第7話「楽々異世界ライフ②」
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馬車は舗装された綺麗な道を"パッカラゴロゴロ"と走って行く。
馬の手綱を取る執事服の男は客車の外の御者台に座り、目的の街まで馬を駆る。
客車は大きな木製の車輪が回り、進行方向側とその反対との2シートが配置され、ちょうど片側2人が乗れる、4人乗りの構造。
そして中には、オルフィーと唯臣が座っていた。
「先程は本当にありがとうございました。
あなた様は命の恩人です。
お名前は何とおっしゃるのですか?」
オルフィーは対面に座る唯臣に尋ねた。
唯臣は、オルフィーに名前を告げる。
「矢倉唯臣様と言うのですのね。
格好の良いお名前です。」
オルフィーはうっとりと唯臣を見つめている。
{ほらぁ〜!!坊ちゃま!
もう貴女は坊ちゃまの魅力にメロメロですぞ〜!
そのまま押し倒してチュウでもしておやりなさい!}
「お衣装が見た事の無いデザインですのね。
ご出身のお国はどこなのでしょうか?」
オルフィーはさらに質問を投げかける。
唯臣は、いましがた自身の身に起こった事を告げた。
「まぁ異世界転移!
別の世界からやって来られたのですか!?
凄いです……。
転移者……。
ただそんな話は生まれてこの方、聴いた事は無いですわね……。」
唯臣の事情を疑い無く信じるオルフィー。
{運命の女神に異世界に転移されたなどと言うとんでも話を、簡単に飲み込んでしまうとは……。
……何と御し易いお嬢様でしょうか!
ほら唯臣様、もっと上手い事言って気も身もゆるゆるに許してもらいましょうよぅぞぉ〜。
ムフフ。}
「唯臣様がどんな方なのかもっと知りたいです。
その異世界のお話や好きな事など色々お教えくださいませ。」
"パパパッパッパラ〜♪"
オルフィーが食い気味に唯臣に詰め寄ると丁度そのタイミングで、荷台の方から艶のある抜ける様なラッパの音が鳴り出した。
その旋律は美しく、ソロで演奏をしているようだった。
{おぉ、音の粒が揃っていて心地よい音色ですなぁ。
なかなかのお手前で。}
荷台の中が見えるような小窓が付いていたので、唯臣はそこから覗いてみる。
するとそこには奴隷の様な白い布を巻いた様な格好の男がいた。
ピカピカの金色に輝くサックスを吹いている。
「荷台にいるのは、我が家の占有預かりの楽奴でございますわ。彼は"バルオ"と言う名前ですの。
当家には3人も楽奴がおりますのよ。
……不愉快ならば申し訳ありません。」
オルフィーは数に対しては自慢の様に、そして音に対しては気まずそうに言った。
「"音が苦"とはよく言ったもので、楽器を見ると吐き気がしますわね。
楽器の音なんか聴いてしまった日には……。
でも占有預かりの楽奴を持つ商家なんて、数えるほどしかないですのよ。」
しみじみとした顔で言うオルフィー。
{今現在進行形で演奏なされておるのに……。
まるでサックスの音が聴こえていないかの様に言いますなぁ。
……耳の感度が悪いのかも知れません。
坊ちゃまメモですぞメモ!
攻める時のプランの参考になるんじゃぁ!}
「そんな事より……。
唯臣様の事を聞かせて下さい!」
唯臣は元いた現実世界の話や、自分の事を、音楽抜きでオルフィーに話した。
「まぁ、なんて素晴らしい世界なのでしょうか!
スマートフォン、テレビ、インターネット!
科学と言う魔法なのですね!
その様な物が世界中に生産されてるなんて……。
私には想像も出来ません。
そして、元の世界に帰るには、その女神様の言う【成しなさい】を成就する必要があると……。」
別世界の新鮮な話にキラキラと目を輝かせたり、女神の話を神妙な面持ちで考えたりと、オルフィーは表情をくるくると変化させる。
{ぜひお嬢様の喘ぐような恍惚な表情も拝みたいですなぁ。
ムフフ。}
「あぁ!
楽しくお話をさせて頂いていたら、もう街が見えて来ましたわ!
見てください!
あれが私の住む街、"ブオンバプ"です。
転移と言う大変な旅をして来たのですから。
まずは我が家で御寛ぎください。」
オルフィーは窓を開けて指差しながら言う。
唯臣は彼女の指差す方向に目を向けると、要塞と言っても過言ではないほど、大きな城壁で守られている街があった。
「ミグニクトは武力の国ですからね。
大きな街だと、このくらい強固に守られておりますのよ。」
にっこり笑って言うオルフィー。
「さぁ!我が家に参りましょう!」
…………。
……。
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