第3巻 異世界でもギターが弾きたい!~楽々異世界ライフ~
第1話「矢倉唯臣という男」
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”チュンチュンアサチュンチュン”
雀が分かりやすく朝を告げた。
爽やかな光は窓を通し、町の中でも一番大きなその豪邸の一室にも、朝のシグナルとして届く。
{朝ですぞぉ~!!坊ちゃま起きて下さい!!
……そうそう。
嗚呼!!眠た目を擦るその姿も美しい!!目ヤニになりたい!!
そして、……良い!!
プチプチとボタンを取って……。
ほら、出たぁ!!その、胸板!!細マッチョ!!
乳首になりたい!!
嗚呼!!私は
唯臣と呼ばれた少年は、上半身裸のまま腰掛けていた大きなダブルサイズのベットから立ち上がり、大きな姿見の目の前に立つ。
{おっ、その端正な顔立ちを再確認するんですな!!
坊ちゃまの179㎝の全身もしっかり映っております!
特注の大理石の鏡ですからのぉ!!
坊ちゃまが映ってこそ価値が生まれると言う物ですぞぉ!!}
そして、少年は制服に腕を通した。それは星城高校の制服だった。
{愛らしい!
坊ちゃまの制服姿、愛らしい!!
その神とも言える肉体美も、制服を着たら高校生の初々しい少年らしさへ変貌しますぞ!
まさにパーフェクトヒューマン!!}
そして唯臣は、身なりを整えると、大人3人でスクラムしながらでも簡単に上がれるほどの広さを誇る階段を下る。
そのまま朝飯を取る事もなく、広い廊下を抜け、
{嗚呼!!唯臣様!!
朝食は取ってください!!
私めがいつも作っていた、ほら!
いちごジャムと高級バターを塗り塗りした特上のバタートースト!
それと砂糖を二ついれた、ほっこり甘いコーヒ牛乳!!}
"カチャリ"
唯臣が開けた扉は静かに閉まり、隙間から覗いた朝の光の筋は消えて行く。
そのまま
{嗚呼、唯臣様。……お慕いしております。
気をつけて行ってらっしゃいませ……。}
{あっ……と、皆様。
申し遅れました。私、唯臣様の執事の
ええ、執事と言っても元なんですが。
私はもうこの世の者ではありませんので……。}
{思念と言いますか、この様にして私は片時も坊ちゃまの側を離れず見守っているわけですな。
まぁ、これは愛から転じた魔法のようなものですぞぉ!!
ふぉっふぉっふぉっほ!}
眉目秀麗のこの男が通う星城高校は、県下でもお金持ちがこぞって入学するセレブ高校だ。
所属する70%程の生徒はやはり大金持ちで、さらにその生徒の半数程は、毎日執事の送り迎えで登校していた。
唯臣はこの学校内でも5本指には入る資産家の息子であるが、今はバスで通っていた。
「ああっ!!
唯臣君じゃん!!
おっすおっすおっす!!
こんなとこで生徒会長に出会えるなんてなんてハッピー!?」
男はバスの中で唯臣を見つけるなり、額を床に摺り寄せるほど低い姿勢で唯臣に話しかけて来た。
{行ってらっしゃいとは言ったものの、もちろん私めも憑いて行きますぞぉ!!!
この取り巻きABを連れているしょうもない男は、
坊ちゃまが2年生に上がってすぐに生徒会長になるほどのカリスマだからと言って近頃すり寄って来る害虫なんですぞ!
それにしても坊ちゃまは私が居なくなってからも執事を雇わず、この様に息苦しく過ごしてらっしゃって……。おいたわしやー!!}
「唯臣君このラノベ知ってる?
【異世界でもリア充でありたい】って言うんだ。
まるで唯臣君みたいな完璧な男が、異世界の女の子を助けまくってイチャイチャするラノベなんだぜぇ。
剣持ってても剣使わず勝つんだぜぇ。」
毒巻は共通の話題が欲しいのか唯臣に本を読ませようと手に取らせた。
”バラララララッ”
唯臣は凄い速度でページをめくり、毒巻に要点を告げた。
「スゲーッ!!それって速読ってやつぅ!?
俺よりも内容頭に入ってんじゃん!」
毒巻と取り巻きたちは思わず拍手をした。
「次は星城高校前、星城高校前~。」
バスの運転手が、車内拡声器を使いアナウンスをする。
「あっ!学校ついたぜ。
さぁ今日もたぁーっぷり、佐倉のやついたぶってやるか。」
毒巻達は息巻いて一番にバスを降り、校内へ駆けて行く。
バスが学校最寄りのバス停に着き、
通り抜けた。
すると……。
「キャー!!唯臣様よー!!」
「
唯臣が校内に入った途端、黄色い声が飛び交う。
{唯臣様はもてますなぁ~。よりどりみどりですぞぉ~。
JKはやはりいいですなぁ~。ほら坊ちゃま手でも振ってごらんなさい。
そして振り回したその手で、好きなようにお尻を撫で回しておやりなさい!}
少年は誰かに構うことも無く、そのまま校舎に入って行った。
矢倉唯臣はパーフェクトな存在だ。
美しい顔立ちスタイル、頭脳明晰、スポーツ万能。
寡黙な所も評価されており、品行方正な佇まいと大絶賛。
学校中が彼を放ってはおかない。
どこに行くにも黄色い声や人だかりが出来る。
これまでも、今も、これからも……。
そのカリスマで人々に崇められる人間で在り続けるのだろうと誰もが確信する。
そんな男である。
{そうなんですぞぉ!!
私の坊ちゃまは世界1の男なのじゃ~!!!}
そんな男にも一つだけ全く上手く出来ない分野がある……。
…………。
……。
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