第43話「打ち上げ②」

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 ザンスター・サオールズの打ち上げは、まだまだ始まったばかり。

 

 幸達はキヨラと会えなかった時間を埋める様に沢山語り合っていた。


「それにしてもキヨラはケイケス邸でどうやって過ごしてたの?」

マロニエの甘い蜜で作られたジュースを手に、幸はキヨラに聞いた。


「あーっ、実はね……。」


「いた!!キヨラちん!!」

 キヨラが喋り出そうとすると、メイドの格好をした、褐色のギャルが手を振って走って来た。


「あっ!マツヒちゃん!!」

キヨラは黒ギャルメイドにハグをする。


「キヨラちんめちゃくちゃカッコ良かったよ!

 なんかもう惚れた!」

キヨラの頭をぐりぐりと撫でながら言うマツヒ。


「屋敷では本当にありがとう!

 幸、私はマツヒちゃんに助けられたんだよ!」


 キヨラはそう言うと、ケイケス邸での暮しぶりを楽しそうに話し出す。


 あわや自分がケイケスみたいな恰好になる事だった事。鞭を手にしたこと。

故に女王様になった事。

 そして、仲良くなったメイドのマツヒの事や、屋敷の奉公人達にどんなに良くしてもらったかを。


 今回のライブの立役者はと言えば、フーガスカになるが、影の功労者は間違いなくキヨラだった。

 ケイケスが酔って町民会議にやって来て、幸が容易にステージに上がる隙が出来たのも、鞭を使ってフーガスカをステージにあがれたのも、全てキヨラのおかげだった。

 そのキヨラをサポートしたのがマツヒと言うわけだ。

 

「そうだったんだ……。

 マツヒさん本当にありがとう!」

幸は頭を下げる。


「この子が、キヨラちんの意中の人?

 あんなギター隣で弾かれたらいっぱつで好きなっちゃうよね!ハハッ!」

幸の背中を"バンバン"叩いて言う。


「そうでしょ。」

キヨラは否定はしない。


「でっ、でもキヨラが凄い恰好で出てきた時はびっくりしたよね。

 一体何が行われてるんだって。遠くであまり良く見えなかったし。」

何故だかはぐらかしたい気持ちになり、次の話題に行く幸。


「……幸の為にまた着てもいいよ。」

キヨラは幸の耳元で囁いた。


 いたずらそうに笑うキヨラに、幸は炎が出るかの様に顔が熱くなった。


 そんな風に幸達が話していると……。


「おーい!

 これみんなで食ってくれよ!」

それは自店の商品を手一杯に持って来た、タコ焼きの屋台の男だった。


「凄かったぞライブ。

 音楽って良いもんだな。」

屋台の男はしみじみと言う。


「うん!音楽っていいだろ!」

幸が"うしし"と笑った。


「お前達のおかげで今月は町民会議の処刑人もいなかったしな!」


「公開処刑なんて酷過ぎるよ……。」

幸が想像しただけで顔が暗くなる。


 現実世界では、人の死など直面することはかなり稀なケースである。

しかも、事故死や寿命等、人の意思に関わらない事が多い。

 処刑のようにその行為自体が目的と言うのは見た事も考えた事もない。


「酷いよなぁ。

 実は先々月のやりだまは俺だったんだぜ。

 全く……。未だに傷が癒えてねーよ。」

タコ焼き屋店主はあっけらかんとして言った。


「えっ!?」

幸は耳を疑う。


「えっ!?」

男も釣られて声を上げる。


 公開処刑をされたのに生きている男が目の前にいる。

全く意味の分からない状況に幸達は直面した。


「公開処刑って……、あのギロチンを使ってするんじゃないの?」

ステージ上に佇む今や形骸化した置物を指す幸。


「まさか!

 そんな人殺しの会議なわけないじゃん!」

マツヒが言う。


「公開処刑はな、ステージ上で拡声の魔法を使って、やりだまの1番恥ずかしい出来事を町中のみんなに知らされるんだ……。」

"おぉっ、怖い"と肩を抱いて身震いする男。


「えっ!?

 そっ……、そうなの!?」

完全に残虐な行為が行われると思っていた幸。


「ケイケス様も嫌なやつだけど、そこまで非人道的じゃないよ。」

屋台の男は言う。


「臭いし、嫌なおっさんだけどね!

 この町のことはあれでもちゃんと考えてるんだよ!」

うんうん、と屋台の男に同調するマツヒ。


 幸達は、酒屋でケイケスが悪徳非道で嫌われ者であるという話を聞いて以来、完全に勘違いしていたようだった。

 ケイケスも領主。人々を導く存在だ。

町民に圧政は強いれども、虐殺のような事は行わない。


「そういえば、ケイケスは何処に行ったんだろう?」

幸が辺りを見渡すが、禿げたパンツ一丁の男の姿は何処にもない。


「あー、ケイケス様ならあっちの方にいるよ!

何か大事な話があるって、話し込んでる。」

マツヒは遠くを指差して言う。


…………。


……。


幸が探していたケイケスは、ちょうど対角上の幸達の反対側に居た。


「こうやって一緒に酒を飲むのは久しぶりだな。」

手の股にグラスを挟んで首を”クイッ”と少し上げた。


 流石に酔いも醒めて、いつもの毒々しい貴族の服を着たケイケスが、対角に座る男に、グラスを突き上げる。


「あぁ、その通りだな。ケイケス。

 今日は、良い夜だ。」

男も同じようにグラスを股に挟み”クイッ”と首をもたげた。


「私はこの町を良い町にすることは出来なかったのだな……。

 お前だったら……、良い町に出来たのか?」

神妙な面持ちでケイケスが投げかけた。


「良い町か……。

 それは町の人々に笑顔が溢れているのか、幸せでいてくれているのかなんだよ。

 そういう意味では、……どうだい?

 今宵の人々を見てみろよ。

 みんな楽しそうだろう?」

男は身振り手振りで、ケイケスに会場を見渡させる。


 幸達の音楽に初めて触れて、音楽のすばらしさを知った町の人々はみんな笑顔だった。


「……そうか。

 ……ワタークよ、まだ間に合うのか?

 私は素晴らしい領主になれるのか?」

ケイケスはポロポロと流れる涙をぬぐいながら言う。


「もちろんだ。

 この美しい町、ザンスター・サオールズをもっと美しくしてくれよ。」

ワタークはケイケスの肩を抱きながら言う。


「そうだな。

 このザンスター・サオールズ。お前とならもっと良い町にして行けると思うんだ。

 頼む俺と一緒にこの町の為に尽力してくれ。」

プライドだけ高いケイケスがお辞儀をしながら言った。


「……分かった。

 一緒にこの町を素晴らしい港町にしよう。」

ワタークも泣きながら言う。


 この町の一番の問題であった、ワタークとケイケスのわだかまりもこの打ち上げで消えた。

 これから町はどんどん美しく、素晴らしい港町へと発展していくのであろう。


 最高の結果を持って、幸達の【成す為の旅】の2回目のライブの打ち上げの夜は更けていくのであった。


…………。


……。


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