第12話「騎士団に入ろう①」

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           "コンコンコン"


 次の日の早朝。

ノックの音で目が覚めた。


「唯臣様!おはようございます!」

オルフィーは、スカートの端を掴んでお辞儀をした。


 唯臣は、会釈をする。


「……家族ですものね。

 もう敬語はおかしいかしら?

  唯臣ちゃん。

 今日は騎士団に入団手続きに行きますわよ!」

敬称を”ちゃん”に選んだ、年齢的にお姉ちゃん。


 オルフィーはその勢いのまま、唯臣とアルモナを馬車に乗せた。


 目的地までは、ここから20分ほどで到着するらしい。

レンガ造の欧風な街並みを、白馬が引いた絢爛な馬車が通る。

乗るのは花柄の華やかなドレスのオルフィー。チェドル&バッカーノと言う異世界で有名なハイブランドらしい。

 朝の陽ざしのアンニュイさも相まって、フランス映画を切り抜いた様だった。


 ちなみに唯臣は、ソンギブ家の大きな衣装室の中から、黒メインの出来るだけシンプルな服を選んで着ている。袖や、襟が大きいと言うこと以外は、現在のシャツの形とあまり変わらない服と、黒地に、黒のレースで細かく刺繍されたズボンをチョイス。

 唯臣が袖を通すとそれはもう、あつらえたかの様に似合っていた。


 オルフィーの正面に唯臣が座り、アルモナは後ろの荷台でギターをつま弾き、バルオもそれに合わせてサックスを吹く。


「騎士団本部は、当然ミグニクト城下街にあるのですが、ブオンバプにも大きな支部があるのですわ。」

オルフィーが騎士団について語り始めた。


            ◇◇◇


 富国強兵を理念とする”ミグニクト”という国に置いて、騎士団は王に次ぐ一番の首脳機関と言っていい。

 "次ぐ"というよりは、王すらも今のグランドマスターの指示を大きく参考にしている点から、最高権力と言えるかも知れない。

 騎士団本部は、城のあるミグニクト城下街に鎮座する。

その大きさは城と変わらない。

 騎士団支部はブオンバプとチンキにも一党ずつあり、その他村々には、駐在所と言う形で建物が設置されている。

 

            ◇◇◇


「今から向かうのは、騎士団支部ですわ。

 支部と言っても、国家権力の中枢。

 建物も荘厳で美しくて素敵ですのよ。」

オルフィーがうっとりしながら言う。


「設備も本部と遜色なく揃ってますし、手続きも一々本部に回答を待つ事無く支部だけで完結できますの。

 本部との違いは……。

 本部より少し小さいのと、【スタジオ】がない事ぐらいでしょうか。」

あごに手を置いてオルフィーは言った。


 唯臣の耳が”ピクン”と反応した。


―――スタジオ?


「あぁ、スタジオですか?

 【スタジオ】は、グランドマスターだけが所持出来る、作戦会議室ですわ。

 世界中の魔導士の心血の髄を集めたが掛けられてますのよ。

 そこではどんな国の諜報機関も、と言われてますわ。」

オルフィーはしたり顔で言う。


      ◇◇◇


 そもそもこの世界の魔法は、大きく”攻撃魔法”・”回復魔法”・”生活魔法”・”音魔法”の四つに区分されている。


 攻撃魔法は、文字通り対象を破壊したり、殲滅すること。

もしくは相手を眠らせたり毒をかけたり、デバフも該当する。

また、誘惑したり洗脳するような魔法も該当する。要は、相手を対象に取り、危害を与える様な魔法。


 回復魔法は、傷を癒したり、解毒など。

または、力を上げたり、防御力を上げる様ないわゆるバフと言われるものも含まれる。自身や味方に対して唱える魔法。


 生活魔法は、洗濯や掃除と言うような、現実世界で言う所の科学。

より”便利”を追求することで生まれて行った魔法。多種多様なものがある。

 または罠を解除したり、鍵を開けたり、何かを探す時に使う様な魔法。

スカウトと呼ばれる職種が使う魔法も含まれる。


 そして音魔法。

これは通信や傍聴・盗聴、または音の遮断など、音を拾うことや消す事を目的とした魔法。

 それ以外にも、音を大きくすることや、歪ましたり、揺れさしたり、響かせるなど、音の聞こえ方も様々に追及研究されて発展した魔法。

 この世界では一番熱心に研究されているのが音魔法だと言う。


      ◇◇◇


「ブオンバプの街では、音魔法の”シュオーン”で、不愉快な音楽や他の音魔法に反応出来る様になってますのよ。

 私達のお家も、相当強力な”シュオーン”が掛けれていますので心配ご無用ですわ。

 そして、そう言う音魔法を完全にかき消す、強力な”防音の魔法”が掛けられているのが【スタジオ】と言う事ですわね。」

しみじみとオルフィーは言う。


      ”ヒヒーン”


 白馬がその馬脚を止めた。


 2人が話をしている間に、気づけば到着した。

ブオンバプが誇る堅牢美的なお城の様な建築物。


 目の前に騎士団支部がそびえ立っていた。


…………。


……。


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