第22話「グライム家の呪いの品」

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 初めての騎士団訓練が終わり、唯臣はアルモナを連れて帰路に着こうとしていた。


 本日Bクラスで訓練していた女子はもう唯臣の虜。

支部の建物の柱と言う柱全部に女の子がくっついていて身を潜めて熱い視線を送っている。


 勇気を出して声をかける者もいた。

その中の1人……。


「あっあ、あの!

 たっ、唯臣君!!」

黒いローブの地味目の女の子。もじもじと視線を下に声をかけて来た。


 ブーシェスだ。


 支部を出たすぐの所で唯臣はブーシェス・グライムに声をかけられた。


 後ろには髪が肩より少し伸びたオールバックにしている男。


「初めまして……。

 ロイン・グライムと申します。

 ……ブーシェスの父です。」

オールバックの男が頭を下げる。


 ロイン・グライムと名乗る男は、顔色が非常に悪く、幸が薄そうで消えてしましそうな顔をしている。

 親子そろって真っ黒な服装で、死神や疫病神を連想させた。


「今日は娘が大変お世話になったそうで……。

 良かったら我が家に来てくれないか?

 お礼がしたのだ……。」


 唯臣は言われるがままに、グライム家へと向かうらしい馬車に乗ることになった。


 グライム家も、ブオンバプの中にある。

ものの、10分ほどで到着した。


「こちらが我が家だ……。」

ロインが手で指し示す。


 騎士団に所属しているのは基本的に全員貴族である。

故に、ある程度はお金持ちだ。


 しかしどうだろう。


 グライム家の建物は到底貴族の家とは思えない、煉瓦作りの小さな平屋であった。


 4人は中へ入って行く。


「……さぁ、かけてくれたまえ。」

ロインが椅子に促す。


「どっ、どどど、どうぞ………。」

ブーシェがおどおどと椅子を引いた。


 中は黒を基調に据えられたシンプルな1LDKだ。

リビングには質素な家具が添えられてある。


 気になったのは、その部屋の印象の中心になっているレンガ造の煙突だ。

それも黒塗りされたレンガを使いシックな雰囲気を与える。

しかし、部屋の真ん中に堂々と鎮座している割には、煤や灰が一切無く、使われた様子がない。


「唯臣君。

 さっそく見て欲しいものがあるんだよ……。」


 ロインはそう言うと、火口の裏側に垂れ下がっていた紐を引っ張った。


      ”ゴゴゴゴゴ”

 暖炉の地の部分がせり上がり、地下へ降りる階段が出て来る。


「ぬふふ。 

 さぁ来てくれたまえ。」

ロインは湿った様に笑い、翻り、さらに湿った後ろ髪を揺らしながら階段を下って行った。


 唯臣もついていく。


 降りたらそこには重厚な鉄の扉がそびえ立っていた。


「ぬふふ。

 これには厳重な鍵魔法がかかってましてな……。」


 ロインはなにやら詠唱しその鍵魔法とやらを解いた。


    ”カチャリ”


 さぁ入ってください。


 扉を開けると、そこいは上のリビングの5倍ほどの広さの部屋が現れた。

その部屋は壁も床も白でまとめられており、目がチカチカとする。


 そして、その部屋の壁には、様々な黒っぽいオブジェなのか、種類は多種多様に飾り掛けられていたり、大小様々な展示ケースが設置されており、そこにも無数の何かが飾られていた。


「ぬふふ。

 どうだね唯臣君……。

 これは僕の秘密のコレクションなのさぁ……。」

鼻高々に手を広げて言うロイン。


 唯臣は、中に入り実際に品々を見て回った。

それは剣であったり杖であるような武器から、用途の分からない、マジックアイテムにまで多岐に渡った。

 そしてどれも黒く禍々しいオーラというか、不吉な何かを感じる。


「こっ、ここにある品々は全て呪いの品なのです……。」

ブーシェスが唯臣の後ろから耳打ちするように告げる。


「良いものばかりだろうぅ!?

 ぼかぁねぇ、こういうシックで黒い闇の力を感じるものが大好きなのさ!」

テンションがどんどん上がって行くロイン。


「そしてねぇ、唯臣君。

 いや、おみ君……。

 ぼかぁ、君がきっと僕と同じセンスの持ち主なんだと確信したんだ!!

 ほらその服のシックなことシックなこと……。

 君も暗黒が大好きな男なんだろうぅ?」

ロインが唯臣をこのコレクションハウスに連れて来た一番の理由はシンパシーを感じたからだった。


 唯臣は黒いもの、地味なものが好きである点からある意味それは正解と、会釈する。


「そうだろうぅうう!!

 いやー嬉しいねぇ……。

 僕は君にコレクションから何かをプレゼントしたいんだ……。

 なぁんでもいいよ!

 2つ選んでよぉぉおお!!!」

鼻息を荒くするロイン。ここ一番のテンションである。


「唯臣君……。

 要らないって言っていいんですよ……。

 呪いのアイテムなのですから何があるか分かりません……。」

ブーシェスは心配そうに言う。


 呪いの装備で使えるものなどほとんどない。

装備してしまったら外せない。それはあらゆるRPGの定番である。


 唯臣はロインの話を受けて、早々にコレクションの中から一つの、もう既に決まっていたかの様に、ある所に向かって歩き出した。


 そこには壁に立てかけられているエレキギターがあった。


 くすんだ緑色のストラトキャスター。


「おおぉ!

 臣君!!

 お目が高いねぇ……。

 それは汚らわしい楽器のギターだけどねぇ、その出生がいわく付きなんだ……。」

ロインは厳かに言う。


「なんでも元の持ち主がそのギターを演奏している最中に、恋敵の男に”ファイアアロー”を打たれて胸をひと突き。……打ち抜かれたそうなんだ。

 そして、持ち主は心臓が打ち抜かれているにも関わらず、ライブの出番が終わるまで演奏を引き続けたという……。

 どうだね!?そそられないかい!?」

ロインが高らかに言う。


 いわくづいてる事に対してはそこまでそそられる事はないが、やはり緑のストラト。

唯臣の心を掴む。


「いいねぇ、わかってるねぇ……。

 良いよ!このギターあげるよ。

 名前は恋敵と取り合った女性から取って、”ルルシー”と言うんだ。」

壁にかけてあるギターを取り外しながら言う。


 唯臣は会釈した。


「あぁ、あとこれもプレゼントしよう。

 君はライトニングを無詠唱出来る素晴らしい魔法使いなのだろう?

 この黒い杖!

 僕は魔法が使えないから分からないけど、きっと凄い力を秘めているよ。」


 黒い40㎝程の、これも禍々しいオーラを発する杖だった。


[唯臣は、を手に入れた。]

 

 唯臣達は、リビングに戻り、楽しくお茶を飲んだ後に帰宅したのだった。


…………。


……。


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