第18話「冒険者ギルドでの初仕事③」

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              ”ザッ”


 唯臣は猫を挟んで、男達の前へ立ちはだかった。


 猫は足音に反応し、唯臣を見る。


「にゃぁあうぅぅん♡」

発情期の様な声を出して目をハートにする雌猫。


 依頼の対象”エモラン”と思われる猫は、とびかかる様に、唯臣の胸の中に納まった。


 猫の軌跡追う様に、目線を上にあげて唯臣を発見するほっかむりの男達。


「おうおうおう!

 なんだおめー!

 俺のかわいこちゃんを奪いやがるのか!?」

這いつくばったままの恰好で啖呵を切る男。


「ものの価値の分からねーボンボンは身ぐるみも置いて、ここを立ち去りな?

 そうすれば少なくとも痛い目を見る事は無いぜ。」

こちらも這いつくばり啖呵を切る。


 這いつくばる男達が、見上げながら唯臣を睨む。

背筋良くピンと立って男達を見下ろす、姿勢の良い唯臣。

見た目上では、既に100対0で唯臣が勝っている。


 男達はそのままトカゲの様に4足歩行でカサカサと唯臣の元へ走って来ると言う事は無く、流石に立ち上がり、腰に差すナイフを手に持ち走りかかって来る。


 その時だった。


 城壁で隠れていた太陽がちょうど城壁を越えて顔を出したのだ。


 ずっと暗い影の中に居たほっかむりの男達の目に、直接光が入って来る。


「ぐわぁ!

 なんだ、こいつ!!

 ライトニングの呪文を詠唱無しで唱えやがった!」

目を押さえ吠える男。


「ああ……あああああ~~っ!

 目がぁぁ~~!目がぁぁぁぁあっ!!」

目を押さえうろたえる男。


 太陽を背にする唯臣には、なんの苦しさもない。


 後は簡単だった。

現実世界で一通りの格闘技は習っていた唯臣は、男達のみぞおちに、綺麗に前蹴りを突き刺して行く。


 簡単に意識を失い倒れ込んだ男二人。


[唯臣は悪漢たちをやっつけた。

 レベルが3になった。

 力が22上がった。

 素早さが24上がった。

 体力が16上がった。

 賢さが20上がった。

 運の良さが63上がった。

 最大HPが86上がった。

 最大MPが62上がった。

 唯臣は、ヒール、メラメラ、スレイブの魔法を覚えた。]



 戦闘に勝利した唯臣の腕の中では”ゴロゴロ”と猫が幸せそうにしている。

唯臣は依頼の猫との特徴を照合し、この猫がエモランであることが分かった。


       ”ゴロゴロゴロゴロ”

 偶然に荷台を引く男が通りかかる。


「おいおい!

 これ最近この辺りを騒がしている、悪漢じゃぁねぇか。

 お兄ちゃんがやっつけたのかい?」

そう言いながら荷台に入っていたロープで手際よく二人を縛る。


「えっ!

 ソンギブ家の長男!?

 ありゃま。

 それは凄い人にあってしもうた。

 それじゃあ、おらがこいつら警備兵に引き渡しといてやるわ。

 ちゃんとお兄ちゃんがやっつけたって言っておくからな。」

そう言うと荷台に男達を乗せて去って行った。


 なにわともあれ、一件落着である。


 唯臣は、猫とアルモナを連れて、10分かけてギルドまで戻って行った。


「あらぁ、唯臣お帰り。

 どうしたの忘れ物?」

フレイアが机に突っ伏したまま話す。


 唯臣は、”シャー”っと恋敵のフレイアに唸っている、手の中の猫を見せた。


「えっ!!!???

 もう見つけて来たの!?

 まだ30分も経ってないじゃない!?」

”ガタッ”と立ち上がるフレイアは驚きが隠せていない。


フレイアも依頼の猫と照合する。

すると、やはり間違いなく渦中の猫であった。


「しっ、信じらんない~!!

 初依頼をこんな超高速解決なんて~~!!」


…………。


……。


 依頼主に通信し、依頼主の猫好きのマダムを呼び出した。

マダムがやって来るのに約30分過ぎかかったので、依頼よりも時間がかかったことになる。


「エモランちゃぁ~ん!!

 あぁ良かった!

 わたくしの愛しい愛しいエモランちゃぁ~ん!!」

猫を抱き寄せ頬ずりするマダム。猫は唯臣の胸の中に返りたそうな顔。


「あなたが見つけてくださいましたのねぇ!

 ……!?なんですかこの超絶イケメン!?」

猫の次に唯臣の顔を見たマダム。


 唯臣は会釈した。


「格好いいでしょぉ。

 私の唯臣。

 ……まず、猫ちゃんの状態とか確認してみて。」

さらっと所有発言をするフレイア。


 そう言われて、飼い主は猫の状態を確認する。

するとそのつやつやとした毛並み、健康そうな表情に感嘆した。


「エモランちゃん一体何を食べさせてもらったのぉ!?

 毎日極上のキャットフードを食べさせてあげていたのに、いつもより断然に素晴らしいわ。

 体調管理もプロのテイマーを雇ってしていたのに、それよりも調子良いみたい。

 信じられない一体なんでこんなにエモランちゃんは健康な状態になったのかしら?

 やっぱりイケメンさんに撫でてもらったから?」

マダムは唯臣に色目を使う。


「本当にありがとうね。

 報酬とは別にこれは気持ちですわ。」

そう言ってマダムは唯臣の胸ポケットにコインをごそっと突っ込んだ。

それは大きな金貨1万プオンだった。


「じゃあ、フレイアさんもありがとう。

 またなにかあればお願いするわ。」

最後に投げキッスをして去って行くマダム。

 

「マダムも大満足ね!

 凄いわ!唯臣!

 これは文句なしの超成功よ!

 超成功で依頼をクリアなんてそもそも、1年に1回有るか無いかなのに、初めての依頼で超成功って本当に凄い事よ!」

フレイアは自分の事の様に嬉しそう。


[唯臣は、

 探索クエスト~猫好きマダムの猫を求めて~

 を超成功でクリアした。

 ギルドポイントを8獲得した。]

昇格まで残り192ポイント。


「この調子なら、1年後くらいには昇格するんじゃない?

 普通は2、3年かかるのにぃ。」

フレイアは続ける。


「じゃぁ、ちょお~っと早いけど……。

 おねぇさんと気持ちい事しに行きましょうか。」

完全に仕事を早退する気満々である。


「聞きましたわ!

 唯臣ちゃん!!

 悪漢を退治したそうね!!」

オルフィーが"ガチャ"っとギルドの扉を開けて入って来る。


「偉いわぁ!

 唯臣ちゃん!」

唯臣の元まで駆け寄り”よしよし”と言う風に頭を撫でるオルフィー。


「なに?悪漢退治?

 唯臣は今、探索依頼をクリアして来たところなのよ?」

目を丸くして言うフレイア。


「凄いわ!

 依頼も達成したのね!

 今日は唯臣ちゃんの大好きなごちそうを作ってもらいましょう!

 ほら帰りますわよ!!」

オルフィーは、片方の口角をあげてフレイアに流し目をした。


 お姉ちゃんはどうなっていたとしても、夕飯に唯臣が帰って来るように迎えに来るつもりだったようだ。


「あー、邪魔が入ったわね。

 唯臣、次は二人で楽しくて気持ちの良い事をしまようね。」

フレイアも、まだまだチャンスがあると言うような含みのあるにやつき顔で、唯臣達を見送るのであった。


 とにもかくにも、初めての冒険者ギルドげの依頼を完璧にこなした唯臣であった。


…………。


……。


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