第20話「騎士団の訓練②」

********************************


 2人の時は、唯臣はアルモナを同じ客車に乗せる。

アルモナは何処にいても同じようにギターを弾くが、唯臣にとって目の前で弾いてもらうのと、後ろから背もたれを通して聞こえてくるのでは全然違う。

 馬車の中は、アルモナのギターをゆったり聞きながら、中世風の美しい街並みを見られる、唯臣のお気に入りの時間だった。


…………。


……。


 あっという間に到着すると、唯臣はアルモナを連れて、騎士団支部へ入って行く。


 建物の中に入ると、コンシェルジュが出迎える。

「ややや、これは……、唯臣・矢倉・ソンギブ様ですね。

 はいはい。

 確かに今日は白階級の皆様の訓練日……。

 それではBの訓練場へ向かってください。」

唯臣の襟に白いバッジを付けて言う。


「ABと訓練所はありまして、もちろん成績順です。

 豪商のあなたなら当然Bから。

 まぁ、と言っても上がれないと思いますけどね。

 騎士団は遊びで来る所ではないので。」

胸に手を当てお辞儀をするも、口が悪い男だった。


 唯臣は目くじらひとつ立てる事無く、アルモナの手を引き訓練場Bを目指し歩き出した。


…………。


……。


 騎士団支部は相当に大きい。

訓練場は、建物を出た所にあるのかと思えば、部屋の1つとして存在した。


―――【訓練場B】―――


 看板がかかる部屋を見つける。

中へ入ると、そこは50㎡ほどある大部屋。

床は茶色いカーペットが敷いてある。土に見立てているのだろうか。

 丸太に藁縄巻いたものが壁沿いにずらっと立ててあり、恐らくこれに向かって剣を振るうのだろう。

そのそばには大量の鎧と兜、木刀が箱の中に入っていた。


 その大部屋には、既に40人程の同じ白階級の人間が集まっていた。


「へい!パァース!!」

ジョビリーが”パンパン”と手を二度叩き中腰でで手をあげる。


「ほら!ジョビリー!」

小さなクイマがジョビリーに向かって何かを投げる。


 何かは最初は塊であったが、空中で放物線を描くと同時に広がり、それは鎖で繋がれた玉と棒であることが分かった。


「うぇ~い。

 はいキャッチー!」

ジョビリーは玉の部分を危なげなく掴み喜ぶ。


「あっ、あの……。

 私のフレイル……。

 かっ返してくださいぃ!」

黒い髪の女が必死に叫ぶ。


 その女は、黒い地味めのローブを着ていて、胸下程までかかる長い黒髪。

前髪で目まで隠れており、表情は分からないが、酷く嫌がっている。

 

150㎝程の小さな体躯を、細長いレートにがっしりと掴まれており、動くことが出来ない様だ。


「地味子ぉ!

 返して欲しかったら取りに来いよぉ!

 ほらクイマ行くぞ!

 おらぁ!」

ジョビリーは全力でクイマにフレイルを投げた。


「あぁ!

 ジョビリー高いよ!」

ジャンプしても届かない。クイマが小さいだけとも言える。


 そのフレイルは放物線を描きクルクルと回って、ちょうどクイマの後ろにいた唯臣の手に球が乗り、そのまま棒の部位もキャッチした。


「あぁん!!

 誰だ邪魔する奴は!!

 ……あっ、お前、ソンギブ家の奴じゃねーかぁ!!

 唯臣だっけか!」

ジョビリーは唯臣に叫ぶ。


「ぷぷぷー!!!

 クスクス!

 お前やっぱりBの部屋かよ!

 豪商が騎士になるなんて無理なことなんだよ!

 お前は一生白階級の、B部屋だね!」

ジョビリー腹を抱えて笑っている。

「僕等も、B部屋なんだけどな……。」

レートがぼそっと言う。


「とにかく! 

 おい唯臣!じゃますんなよな!!」

ジョビリーが言う。


        ”ガラガラ”

 訓練場の扉が開いた。


「……はい、終わり終わりぃ~。

 ここは学校じゃありませ~ん。

 休み時間じゃありませ~ん。

 騎士団ですよ~。

 遊んでたらいけませ~ん。」

”パンパンパン”と手を叩いて訓練所に入って来る男。


 その男は身長190近くある長身で、フワフワとしたパーマがかかった髪。

顔は整っていそうだが、死んだ魚の目をしていて、それが台無しにしていた。


「は~い。

 僕は教官です~。

 今日は君たちの身体能力の抜き打ち検査を行いま~す。

 騎士見習いの実力見してくださ~い。

 その後は、乱戦式の模擬戦を行いますよ~。」

めんどくさそうに教官が言う。


「えぇ~!

 抜き打ち検査なんて聞いてねぇ~よぉ……。」

ジョビリーが眉をハの字にして言う。


「聞いてたら抜き打ちではありませ~ん。

 はい、それでは順に並んでください~。」

教官の指示にぞろぞろと騎士見習いが動きだす。


 唯臣は、手に持ったフレイルを地味子と呼ばれていた女の子に返した。


「!!!

 あっ、あの、あっあ、ああ、ありがとうございます!」

地味子は地面に埋まるのではないかと言うほどの深々としたお辞儀をした。


「わたしっ、あの、ブーシェス……!

 ブーシェス・グライムと言います!」

未だに頭をあげないブーシェス。


 唯臣も会釈し、なんてことはないと伝える。


「……ありがとうございます……。」

お辞儀を解除し、唯臣の顔を見てしまうブーシェス。


 もう目がハートになってしまっていた。


「そこー。

 早くねー。」

教官が催促している。


 唯臣は教官の所へ向かう。


…………。


……。


********************************

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る