第26話「ルジオンの森の妖精①」
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……。
…………。
”ゴロゴロゴロゴロ”
{ほぉ……。
このおじさんが、現在唯臣様の養父となっている、リーヘン・ソンギブさんですな。
坊ちゃまのお父上と比べたら全然かっこよくないですなぁ……。
……しかし、優しそうです。}
今日はリーヘン、オルフィー、唯臣と、ギブソン家全員で、馬車を走らしていた。
ルジオンの森へキャンプに行く事になり、今まさにその道中だ。
「唯臣ちゃんがそんなに綺麗で長閑な所だって言うから、家族で行ってみたくなりましたわ。」
オルフィーがニコニコして言う。
{オルフィーちゃんは今日も可愛いですなぁ。
あらあら、なんですかその花柄のドレス……。
胸元がパックリ開いて……、おふぉう。
花と森とで同化しようとしているのですかな?
……どうかしてますねぇ。
失礼しました。羊川今、うまい事言いました。
しかし、楽しみですなぁ……。}
「楽しみじゃー!!
家族でキャンプなんて久しぶりじゃー!!」
リーヘンが叫ぶ。
客車には、リーヘンとオルフィー、唯臣と、メイドが一人乗っている。
荷台には、アルモナとバルオとトートーが三人で座っていた。
しかし、唯臣の背中越しに聞こえて来るメロディーは、バルオのサックスだけだった。
それもそのはずである。
今日もアルモナは呪いのストラトキャスターをチャカチャカ弾いている。どことなく嬉しそうに。
そして、トートーに至っては、持ち運べる鍵盤がソンギブ家には無いらしく、紙の上に、黒鍵と白鍵を書いたものをペチペチと弾いていた。
当然どちらの音も、バルオのサックスの音にかき消されている。
{おぉ、また一人かわい子ちゃんが!
ふむふむ、虚ろな目はしてますが、ぱっちりおめめで可愛い顔をしてますなぁ。
肩まで伸びた黒髪が美しいですのぉ……。なでなでしたげたいぞい。
そしてちっぱいですがそれもまた良い!!
守りたい女の子で賞を進呈しましょう!
そして、バルオ殿は髪の毛長いですな。とっととお切りなさい。}
”ヒヒーン、ブルブル”
馬車が停止する。
「おぉ!!ついたぞ!!
ルジオンの森じゃ!!
いっぱいBBQするんじゃーい!」
子供の様に駆け出して行くリーヘン。
リーヘンの独走を補佐するように大量の荷物を持ってメイドが付いて行った。
「もう、パパったら。
楽しみで仕方がなかったのね。
ロールベッタがついてるから大丈夫だけど。」
ロールベッタとは、この家に仕えるメイドである。
ソンギブ家は、その超大な屋敷に比べ圧倒的に奉公人が少ない。
それは、このロールベッタが25人分程の働きをしているからである。
{ロールベッタちゃんは、筋骨隆々で唯臣様より大きいから……。
この羊川では手に負えますまい……。ちょっと怖いんじゃ……。
さささ、オルフィーちゃん、早く一緒にキャンプ会場へと向かいましょう!
やはり森、足場は不安定ですので、私が手取り足取り尻取り胸取りエスコートしますぞー!}
ロールベッタが持ち切れなかった食材等を唯臣も持ち、残りの皆でリーヘンが向かった先へ行く。
馬車と御者は一旦帰る様だ。
しばらく歩くと、木々が少なく、太陽光も入る様な開けた場所が見えて来た。
そこにリーヘンとロールベッタの姿が見える。どうやらこの広場をキャンプの拠点とするらしい。
到着すると、もうそこには既に焚火が燃え盛り、大きな鉄板がその上に設置され、くつろげるような巨大なテントも建てられ、さらにそのテントの支柱と、大きな木を利用してハンモックまで設置されている。
つまりキャンプの準備が全て終わっていると言う事だ。
この短時間で全てロールベッタが行った様だった。
「おぉ!!
遅いぞみんな!!
今日からここに泊まるんじゃー!」
テントの入り口の布を”バッサバッサ”させ、ウキウキなリーヘン。
{おお!!
今日からこのテントでみんなで寝るんですねぇ!!
オルフィーちゃんとアルモナちゃんとトートーちゃんと一緒に!!
最高じゃー!!}
「最高じゃー!!
ほれ、唯臣、オルフィー、焚火のそばに座るんじゃ。」
そこからは家族の団欒で過ごし、夜に近づいてきたら、BBQを始めるなどキャンプらしい楽しいひと時を過ごした。
おそらくキャンプの醍醐味の設営や調理と言うような事は全て、ロールベッタが一任して行ったが、それでも、唯臣にとって初めての家族でのキャンプは、とても楽しいものだった。
夜も深まり、そろそろ就寝と言う所。
唯臣は用を足そうと一人広場から少し外れた所に出て行く。
{坊ちゃまそうです。寝る前にしておかないと、おもらししてしまうかも知れないですからね。
集中も出来ないですしね。アルモナちゃんやオルフィーちゃんとあんなことやこぉーんなこと……。ムフフ}
ガサガサと雑木を掻き分けて行くと……。
「おーい……。唯臣~……。」
どこかから微かに自分を呼ぶような声がする。
周りを見渡すが、誰もいない。
声がどんどん大きくなる。
するとついには耳元から……。
「おーい!!唯臣~!!
久しぶりやな~!!
あたしや~!!
アルメイヤや~!!」
手のひらサイズ台の羽根の生えた何かが唯臣に手を振っていた。
…………。
……。
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