第46話「エピローグ」
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”フーラフラ”
名も分からぬ森に、羽虫ごとき一匹の小さな命が精一杯に飛んでいる。
彼女は何日飛び続けただろうか……。
時には沢から流れる水を飲み、森が蓄えた木の実や果実を食べ、時には魔物にも襲われて……。
目指すは、幸の向かう先へと……。
自分の位置さえどこかもわからずただ闇雲に森の出口へと。
しかし、その歩みは牛歩よりもさらに遅かった。
小さな妖精、その身体は人間の拳だい。
飛んで飛んで、進み続けても……。
もともと居た泉は流石にもう見えないが、おそらく5キロほどしか進んでいないだろう。
それは小さな生き物フェアリーとなった彼女の苦難の道だった。
「……なんなん!
こんなにずっと飛び続けて!
まだ森の中から出れへんて!
てか進んでのこれぇ!」
アルメイヤは叫ぶ。
「こんなん、幸に会うどころか、人にすら会わずにあたしのシンフォニアでの人生終わるんちゃう!?
嫌やで!気づいたらおばぁちゃんになってるとか!」
手で覆いながら苦悶の顔を隠す。
慣れないフェアリー生活が始まって以来、ひたすら森からの脱出を目指し飛行をしていたアルメイヤ。
それでも、出口が見えるどころか、風景も変わらず進んでいるのかも怪しいこの現状にもう体力も精神も限界だった。
―――しかしついに光明が差す―――
”ガサガサ”と木々を掻き分ける音が聞こえた。
それは動物や魔物達が、日常的に己の通り道として形成した獣道を通る音ではない。
人間が非日常の森の中を、警戒しながら彷徨い歩く足音だった。
彼女は息をひそめて、その人の足音のする方を睨む。
フェアリーは人間にとって、非常に希少価値の高い生き物。
もしかしたら奴隷商人が、フェアリー探しで赴いて来た可能性だってある。
熊や猪などの屈強な野生動物より、ゴブリンやオークなど森に生息する魔物より、私利私欲に溺れる人間が何よりも危険な生物なのだ。
しかし、気のいい人間だったら。
馬車や飛竜など何か交通手段を持つ人間が、気前よくその肩に乗せ、謎の森脱出を手伝ってくれるかもしれない。
悪人か善人か。
それを見極める為、彼女は音のする方を睨み続けた。
だが、見ただけで人の善し悪しなど分かるのだろうか?
否。人の心内など、見ただけで分かるわけなどない。
人間の一番の武器は、内に秘めた殺意だろうと悪意だろうと隠して他人と接することが出来る、その意思である。
騙して裏切って利己的に行動することが出来る人間を、一目見て見破る事など出来るわけない。
しかし、今回に限ってアルメイヤは簡単に見破ることが出来た。
何故ならその男の人柄は【人間ノート】に書いてあったからだ。
「えっ……。
えっ!えっ!!え~!!!
あれ
アルメイヤは驚きを隠せない。
そう目の前に現れた人間は、つい先日、自分が女神として会った男。
頭の先から足元まで、生まれてから今まで、その人生を神判した男。
佐倉幸の前にこのシンフォニアへ転生させた男だったのだ。
「そんなことあるぅ!?
あいつやったら、ついてったら良い事しかないやろ!
楽々異世界ライフ送ってるんやろうからなぁ!」
アルメイヤは歓喜して飛び出す。
「おーい!!唯臣~!!
久しぶりやな~!!
あたしや~!!
アルメイヤや~!!」
小さい生き物が大きな生き物に気付いてもらうには出来る限界の音をだしたり、目の前へ飛び出るしかない。
彼女は精一杯それを行う。
男は蚊の羽音がごとき煩い声の出す女を訝しむ……。
そうしてこの広い広い異世界、【シンフォニア】にて。
その命運を担うボーイミーツガールが達成されたのだった。
…………。
……。
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