第8話「楽々異世界ライフ③」

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 遠くからでも大きく見えていた城壁は、近づいたらなお、とてつもなく大きな物として目に写った。

 それは圧倒的な威圧感で、外敵の侵入を拒む。

ファンタジー世界で言うのであれば、おそらくドラゴンくらいしか入って来れないのではないだろうか。


 堅牢な街門に到着すると、鉄の鎧を身に纏う警備兵が10人程が立ちはだかる。


 しかし、唯臣達の乗る馬車がだと見るや否や、2人を残して開門する為に動き出した。


「お帰りなさいませ!ソンギブ様!」

残った2人の兵士が丁重にお辞儀をした。


{所謂、顔パスと言うやつですな。

 こんな大きな都市の厳重な警備の中でも、そのような扱いなのですのぉ〜。

 矢倉家よりも凄いんじゃぁないでしょうかぁ〜。}

 

 門を潜ると、そこに現れたのは煉瓦造りの建物や、賑わいを見せる大きな市場だ。

 中世ヨーロッパの様なこの街並みは、絵本の中に入り込んだようで、誰しもの中に眠る少年心を滾らせる。

 まさにファンタジー異世界にやって来たと言う感覚を与えた。


「見てください!唯臣様!

 あれが我がソンギブ家の屋敷でございます!」

オルフィーがニコニコと跳ねる様に指を指す。


 そこに見えて来たのは、現実世界の矢倉家の4倍程の大きさの屋敷だった。

寧ろもう城なのではないかと思える。

赤い屋根の尖塔が何本も空に向け伸びていた。


 唯臣は、身近にある中では矢倉の家が、今まで見た1番大きな家だった。

 しかし、ソンギブ家はもう全くの企画外であった。

本当の資産家の屋敷を初めて見た。


 オルフィーに促されるまま家に入ると、"ドタドタ"と忙しない足音が聞こえて来る。


「おぉおお!!

 オルフィー!!!

 本当に本当に無事でよかったぞ!!

 通信魔法で馬車と連絡が取れなくなった時は、どれだけ心配したか……。」

恰幅の良い、短髪で髭を蓄えたおっさんがオルフィーの肩を抱き"おいおい"と泣いている。


「もうパパ。

 そのあとちゃんと無事と伝えたでしょう?

 命の恩人を連れてくるとも……。」

困った子供をあやす様な目でパパを見るオルフィー。


「おお!!そうじゃったそうじゃった!!

 この度は我が子を助けて下さりありがとうございました!!

 わたしの名はリーヘン・ソンギブ!

  貴殿が命の恩人、矢倉唯臣様ですな?

 ってえー!!

 なんですかい、このイケメンは!!

 かの魔法都市におられると言うタクキム様ぐらいイケメン!!!」

"目が飛び出る程驚く"と言う顔を初めてみた唯臣。


 雰囲気と言うか、ノリと言うか、どことなく羊川に似ている男だと思った。


 唯臣は会釈した。


「このイケメンのお方が、魔物をバッタバッタと薙ぎ倒し、オルフィーを助けてくれたと言うのかね……。

 美と武を兼ね揃えた素晴らしいお方だ……。」

リーヘンはへたり込み変な格好でおののく。


「それだけじゃなくってね……。」

オルフィーは唯臣に道中聞いた異世界転移の話をした。


「なんと異世界転移!?

 別の世界からやって来たと!!

 そんな凄い事聴いたことないですぞ!!

 しかし、異国の不思議な話は大好きですぞ!

 さぁ唯臣殿。わたしにお主のとっておきの話を沢山聴かせてくだされ!」

そう言いながら、リーヘンは、手を顔の横で2回クラップ。


 すると、見たこともない異世界の料理を使用人が続々と持って来る。

 唯臣は2人に促されて、大きなテーブルの広間へ案内され、豪華な食事会が始まった。

 そして、この食事会には、楽隊まで付いている。

先ほどのバルトと呼ばれたサックスの男と、トートーと言う名の、小さな女の子だ。

トートーは、自分の背丈よりも遥かに大きいグランドピアノを弾いている。

 

 そこからの3人で行った会話は、唯臣とってとても楽しいものであった。

オルフィーもリーヘンも気さくで優しく、唯臣のぽつりぽつりと話す事に、何一つ疑いなく受け入れ、驚き、喜び、相槌し、時には悲しんだ。


 羊川がいなくなってから一度も無かった誰かと一緒の食事。

美味しいご飯を囲み、家族の会話の様な楽しい会食。


 楽しい様々な話をした後、オルフィーは言う。


「転移して来られたばかりで住む場所も無いのですよね?

 御礼だけとは言わず、我が家に住んで頂いても構わないのですよ!

 幸い屋敷には余っているお部屋も沢山ありますから!

 なんなら婿養子に入って頂きましょう!」

妙案と言う風にキラキラとした目のお嬢様。


「おお!

 それは良い案だ!

 息子よ!!

 さぁ、わたしを父さんと呼んでくれ!!

 パパでもいい!!

 もちろんパッパでもー!!」

リーヘンは唯臣を抱きしめながら言う。


 そんなう風にして、唯臣のソンギブ家との出会いは始まった。

 転移して間もない唯臣は、本来右も左も分からない。

 野営に追われたり、魔物や盗賊にも襲われるハードな異世界冒険譚を送っても不思議ではなかった。


 しかし、シンフォニアでも数える程の豪商、リーヘン・ソンギブに出会った。

 唯臣には、何不自由のない楽々異世界ライフが始まったのだった。


…………。


……。


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