第19話「騎士団の訓練①」
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リーヘン・ソンギブの一日は新聞を読むことから始まる。
「今日は楽器の写っている箇所切り抜いてあるから見やすいですぞ!」
リーヘンはご機嫌である。
「最初からそうしたら良かったですのに……。
それにしても今日の朝食、美味しいですわね!
唯臣ちゃんがシェフにお願いしたんですって?」
オルフィーは言う。
今日の朝食は、ビリビリいちごを使った、いちごジャムとバターを塗ったバタートースト。
ビリビリいちごは、極上の味がするが、そのまま食べると揮発性の神経性の毒があり、”シビシビ”と身体が麻痺してしまう。しかし、このようにジャムに加工すると、毒性が抜け美味しく食べられる。毒がある分、他の追随を許さぬ糖質を含んでおり、ブオンバプの名産品となっている。
また、これはこの周辺に群生しており、この地域に住む2又角ウサギの主食となっている。
飲み物は角砂糖を2つ入れた温かくて甘いコーヒー牛乳だ。
昨日夕食後に、シェフに朝食の好みを訪ねられたので、唯臣はぼそっと答えていた。
「これが唯臣ちゃんの世界の家族の味なのね。
……温かい。」
コーヒー牛乳をすすり呟くオルフィー。
「!!!???
見てみろみんな!!
唯臣が新聞の載っとるぞぉおおお!!」
椅子の上に乗って急にガッツポーズをするリーヘン。
「え!!
見せてくださいまし!!」
オルフィーは”バッ”と、掲げられた新聞を取った。
―――ソンギブ家長男大手柄!―――
昨日、ブオンバプの68区域308番地にて。
連日街を騒がせていた悪漢グループの2名を、唯臣・矢倉・ソンギブが華麗に捕まえた。
悪漢達は、無詠唱の光魔法を受け、気が付いたら牢獄にいたと供述している。
唯臣・矢倉・ソンギブは騎士団入団したばかりでの、この度のお手柄。
過大な功績として評価できるであろう。
また、唯臣・矢倉・ソンギブは、職業を公表しておらず、光魔法を無詠唱で唱えたという供述についても、彼の職業への期待が高まっている。
…………。
……。
「昨日のお手柄がもう記事になりましたのね!!
凄いわぁ!唯臣ちゃん!」
オルフィーは唯臣の頭を撫でながら言う。
唯臣は会釈をする。
「流石!!!
わしの息子じゃぁ~~~!!」
そう言いながら、リーヘンはついでにオルフィーも入れて2人をハグしながら叫ぶ。
「もう。パパってば……。
あっ、そういえば唯臣ちゃんは知らないわよね。
……職業って言うのはね、この世界では生まれながらにして誰もが持つものですのよ。
その職業の特性に応じて、能力が伸びたり、魔法や特技を覚えますの。
特に公表の義務はないのですが、幼い頃から職業に合わせた専属の授業や訓練などもあって、大概の人は、隠してもいないですわ。」
オルフィーはこの世界の常識を唯臣に教える。
「ただ、人は生まれた時にマーダー神殿で、職業神の信託を受けるのよ。
唯臣ちゃんはどうしようかしらねぇ……。
もう赤ちゃんじゃないしねぇ。」
頭を抱えるオルフィー。
既に16歳の唯臣が、今から自らの職業を信託してもらうのはとても異様な状況になるだろう。
「まぁ、良いわ。
それは後で考えましょう。
今日は騎士団の初めての訓練でしたよね?
頑張って来てくださいまし!」
オルフィーは胸元でガッツポーズして、唯臣を鼓舞した。
唯臣は一度自室に戻り衣装室へ入る。
今日は初めての訓練だ。
何をするのかは分からないが、とにかく何があってもいいように、動きやすい衣服がいいだろうと、衣装室から見合う物を選ぶ。
しかし、唯臣にとって最優先は、貴族のゴテゴテした派手な衣装では無い地味なものをチョイスすること。
そうするとだいたいいつも同じ服装になるのだった。
いつものように衣装を選んでいると、リーヘンが部屋に入って来た。
「……唯臣。
おまえにこれを託す……。」
リーヘンが神妙な面持ちで唯臣に何かを手渡す。
リーヘンに渡されたのは、ソンギブと刻印されたショートソードだった。
鞘から抜くと、それは白銀で作られており、刀身を覗くと唯臣の顔が写るほど磨かれている。
名前は刻印されているが、柄頭の所に埋め込まれていたであろう何かは取り外され、そこは綺麗な円の空洞となっていた。
「この剣は、わしが幼い頃からずうっと持っていた剣じゃ。
しかし、一度もこれを抜いて切った事はない!!
何じゃ?何は剣より強しじゃったか?
暴力より勝る大切なものがある。
わしはそれを信じて生きて来たのだ。」
リーヘンは続ける。
「でも、この剣……、まぁ抑止力じゃな。
こいつがあったから、わしはわしの思うがままに、信じるがままに貫いてこれたのじゃ。
だから、これは唯臣に渡したい。
おぬしの思うがままにこの世界を生き抜いて欲しいんじゃ。」
真っすぐに唯臣を思う気持ちを正直に伝える。
唯臣は会釈する。
リーヘンが自分の事を想ってこの剣を託したこと、自分の未来について、本気で考えていること。全部が伝わる。
そのすべてを踏まえた、唯臣の心の底からの会釈。
リーヘンは笑って見送る。
唯臣は身体がいつもより軽く感じる。
この温かい気持ちを胸に、アルモナを連れて馬車へ乗り込んだ。
…………。
……。
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