第17話「冒険者ギルドでの初仕事②」

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 ギルドを出て歩き出した唯臣は、一先ず周囲を見渡してみる。

 裏ぶれた街の角にあるギルド。すぐ横に街を囲う城壁がそびえる。

ギルドの建物自体は、陽が当る様に城壁から離れた位置に設置されているため、明るい。

しかし、少し裏を覗いてみると、街を囲む大きな城壁が陽の光を遮ぎり、すみの方はかなり暗くて、近づかなければ何も見えない。それが、何十キロも永遠続いている。

 逆にギルドから街の中心へ目を向ける。

石畳の街路は、街路樹が光を蓄え鮮やかに緑を繁らし、その路には何台もの馬車が往来し、通行人も多く、賑わっている。

 建物は区画的にきっちり設置されており、網の目の様に美しく整理された街並みだ。

 これもまた何処までも続いている。


 唯臣は考える。

どこから探せばいいのかと。

 ブオンバプの街は相当に広い。

小さな猫一匹を見つけようなど途方もないことである。


 今一度、依頼書を見てみる。

期限が2週間となっていた。

一日やそこらで終わる様な依頼ではないようだ。

大きな街で小さな猫を見つけるのはそんな簡単な事ではない。


 猫の特徴が記載された箇所を見てみる。

名前は、エモラン。

三歳の雌猫。体躯はかなりぽっちゃりしている。

 真っ青の体毛に黄色の斑が彩る色鮮やかな猫だ。

現実世界で青い猫など、アニメでしか見たことが無い。


 本来は、この手の捜索の依頼は、魔法を使ってこなされる。

例えば、対象の体毛などを使って唱える、”チェイサー”の追跡魔法。

初心の術者であれば、なんとなくの方角が分かる。心得てくると、正確な位置や、距離までも分かるそうだ。

 その他は、例えば、他の野良猫達などに”スレイブ”の主従魔法をかけて探すなどもあるらしい。


 しかし、唯臣は魔法を使えない。

魔法は、レベルアップで覚えたり、もしくは”スクロール”という読むだけで魔法が唱えられる巻物型のマジックアイテムか、もしくは貴重な魔法書を読み込んむことで覚えられる。

 そうなると、今唯臣に出来るのは、レベルを上げて覚える事を期待するか、スクロール、若しくは魔法書を買う事である。

 ただ手ぶらで馬車に揺られてギルドまで来たので、今は先立つものを持たない。

 一度ソンギブ家に戻りプオンをもらって何かマジックアイテム等を購入しなければならない事になる。

そうなると今日一日はもうつぶれた。

 初めての物を購入して、使って、更に覚えたそれを初めて使用するという時間などを考えると、たった2週間でこの広い街から猫1匹探すのは困難ではなかろうか。



 途方に暮れるしかない……、と言う事は唯臣にはあるはずはない。

唯臣の運の良さはレベル2にして、”2558”である。


 唯臣は、ボーっとしているアルモナの手を引き歩き出す。


 城壁沿いを二人で”てくてく”と歩いて行く。

城壁沿いは暗いが、ちょうど現在正午ごろで、太陽は高く、城壁の影はかなり唯臣達に近づいて来ていた。

 太陽はまだ城壁の外側にあるが、10分もしないうちに跨ぐのであろう予測が立てられる。唯臣達は、太陽を背にする形で歩いて行く。


 そして、まさに10分もしないほど歩いただろうか。

そこは何かの大きい建物が横広に建てられていて、ぐっと道幅が細くなり、城壁沿いの直線しかない場所だった。


 唯臣達の目の前に現れたのは、真っ青の体毛に黄色の斑が彩る色鮮やかな猫。


  と、何か黒いほっかむりをした男達だった。


「ぐへへぇ。

 見てくれよこの猫。

 青い毛に黄色の斑点。

 めちゃくちゃ希少なローネタコガボット種じゃねぇかぁ!!

 こんなに毛艶も良くってよぉ……。」

ほっかむりで顔は良く見えないが猫を幸せそうに撫でている。


「良いじゃねぇかぁ!

 そいつは売ったら、100万プオンくらいするんじゃねぇかぁ!?

 もうこんなやられ役ばっかのしょうもない裏家業とはおさらばできるぜぇ!」

鷹のネックレスをプラプラさせながら歓喜の声をあげる男。


 2人のほっかむりをかぶった男達が猫と同じように這いつくばりながら喋っていた。


唯臣は一旦アルモナの手を放し、その男達の元へ駆け出して行った。


…………。


……。



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