第39話「帰り道隣国のこと」
******************************
……。
…………。
馬車は冒険者ギルドから、ソンギブの屋敷へと直走る。
唯臣の横では、アルモナがハミングバードを弾いている。
呪われていたストラトは最近は弾いていない。
おそらく、呪われていて装備が外せなかった所を、回復ダンジョンにて解呪されたのだ。
今は自身のハミングバードを、中心に弾いている。
ちなみに解呪された緑のストラトは、唯臣の部屋に飾られており、毎日唯臣は、ニヤニヤとして眺めている。
人が入って来そうになったら、取り外してベットの下へ隠すという、高2の男子がエロ本を隠すようなことをしている。
アルモナの優しい手のタッチから繰り出されるアコースティックギターの甘い音色。
唯臣は食い入るようにアルモナの弾く手だとか肩だとか、ピックの触り使いだとか、その音色を生み出す発生源について見つめる。
アルモナは自分の演奏を熱心に見つめられ、そして、聞かれ、少し気恥ずかしいやら、鼻が高い気持ちになる。
「えーよなぁ。
アルモナちゃんのギター。
心が洗われるような気持ちになるわ。」
唯臣は激しく何度も、会釈する。
「……ギター、誰かに向けて弾くの久しぶり。
とっても……気持ちいい。」
アルモナは演奏を心の底から楽しんでいる。
「久しぶりかぁ。
楽奴の呪縛の中にあった時は、アルモナちゃんどんな気持ちで弾いてたん?」
「……分からない。
何も考えられない真っ白な世界に居たような気がする……。」
アルモナは爪弾きながら言う。
「そうかー……。
ほなら、楽奴になる前はどうや?
そんだけギター弾けるなら、元々ギタリストとか、なんか楽器やっとったんちゃん?」
アルメイヤは問う。
「……分からない。
自分がもともとどこにいて、誰だったのか……。
何も思い出せない。」
アルモナの演奏がマイナーコード中心の物悲しい音に変わって行く。
「あーん!
大丈夫。大丈夫やで!アルモナちゃん!
あたしらがおる!
ちょっとずつ思い出して行こな!」
アルメイヤは察して、アルモナの頬を抱きしめる。
唯臣も会釈する。
アルモナは落ち着きを取り戻し、また軽快で優しい旋律を爪弾き始めた。
「せやけど、あんたもうDランク冒険者かいな。
まだ来たばっかりやん。
えげつないサクサクプレイよな。」
アルメイヤは関心する。
本来、2〜3年程のFランク冒険者としての下積みがあって、やっとEランク。
そこからさらに3〜4年でDランクの冒険者となり、一人前とされる。
冒険者のランク帯の人数で言っても、Dランクが1番多く、それ以上に上がれるものは冒険者としての才能有りとの指標にもされている。
3ヶ月も経たぬうちにDランクまで上がった唯臣は完全に規格外であると言えよう。
「Dランクなったら、隣の国のクエストも受けれるようになる言うてたな。
ミグニクトの隣言うたら、レナシー共和国やな。」
アルメイヤは知識をひけらかす。
「この国は昔、市民が革命を起こして、当時の王様を引きずり降ろして共和制になったんや。
やから、国政もかなり国民のための政策してて、過ごしやすい国や。
ほやから、国民のための冒険者ギルドの活動もかなり活発やで。
かの勇者も、この国から出たらしいわ。」
さらに続ける。
「あと、娯楽な。
国民が楽しめる国の催し物がいっぱいあって、1番有名なのは、レナシー共和国の全土を使って行われる馬車の大レースや。
2週間ほどかけてレースするらしいで。」
アルメイヤは言った。
「あんたもうじき騎士団の試験やろ?
それ終わったら、レース見に行くついでに、レナシー共和国で、クエスト受けに行こうや。
もしかしたら、幸もレナシーに居るかも知らんしな。」
目的が逆な気もするアルメイヤの発言。
冒険者ランクがDに上がって、一気に視界が広がった唯臣であった。
…………。
……。
******************************
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます