第41話「アンコール」

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              ”タッタッタッ ダン”


 フーガスカのカウント(曲の導入の為、リズム隊が正確な曲の速さを伝える単純な打音)から、アンコールが始まる。


 アンコールの曲は、Cのコード一つで、みんなでセッションをするイントロだった。


 たった1つのコードを全員で丁寧に紡いでいく。

お互いが目配せをしてお互いの立ち位置を知り、最良の音を探して行く。

 

 今回のライブは、序盤フーガスカが演奏に加われず、あわやライブが終了してしまう所だった。

フーガスカがステージに上がれた後は、彼女のリズムの舵取から、みんなの心が一つになり、良い演奏が出来た。

 

 幸がフーガスカを見る。

フーガスカも笑顔で幸を見返す。


 【音楽を通じて、フーガスカはもうかけがえのない仲間になっていた。】


 アンコールの曲は続く。

1人じゃないと言う安心感と、相乗効果が産む、美しいメロディー。


 みんなで空高く舞い上がった先に見つけた物。

 それは、個々が各々を発現して奏でた音が、ついに交わり合わさった旋律。


 幸達が奏でる音楽は、ひとつひとつの音が色を持って輝く、虹のカーニバルの様だった。


 特等席で聞いていたミーナは、ひとしきり泣いた後は羨ましがっている。

こんなステージで、沢山の人の前で自分も音楽を奏でたいと。 

 幸の音楽により、楽奴と言う束縛から解放されたミーナは心底音楽に飢えているのだった。


「最高ー!!」

「フーガスカちゃん可愛い!!」

「ギターしびれるぅぅ!!」


 そして、演奏に感動しているのは、ミーナだけではない。

客席は大盛り上がりだ。


 2000人の大合唱。

合わせた声は、大空を飛んで行く。

そして本当に飛んでいるやつもいる。


「ライブって最高じゃねーか!

 おらぁ!みんなもっと騒げー!!」

警備兵隊長が通信魔法を使い兵隊に通信しながら飛んでいる。


 アンコールが始まって、あっという間に幸のギターの魔力の虜になっていた隊長は、ダイブをして一心不乱に音楽を聴いていた。


 ダイブとは音楽フェスやライブで興奮した観客が、他の人の頭上を転がり通過したり、ライブ会場にいる人をめがけてジャンプしたりする行為のことで、隊長は2000人の観客の波の上を縦横無尽に飛んでいるのであった。

…………。


……。


 警備兵は全員陥落し、もうこのゲリラライブが止まることはないので、【ケイケス・サオールズの町民会議】は完全に中止となってしまった。

 その主であったケイケスは、キヨラという女王様がヴァイオリンに夢中で、相手にしてもらえないので、ステージ上をパンツ1丁で徘徊しながら考えていた。


 前領主が去り、ついに領主の座に座れたケイケス。

もちろん当初はより良い町にし、町民に認められる素晴らしい領主になりたかったのだ。


 それが、人々の関心はみんなワタークのことばかり。

その結果、もともと性根がひねくれていたケイケスは、どんどん町民を苦しめて従わせる、良くない政治を行ってしまった。


 この美しい海の町を、サオールズ家としてたった一人で統治することに固執していたケイケス。

 自分の力で町を良くする。それがこの町の為になると。


 この町の名はザンスター・サオールズ。

ザンスター家とサオールズ家の名を冠したもの。


【町中に慕われているワターク・ザンスターと、共に政事を行う未来もあったのではないか。】


 幸達の音楽を聴きながら、ケイケスはそんな風に思っていた。


…………。


……。


 そして楽しかった時間ももう終わる。

幸はフーガスカを見た。フーガスカはニコッと笑い終幕に向かうリズムを叩いた。

それに全員が乗っかりザンスター・サオールズでの最後の一曲が終わった。


                 ”~♪”


      「「「「「「うおぉー!!凄かったぁぁぁああ!!!」」」」」


 割れんばかりの大歓声と拍手が鳴りやむこと無く響いていた。


…………。


……。


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