第39話「本番②」

**************************************


…………。


……。


              「Am G F E♪ Am G F E♪ 」


 短調のコード進行から成る、エキゾチックなリフを幸が紡ぎ出す。

リフは最後の1音だけ締まりの良いC(日本語でドの音)になるか、次の展開に繋がるA(日本語でラの音)になるかだけの違いの、キャッチ―で、リフレイン(同じ旋律を繰り返す事)し続ける事が出来る旋律。


「なんだこれ……、なんかドキドキする!」

「気持ちよくなってきたー!!」

「あぁあああん!あぁん!!」

ステージを見ている観客は幸の奏でる音楽に酔いしれて行く。


「幸頑張れー!!」

ワターク達も観客に混ざり応援している。


 異物を排除と思って上がろうとして来た警備兵何人かは、まるで電流が走ったかの様に、シビシビと目をハートにして倒れている。

 幸のギターの魔力には誰もが無力になるのだ。

 しかし、まだまだ、音量が足りない。

ステージ前の兵達が倒れ込むのを見て、客席後方の警備兵達も、次の動きとして、前線へ向かう準備をしていた。


…………。


……。


「幸が来た!!

 ほらギター弾いてる!!」

兵隊達の困惑を他所に、目をハートにしながらも”えっへん”と自分の大切な幸の演奏を誇らしげにするピーネ。


「凄い!!

 町の人々が、ちゃんと受け入れてる。

 ほら!!心地良さそうに聞き惚れている!」

チャーコが信じられないというような顔で言う。


「幸君がステージに立ったんだから、次は私達の番でしょ!」

鍵盤ハーモニカの女が鼓舞する。


「凄い……。

 本当に観客皆を虜にしてギターを弾いている……。」

スネアの男も青ざめた顔で目の前の光景に驚き慄く。


 ピーネと楽奴のゴミ処理場組は、幸が演奏を始めたら速やかにステージに向かう事がミッションだ。


「よーし!!

 俺も行くぞ!!」

ピーネが羽を広げた。


 ピーネを先頭に楽奴達も、ゴミ処理場からステージへ向かう。


…………。


……。


「うちはー?

 こっからどうしたらええのー?」


 幸をステージにあげる作戦の一番の欠点があった。

 フーガスカが海に取り残され、ステージに上がれないのだ。

 しかし、それに今誰も気づいてなかった。

 フーガスカの声は悲しくも波の飲み込まれ誰にも気づかれることはない。


…………。


……。


「なっ……、なんだこの音は……。

 これが音楽……。気持ちいい。」

ケイケスはステージ上という幸の音楽が一番聞こえる特等席で酔いしれる。


             ”シタァン!!”


 女王様がキツイ一撃をケイケスの尻に向けてしならせた。


「あっはぁ!!

 こっこれも気持ちいいぃ!!」

音と痛みの快感に悶絶している豚。


「あっはぁ!!私にも同じものを!!」

ミミックも便乗する。


 幸は一目みて分かった。

女王様に目配せをする。


 女王様は蝶の仮面越しにウィンクをした。

やっぱりキヨラだ。幸は安堵する。

 

 一番の心の突っかかえが無くなった今、幸は無敵だ。

 同じリフの繰り返し、複雑に音が組み合わさるわけでもないメロディー。

 しかし、それを単調と思わせない説得力でギターを掻き鳴らし続ける。

 メロディーを繰り返し、皆が来るのを待っている。

 2000人の観客。

ここの全ての人に音楽を届けるには絶対にが不可欠だ。


                  ”♪~”


 一目散に走って来たピーネのハープが、最初に幸のメロディーに追従する。

そこからは走って来た楽奴達が順番に音を重ねていく。


 ピーネが加わったことで、幸のギターの魔力の力、【協奏】が発揮され、さらに遠くへ音が響いていく。


 そこからもどんどん音は重なる。

足の速さでと楽器の小ささで、男達のフルートとピッコロが次に主旋律に加わって行く。3度のハモリとオクターブのリフ。

 次いで鍵盤ハーモニカの女性と、チャーコが加わって音に厚みを加えていく。

そして一番重い楽器のウッドベースが位置取り、下支えを加えた。

 楽器が増えるのに呼応して、効果は増大していく。


 ただ、全員が自分の役目を全うするのに必死で、フーガスカがステージに上がれていない事に気が回らない。

 回ったところで、フーガスカを海からステージへ引き上げる方法は抜け落ち、用意していなかったのだが。


 そして1番の問題は、スネアの男であった。

 小さな太鼓”スネア”の単体の楽器なので、そこまで重くなく、チャーコ達よりも早くステージに到着し、太鼓を打てる準備は完了していた。


 しかし、肝心の1打目が打てない。


 緊張だった。


 2000人の前で演奏すると言う事は相当の精神力や場慣れが無ければならない。

 スネアの男にはそれが無かった。

更に、リハーサルではフーガスカのリズムインから、どんどん展開してくはずだった。

 だがフーガスカはまだ海に居る。


 緊張する男にアドリブが効く訳が無い。


 青ざめながら白目を剥く男。

 本来ならステージの最奥を位置取り、フーガスカの代わりに、全員にリズムを届けなければならない。

 予想外にもフーガスカは居ないならば、リズムの根底を自分が支えるしかないのだ。


 ついに、男は白目を剥きながらも、意を決してそのスネアを叩き出す。


            ”トタン……、トタン……。”


 ”ギョッ!?”とした顔で、幸は振り返る。


 力のない打撃音。

 緊張で周りの音が全く聴こえていない。

全然リズムが合っていない。


 7人の美しかった旋律がポロポロと崩れいていく。

すると幸の魔力にかかっていた人々の顔がどんどん曇って行く。


「なんかキモくね?」

「やっぱり音楽って……。」

口々に愚痴りだす。

                 ◇◇◇


 幸のギターの魔力【協奏】の欠点がここで明るみになった。

 演者が増えて行くと能力は強大になって行くが、全員の心を一つに、ハーモニーを合わせて演奏しないと、効果が発揮されないのだ。


                 ◇◇◇


「総員ステージの賊共を排除せよ!」

隊長が兵士達に叫ぶ。


 客席後方から、中道を通り100人の兵士達もステージへ向かって来た。


「誰かー。

 うちを助けて―!」

フーガスカは海の中から懸命に呼ぶが届かない。


 不安だったキヨラの登場。

そしてステージに幸が無事に着地してからの演奏。

 これから、楽しい楽しいライブの時間と言う所での問題発生。


 フーガスカがステージに上がれない。


 ザンスター・サオールズのゲリラライブ。

一転して窮地に立たされた面々。

果たしてどうなってしまうのか。


…………。


……。


**************************************

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る