1章初ダンジョン

第1話 私は普通じゃない

 窓が締め切られた部屋の中でテレビから音声が流れてくる。


『15年前、突如として現れた門、通称【ゲート】。政府が当時調べ、内部に侵入して中から持ち帰った物品によって我々の生活は様変わりしました。

 魔物と呼ばれるモンスターの素材、鉱物、その中でも我々の生活を一変させた物、それが魔石です。魔物より取れるこの鉱石のおかげで資源枯渇やエネルギー問題が解決に向かいました。』


『それだけではないですよ!ダンジョン内を探索する探索者たちはアバターと呼ばれるもう1人の自分とも言える分身を持ち魔力を得てスキルを獲得しました。

 これにより人類は更なる進化を遂げたとも言えるでしょう。スキルによってあらゆる場面で重宝される事になった探索者の需要は計り知れないものがありますから。』


 テレビのコメンテイターが探索者について話している。私はそれを少し希望に満ちた目で見る。

「もう1人の……自分。私も、もしかしたら。」



 私は今日から入学する高校の制服を着て部屋を出る。春だというのに長袖でタイツまで履いているという季節を間違った服装をしている。そうでもしないと私は全身が火傷してしまう。


 私は生まれつきアルビノと呼ばれる色素異常で肌が弱い。太陽の光を少しでも直接浴びれば肌が火傷のようになってしまう体質。

 そのせいで日傘は手放せないし、この暑苦しい服装しかできない。本当は日光を浴びてみたい。日光浴をして肌を焼いてみたい。小麦色の肌になってみたい。


「おはよう。」


 リビングに出ても誰も挨拶は返してくれない。この部屋にはというよりこの家には私以外誰もいない。お父さんもお母さんも私を置いて旅立ってしまった。


「義務教育が終わったからって世界一周旅行とか。私もこの体質さえなければついて行ったのに。」


 私はパンをトースターで焼いてジャムを用意して待つ。その間にポットでお湯を沸かしてインスタント珈琲を作る。このひと時だけが私の気が休まる時間。


チンッ


 焼けたパンに苺ジャムを塗ってゆっくり食べる。


「はむっ美味しい。やっぱり落ち着くなぁ。」


 私は食べ終わった後食器をキッチンに置いて学校指定のバックを持って玄関まで行く。玄関の靴箱にある鏡を見て身だしなみをチェックする。

 鏡には真っ白な髪の毛と肌、そして真っ赤な赤い眼が特徴的な女が立っている。どう見ても不健康そうな見た目だ。真っ黒な髪の毛と健康そうな肌色を見るたびに羨ましく思う。


「よし、寝癖もないね。行ってきまーす!」


 元気よく家の中に向かって声を出す。こうでもしないとやってられないから。


 学校に向かう途中電車を待つ間も、学校に向かう道でも私は悪い意味で目立つ。だから通行人から色々言われる。それもヒソヒソと。


「ねぇ、あの子!」

「うわぁ、生まれつきなのかな。」

「見て、肌が真っ白!」

「暑くないのかな、絶対季節間違ってるよ。」


 知ってる。私が普通とはかけ離れてることぐらい。だからあまり私を見ないで。


 学校に着くと校門に入学式と書かれた看板が立て掛けてあった。その前では入学する人たちが集まって記念撮影とか中学の同級生なのか集まって話していたりする。


「こういうところ苦手だな。早く式場に行こう。」


 少し小走りで校門を抜けた私は案内されるまま教室に入った。後ろでザワザワしていた気がするけど気にしたらダメな事は昔学んだ。


 教室に入るとまだ誰もきていなかった。私は出来るだけ日が当たらない後ろの席に座って人が揃うのを待つ。

 すると続々と人が入ってきた。

 その中には私を見てギョッとした様子で固まった後申し訳なさそうに視線をずらして適当な席に座る人が何人かいた。


(私みたいな変な人がいたらそう思うよね……早く探索者になりたい。そうすれば。)


「ねぇ、それって地毛なの?」


「えっ?」


 いきなり話しかけられてびっくりした私は声が出てしまった。


「そうですよ。私色素が薄い体質で……。」


(これ以上話しかけてこないで!)


 中学生の時もこの体質のせいで大変な目にあった。服装検査ではいつも引っかかるし、髪の毛の色でいじめに近いこともされた。だからあまり触れてほしくなかった。


「そうなんだ!校門で見かけてすごく綺麗だなって思ったんだ!」


 綺麗?この老婆みたいな髪が?そんなわけない。この人もきっと暇になったから話しかけてきただけでお世辞に決まってる。この髪を褒められたことなんかお母さんたちくらいしかいない。


「そんなことないですよ。私はむしろえっと。」


「あ、私日向!【黒音くろね日向】!よろしく。」


「黒音さんの髪の方が私は綺麗だと思いますよ。真っ黒でまるで夜空みたいで。」


「そ、そうかなぁ。えへへ。貴女は?名前なんて言うの?」


「【夜雀 白よすずめしろ】と言います。よろしくお願いしますね。」


 私は本心から黒音さんのことが羨ましかった。もし、アバターを作るならこの人みたいな真っ黒な髪の毛にしたい。


「なら白ちゃんだね!よろしく!」


「え?白ちゃん?私のこと、ですか?」


 正直友達というものが全く出来なかった私はここまでぐいぐいくる人に初めて会って混乱する。


「そうだよ、それに敬語!クラスメイトなんだし無しでね。それと私のことは黒、日向、なんでも好きなように読んでね!」


「わかり……分かった。よろしく、日向。」


 私は今日初めて友達ができた。




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