第13話「騎士団に入ろう②」

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 目の前にそびえ立つそれは、確かに大きい。まさに城だった。

白銀を基調に誠実と純潔のテーマの下建てられた、清潔感溢れる建物。

 しかし、建物のサイズ感はソンギブ家の同じ様なものだ。

ソンギブ宅に住んでいる唯臣にとって、さほど圧倒的には感じられない。


「さぁ、唯臣ちゃん入りましょう。

 騎士になる手続きはそんなに時間のかかるものではなくってよ。」

オルフィーが先頭を切って大きな門をくぐって行く。


 エントランスに入ると、大きくて広い吹き抜けと出くわした。

天空に届くのではないかと言う開放的なロビーだ。

 床は真っ赤なマットで、高い天井との対比は鮮明で、インテリアも質素なもので固められ、清潔感に溢れていた。

 そこには騎士や、その使用人や楽奴など、30人程がソファーに座ってくつろいでいたり、受付をしたり、談笑をしていた。


 コンシェルジュだろうか。

「ややや!

 ようこそおいでくださいました。

 ソンギブ家の令嬢様ですね?

 かの豪商様が、騎士団ブオンバプ支部になにか用でしょうか?」

少しトゲを含む言い方。


「あら、丁寧にありがとうございます。

 さようでございます。

 私は、オルフィー・ソンギブ。

 本日は当家の長男。

 唯臣・矢倉・ソンギブの入団手続きに参りました。」

お姉ちゃんはスカートをつまみ優雅に返答する。


「えぇ!

 ソンギブ様が騎士団に入団されるのですか!?」

コンシェルジュは驚き大きな声が出る。


         ”ザワザワザワザワ”

 エントランスの人々が一斉にざわめき出した。


 それもそのはず。

豪商も入団可能とは言え、騎士団に入団したのはこれまで貴族だけだった。

 暗黙の了解で、貴族しか入団しないとなっている騎士団。

そのなかで豪商であるソンギブ家が初めて騎士団の門徒を叩いたのだ。


「あぁー、確かに豪商様も入団は可能ですがね……。

 そして、入団をするのが彼ですか?」

コンシェルジュは唯臣を指し示す。


 唯臣は会釈する。


    ”ザワザワ……カッコいい……ザワザワ”

が唯臣に送られる。


 ロビーに居た女子達が、唯臣を見て一様に惚れ気の視線を送っている。


 唯臣は、現実世界でもあの人気だったのだ。

恰好良さも、10倍になっている【シンフォニア】では、女性は皆、唯臣に愛及屋烏あいきゅうおくうの気持ちを抱くであろう。


 そうなってくると面白くないのは男子である。


           ”””カチャリ”””

 3つの足の鎧、サバトンがこすれ合う音がする。


「おいおい、おぃ~。

 こんな所に、騎士とは似つかわしくない奴がいるなぁ~。」

唯臣を少し見上げながらすかした顔で言う男。


 とがった鼻のそばかすだらけのナスみたいな顔の男が腰に手を当てて、ふんぞり返っている。


 その後ろには舎弟なのか2人が控える。

1人はその男より小さく、しかし玉ねぎのように真っ白で横にかなり太い。

もう1人は唯臣と同じ程の身長だが、ゴボウのように黒く細い。


「俺の名前は、ジョビリー。

 あの、ムスト家の長男だ!

 後ろの二人は、クイマ・トンダとレート・ルク。

 知っているだろう?

 3人ともこの町で名家の大貴族様だ!」

ふんぞり返ってちょうど目線が唯臣の顔になるジョビリー。


 唯臣は会釈する。


「ふん、ちょっと背が高いだけで調子に乗るなよ。」

ジョビリーが言う。

「豪商だから、お金も持ってるよ。」

太っちょクイマが後ろで訂正する。

「あと顔も良い…。」

細長い男レートも後ろでぼそっと追加する。


「うるせぇ!!

 貴族の世界に豪商が混ざろうとして来てるんだ!

 もちろんそれなりに覚悟があって来たわけだろうなぁ!!」

後ろの取り巻きを制し、唯臣に啖呵を切る。


          ”キンッ”

 ジョビリーは腰の剣に手をやる。さやと小手がこすれて小気味の良い音がした。


「俺は別にここで決闘してもいいんだぜ。

 もう俺のレベルは8もある……。お前はどうなんだ。」

稽古帰りなのか、フルアーマー装備の男が、鎧所か剣も持っていない唯臣に言った。


 唯臣は、ピースをした。


「あっ、あぁん!!

 なっ、なんだそれは!!

 新しい決闘了承のポーズかおい!」

ジョビリーが”ザザッ”と後ずさり、慌て気味な声で荒げる。

「レベルが2ってことなんじゃないかな?」

クイマがこそっと訂正を入れる。


「はぁ!?たったレベル2!!

 どの面下げて、騎士団の門を開けたんだよ!

 はははっ、大笑いだ!

 なぁ、みんなそうだろう?」

高笑いをしながら、周りを見回すジョビリー。


 今日の騎士団支部の人数分配は、たまたまだが7:2で女比率が多かった。

残り1割は楽奴。

ロビーに居る、7割の人間の目はハートになっていた。


「ぐぬぬぬぬぅ~~~!!」

”ぐぬぬ”を本当に口から発するタイプのジョビリー。


         ”パンパンパン”

  男が手を打って間に入って来た。


「ジョビリー君、それまでにしましょう。

 美しくないでしょう?」

男は続ける。


「唯臣・矢倉・ソンギブ君だったかな?

 初めまして。

 僕は、タカキ・ワーヤサカ。」

胸元に手を置き、華麗にお辞儀をする。


 唯臣も会釈で返す。


「あぁ!タカキさん!

 唯臣!お前終わったな!!

 タカキさんは俺達白階級の2つ上、黄階級の騎士様だぜぇ!」

ジョビリーが威をかる。

「僕等も入ったばかりで白の1番下の階級ってことがバレたけど……。」

レートがぼそっと言った。


「そうだね。

 僕は黄階級さ。」

襟元に光る黄色のバッジを見せて言う。


「僕は歓迎するよ。

 唯臣君。

 このエレガントな騎士団の世界で、君の光る汗を見てみたいな。

 来月の終わりにちょうど昇級試験もあるわけだし、そこで君と遊んでみたいよ。」

髪を掻き揚げながら言うカタキ。


       ◇◇◇


 騎士団の階級は色で決められている

白→青→黄→緑→紫→赤→銀→金→グランドマスターとなる。

 緑までは支部ごとで取り決められた試験方法で昇級していく。

紫以降は、騎士団全体で昇級試験が課せられるようだ。


       ◇◇◇


 コンシェルジュと共に、せっせと契約書を書いていたオルフィーが、戻って来て騒ぎを聞きつけた。

「みなさま、分かりましたわ!

 来月の昇級試験で、うちの唯臣ちゃんは必ず。

 黄階級に昇格してみせますわ!」


 オルフィーはタカキを指さし、自信満々に宣言する。


「いいね。

 美しいお嬢様の啖呵。

 気に入ったよ。

 唯臣君。

 昇級試験楽しみにしているよ。」

不敵に笑うタカキ。


 来月の昇級試験。

唯臣は無事に昇級することが出来るのか。


…………。


……。


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