助けする為に配属された神官です。最近配属されてまだ日が浅くて・・・。」


「あの、神官ってなんですか?」


 ここはアバターを作るための建物のはずで人なんていらないと思うんだけど……。


「ここはアバターを作成する場所だけでなく死亡した探索者が戻ってくる場所でもあるんです。中には呪いを受けて帰ってくる探索者の方もいてそれを治す為に私たち神官はいます。アバター作成の手助けはサービスです♪」


 声から聖母みたいな人かと思ったら意外と茶目っ気がある人だった。それにしてもダンジョンで死んでも本当に死ぬ訳じゃなかったんだ。


「まるでゲームみたいですね。死んでも復活できるんですか。」


「ビックリでしょー。私も初めて聴いたとき信じられなかったもん。ちなみにそれを初めて発見した人は生放送してたから一気に世界中に広まったんだ。」


「ダンジョンで生放送?一体どうやって?」


「アバターは自分の姿とかを撮影できる使い魔みたいなのを出せるんだけどそれを使ってやってるの。ダンジョンの中でこっちの電子機器は使えないから。」


 初めて知った。テレビで探索者が戦う動画とか見たことあるけどそういうふうになってたんだ。


「ちなみに死ぬ時は本当に死ぬほど痛いらしいので出来れば死なないでくださいね?」


 急に目が死んだ聖さんが他人から聞いたように教えてくれた。やっぱり痛いんだ。でも私の目的は日向ぼっこだから関係ないけどね。


「分かりました。そろそろアバターを作りたいんですけどどうしたらいいんですか?」


「あそこにある魔法陣に立って目を瞑ってくださればアバターを作る空間に移動できます。あとは行けば分かります。」


「白ちゃんはゲームよくやる方?それならゲームキャラを作る画面とか分かるかな?ああいう空間に飛ばされるの。それと基本は人間だけどごく稀に人間以外の種族になっちゃう人もいるらしいよ。」


「それは強制的に?」


「うん、探索者の掲示板サイトとかだと【ダンジョンの悪戯】って呼んでるみたい。ただ人間よりも優れた点もあってなりたい人はいっぱいいるみたい。その分弱点もあるらしいけど。」


 急に説明が投げやりになった聖さんの代わりに黒音さんが教えてくれた。私は日向ぼっこさえ出来れば強さとか興味ないからあまり知らなくてもいいかな。それよりも早くアバターを作りたい!


「白ちゃんが早くアバター作りたいって顔してるからそろそろ行きますか!」


 私と黒音さんは魔法陣の中心に移動して目を瞑る。すると一瞬浮遊感を感じたあと瞼が眩しくなって目を開けて見る。

 すると正面にステンドグラスに描かれていた女性の像があった。近づいて見ると正面に半透明な板と私が出てきた。


「これが黒音さんが言っていたアバターの作成画面。確かにゲームのそれに似てる。」


 私はすぐに外見の設定を確認する。すると髪色や肌色を変えられることがわかった。


「髪は真っ黒、肌はこのくらいかな?目の色も黒くしよう。」


 私は髪色や目の色、そして肌色を変えてそれ以外は変えないことにした。だって変えちゃうと動きづらいもの。


「このあとはどうするのか聞いてなかったな。女神様ー!助けてくださーい。なんて言っても返事はないか。」


 私は置いてあった女性の像に向かって話して見る。だけど反応なんて――――――――


『何かお困りですか?』


「喋ったー!?」


 え、嘘!?本当に喋ると思わなかった!え、本当に女神様?


『私は探索者を導くもの。名前はないので好きに呼んでください。何を知りたいのですか?』


「えっとアバターを作ったあとどうしたらいいのかなーって。」


 像に話しかけるのも結構シュールだ。それにしてもこの像何者なんだろう。取り敢えず女神様って呼んどくけど。


『アバター作成終了、ダンジョンへ移動と念じてください。そうすればここから出られます。一応注意―――――


「分かりました!それじゃあいつかまた会えたらいいですね!」


 私は日光浴するぞー!


(アバター作成終了、ダンジョンへ移動!)


事項として現在人間種のみにする項目が外れています。人間種でアバターを作成したい場合これにチェックを押してください。もう行ってしまいましたか。』









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