第21話「騎士団の訓練③」

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……。


…………。


 全ての能力が10倍になっている唯臣。


 結果から言おう。


「……えっ、え~……。

 ……これまじ?

 流石にあり得ないと思うんだけど……。」

流石の死んだ魚の目の教官でも、目の色が変わり”ワナワナ”と震えながら言う。


「唯臣・矢倉・ソンギブ~。

 君のステータス……。

 既にシルバー階級を越えてんじゃん。」

教官が告げる事実。


 身体能力テストは、筋力、持久力、瞬発力、柔軟性等、様々な体を成す分野に置いて行われた。

 すべての能力が最初から1000を超す唯臣にとって簡単過ぎたテストだった。


         ””””””ザワザワザワザワ””””””


「どうなってるの?

 あのビジュでその能力とか……。」

「もう王子様越えて、私の神様じゃない?」


 よくわからいことを言っている女子達。

ようはという事なのだろう。


「ぐぬぬぬぬぅ~……。」

ジョビリーは悔しそう。

「得意の素早さでも全然敵わなかったね……。」

レートがぼそっと言った。


    ”パンパン”


「ハイハイ。

 オッケで~す。

 唯臣の身体能力が凄いのはだいたい分かった。

 次は実践を試すぞ~。」

元の目に戻った教官はそう言うと、全員に兜と鎧、そして木刀を取りに行く様に促す。


「武器や防具は持ってるだけじゃ意味がないぞ~。

 ちゃんと装備しないとな~。」

お馴染みの言葉を添える。


「は~い。

 それでは鎧と兜にこれを付けてください~。」

教官が”ドン”と箱を取り出した。


「べただけど、風船だね~。

 よくあるでしょ~?

 木刀で割られたらその人は死亡で~す。

 速やかに戦場から出てくださいね~。」

教官が言う。


 全員指示に従い準備をする。

しかし、使われ過ぎて”クタッ”となり、酸っぱい匂いがする防具。

装備したい者などいない。

それにこの場にいるのは、唯臣以外、貴族の息子や娘である。

 既に甲冑や、高価な鎧兜を装備して訓練場に来ていたので、そのままそれに風船を付けようとしている。

鎧を着て来なかったのは、唯臣とブーシェスだけだった。


 唯臣はその酸っぱい匂いの兜と鎧を装備する。

本来お世辞にもかっこよさのある防具ではないのだが、唯臣が着るとまるでオーダーメイドされたハイブランドの鎧の様にさまになっていた。


「あぁ。溜息が出るほど恰好良いわぁ。」

「神!神!!神!!!」

女子達の目はハート。


 結局、唯臣とペアルックがしたいと言う事で女子は全員、酸っぱい装備コーデになった。


「は~い。

 じゃぁ訓練場いっぱいに広がってくださ~い。

 集中しないとケガするぞ~。」


「それでは始め~。」

やる気の無さそうな開始の合図。

 

 広い訓練場にばらばらと散らばっていた貴族達が、スタートの合図で”やーっ!”と木刀を振りかぶりぶつかり合う。

 騎士団に入ったばかりの初心者や、能力の低い者が集められているBクラス。

武術の心得も何もまだ無い者達だ。幼稚園生のお遊戯会の様な光景。


「おいおい地味子ぉ~。

 そんな装備で大丈夫かぁ~?」

ジョビリーがブーシェスに詰め寄る。


 ジョビリーはブーシェスめがけて邁進していた様だった。

ジョビリー、クイマ、レートは3マンセルで行動しているが、意外に強く、ブーシェスに辿り着くまでに、風船をもう既にいくつか割って持っていた。


「ひぃ~。」

ブーシェスは悲鳴をあげた。


「くらえ~!!」

ジョビリーが木刀を振り上げブーシェスに切りかかる。


   ”カンッ”


 それに割って入ったのだ唯臣だった。

木刀を横にしてジョビリーのそれを受け止めた。


「唯臣~!

 またじゃましやがってよぉ!」

ジョビリーが叫ぶ。


「なんだ?

 おめー、俺の事が好きなのか?

 だったら子分にしてやってもいいんだぜぇ。」

鼻を鳴らして言うジョビリー。

「違うよぉ!

 周りを見てみなよ!」

クイマが慌てて言う。


 ジョビリーが辺りを見渡すと、もう全員退場していて、残りはここの5人だけだった。


「えーっ!!

 どうなってるんだ!!」

ジョビリーは慌てて言う。


 唯臣はポケットがパンパンになるほど風船を持っている。

ほとんどの参加者を唯臣が倒していたのだ。


 恐ろしい素早さの唯臣。

目にも止まらぬ速度で、男の貴族の胸の風船をめがけ突きをお見舞いして割って行った。

 そして女子達は、どさくさ紛れて抱きしめれたらと、唯臣に列を作って自ら突進して行ったので、唯臣は丁重に兜の風船を割った。


 そうして、残ったのがこの5人だったと言う訳だ。

 

「ふっ、ふ~ん。

 なかなかやるじゃんか。」

精一杯の強がりのジョビリー。


「でもこっちは3人だ!!

 おらぁ、クイマ、レート行くぞぉ!!」


 3バカは一斉に唯臣にとびかかった。

しかし、唯臣にとって、3人いようがその10倍された動体視力では、止まって見える様な動きだ。


  ”パンパンパン”


 3つの風船を簡単に割った。


「ぐぬぬぬぬぅ~!」

膝を突いたジョビリーの最後の言葉。


 3バカは惜しくも無く退場。

残りは、唯臣とブーシェスになった。


「あっあっあ……、助けて頂いてあっありがとうございます!」

勢いよく兜を装備した頭を唯臣に向かって振り下ろす。


     ”パンパン”


 唯臣の鎧の風船と、ブーシェスの頭の風船がぶつかり二つとも割れた。


「はいは~い。

 これ終了ね~。

 唯臣・矢倉・ソンギブとブーシェス・グライムが同率1位と……。

 それにしても、唯臣は鎧や兜に触れることなく、風船だけ全部割る器用さもあるのね~。」

教官が言った。


「ごっごめんなさいぃ~!!

 助けて頂いたのに私とんでもないことをぉ~!!」

泣きながら謝るブーシェス。意図しない華麗な風船割りへの謝罪。


 唯臣は全く気にしていない模様。


「はいは~い。

 これで本日の騎士団訓練は終了で~す。

 みんな気を付けて帰ってね~。」

教官が手を振りながら言った。


 そんなこんなで本日の騎士団訓練は終了したのだった。


…………。


……。


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