第2話 転身の神殿

 しばらく私が黒音さんと会話をしていると入学式の時間になったのかスーツを着た人が入ってきた。


「もうすぐ入学式だから手短に。私があなた方の担任の東雲です。全員揃ってますね?それでは適当でいいので列になってください。入学式の会場に案内します。」


「ほら!白ちゃん行くよ!」


 黒音さんが私の手を引っ張って教室の外に連れ出そうとする。でもそれはまずい!


「ま、待って!」


 咄嗟に黒音さんの手を払ってしまった。一瞬黒音さんの悲しそうな顔が見えた。間違えた、そう思った。どうにかして訂正しないと。


「えっとその、私太陽に当たると火傷して、しまうんです……だから、その、黒音さんが嫌ってわけじゃ。」


 ああ、どうしよう。初めて出来た友達に嫌われてしまった。それにこんな気持ち悪い体の事を知ったら引かれちゃうよね。

 すると黒音さんが近づいてくる。ああ、また私は間違えたんだ。


「なんだ〜そういう事だったんだね。ごめん!私こそ強引に引っ張りすぎたよ。高校で初めて出来た友達だったからはしゃぎ過ぎちゃった。」


 え?嫌いにならないの?こんな私を?


「はい、これ!これ被ってたら少しはマシになるかな?」


 黒音さんは自分の制服の上着を脱いで私に被せてきた。太陽みたいな匂いがする。すごい落ち着く。


「ハッだ、大丈夫です!遅れちゃうから行こう!?」


 私は他人にここまで優しくされたことも、上着の匂いがいつか浴びてみたい太陽の匂いがした事も、黒音さんに知られるのが恥ずかしくて逆に私が黒音さんを引っ張る。


「にゃはは!やっぱり白ちゃんと友達になって良かった!」


 列に並んで体育館に着いて並んでいた席に黒音さんと一緒に座った。まだ上着を被っているから黒音さんの太陽の匂いがして幸せな気分になるなぁ。


『あーテステス。大丈夫そうだな。私がこの学校の校長【鈴鹿 進】だ。君たちはこの学校ができてから記念すべき15期生の入学生だ。君たちが生まれてから―――――』


 校長先生が話し始めてから小さな声で黒音さんが話しかけてくる。


「ねぇねぇ、なんで白ちゃんはこの学校にきたの?やっぱりダンジョン?」


「うん、ダンジョンに入りたくて。この学校は探索者育成にも力を入れてるから。日向も?」


「うん、私はお父さんが探索者だから小さい頃から入ってみたいなって。白ちゃんはどうして?」


「笑わないでね?私、日向ぼっこしたいの。この体じゃ日光を見ることも浴びることもできなくて、アバターなら!って。」


「そっかー。だから私の上着の匂い嗅いでたんだ?」


 バレてた!?ど、どうしよう。変な子って思われてないかな!


「私も日光ぼっこは好きだよ。制服が太陽の匂いになるくらい、ね?ならさ、この後ダンジョン行ってみようよ!」


「この後?予定は空いてるけど……」


「なら決定!日向ぼっこデビューだ!」


 そのあと長い校長先生の話が終わって下校となった。

 私たちは二人でアバターを作る為にゲートの近くまで来ていた。ゲートの側には大聖堂のような建物が見える。


「白ちゃんはアバターについてはどの程度知ってる?」


「探索者が持っているもう一人の自分ってくらいかな。」


「それじゃあ私が説明しよう!ダンジョンに潜る為にはアバターが必要なんだけど、それを作るのがゲートと一緒に出来た建物【転身の神殿】なの!あそこでアバターとレベルとスキル、魔力を獲得することで探索者として活動できるの。」


「私のこの体質も治るかな?」


「もちろん!全く別の体だからね。身長と性別だけは変えられないけどそれ以外は自由だって聞いたよ。」


 私はそれを聞いて太陽を浴びる光景を夢想する。絶対に気持ちいいはず。


「なら早く行こう、アバターを作りに!」


 私は日傘を差しながら神殿に向かって黒音さんの腕を引っ張る。


「早く行こ!」


「本当に日向ぼっこがしたくてたまらないんだねー。すごくわかるけど。」


 学校とは真逆の構図で私は黒音さんと神殿に向かう。


 神殿の前には私と同じくらいの歳の人たちが大勢いた。多分私たちと同じ今日アバターを作りにきた人たちだ。こういう場所は苦手だな。

早く抜けたい。


「白ちゃん大丈夫?顔色悪いけど。」


「大丈夫、こういう人混みが苦手なだけだから。」


「それならさっさと抜けちゃおうか!」


 抜けるって言ってもこの人の壁をどうやって?

 そう思っているといきなり黒音さんが私を持ち上げて抱えた。


「しっかり捕まっててね!」


「一体何を―――――!」


 私を軽々持ち上げた黒音さんはまるで猫のように人の間を抜けて神殿に近づいていく。陸上の選手よりも速く走っている気がする。

スルスルと順調に前に進んでいた黒音さんだったけど正面に物凄い人だかりがあって流石の黒音さんでも抜けられないほど密集した肉壁があった。


「日向!?前、前!!止まってー!」


 私は黒音さんに止まるように伝えるけど全く減速する様子がない。逆に速度を上げた黒音さんは幅跳びのようにジャンプした。


 かなり跳んでいて5メートル位は超えてる!それでもまだ人だかりを飛び越えることはことはできてない!もうすぐ人にぶつかるよ!?


 その時黒音さんから声をかけられた。


「舌噛まないようにして!もう一回跳ぶよ・・・・・・・!それっ。」


 まるでゲームのキャラみたいに空中でジャンプした!?


(もしかして黒音さんはもう探索者?)


 黒音さんはまるで猫みたいに衝撃すらなく着地した。そして遂に人混みを超えて神殿の前まで到着してしまった。


「嘘、本当にあの人混みを超えたの……?日向、あなたってもう探索者だったの?」


 黒音さんは若干息を切らしながら答えてくれた。


「違う違う!これのお陰!【跳躍のブーツ】っていうの。これを履いてると空中でもう一回ジャンプできるよ―――――っとと。ここで話してると注目されそうだね。中に向かいながら話そうか。」


 周りを見て見るとこっちを先ほどの人だかりがこちらを見ていた。恥ずかしくなった私は提案に乗って神殿の中に入って行くことにする。


「あの二人……また会ったら勧誘しようかな。」


 その人だかりの中でも一人だけ制服ではない者が居た。







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