第38話「本番①」

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……。


…………。


――そして話は今現在。町民会議本番に戻る――


「これより町民会議を始める!!」


 ケイケスの宣言はで返答された。

人々は目の前の光景に茫然と立ち尽くしかないからだ。


                 "シタァン!"


 しかし、キヨラが地面に叩き付けた強烈な鞭の破裂音により、人々は我にかえる。

 そうなるとカオスだった。


「なんでそんな恰好してるの!?」

「今月の町民会議どうなるんだ!?」

「えっ!?キモい……。」

「何でケイケスがあんな格好で恥ずかしげもなくしている……?」

「女王様美しい……。」

「なんか良く分からんがやれやれー!!」


 人々は様々に"ザワザワ"とざわつく。

限りなくLOWな気分で渋々集まった町民会議だが、目の前に繰り広げられてるその全ては、そこにいる全ての人の想像の斜め上だったからだ。


「女王様ぁ!!

 早く私めに鞭を!!」

ケイケスも"ソワソワ"とご褒美を待ち侘びている。


 この謎の状況を眼前に据えられ、1番困惑していたのは200人の警備兵だった。


「……状況は把握しかねるが、ケイケス様が町民会議と宣言した以上、ステージ上の事が滞りなく行われる様にするだけだ!」

警備兵の隊長らしき男が鼓舞する。


 その男が握る拳は光っていた。

口に当てているその手はどうやら魔法で光っているらしく、トランシーバーの様にステージ前と、客席後ろにいる兵士達にも伝わっているらしかった。


「ステージ上にケイケス様、そしてボンテージの女、が侵入して来たら、即排除だ。」

隊長が全兵士に告ぐ。


              「「ラジャー!」」


 警備体制は盤石のまま、厳戒態勢に入った。


…………。


……。


「あれ……、キヨラさんだよね……?」

この町の楽奴の中で、1番キヨラと交流が深かったチャーコが目を擦りながら言う。


「キヨラがあんな変な格好するかぁ?

 でも髪は青いぞ……?」

ピーネの感想。


 ゴミ処理場組は、ステージ場が謎の状況であっても、兵隊が200人態勢で厳戒態勢で警備している以上、ステージに上がる事は出来ない。

 何より、幸がギターを弾きださなければ、幸のギターの魔力の恩恵は受けられない。


 そうなると真打ちの登場を待つほかなかった。


…………。


……。


「なぁー。

 なんかまた出て来たでー。

 めっちゃエッチな格好してる女の子ー。」

フーガスカは見たままを答える。


「えっ!?

 エッチな格好!?」

幸は、身体が抜け落ちそうなほど乗り出して見るが、良く見えない。


「髪青いしー、あれキヨラちゃうー?

 なんか兵隊さんもまごついてるしー。

 今行くしかないんちゃうー?」

見たままを更に答える人魚。


「青い髪!!

 きっとキヨラだ!!

 行こうフーガスカ!!」


「わかったー。」


 フーガスカは、宝箱を頭に乗せたまま、鰭を器用に動かして、どんどんステージに近づいて行く。

 警備兵も、町民も目の前の異質な光景に気を取られ、海から人魚が近づいて来る事など、気付くはずもなかった。


「着いたー。

  ステージの真下やー。」

フーガスカは言う。


「一発勝負だからね……。

 フーガスカ、ミミック、行けるね?」


「えーよー。」 「任されましたぁ!」


「よし!!フーガスカよろしく!!」


 幸の声が合図になり、フーガスカは、サッカーのスローイングの様にミミックをステージまで放り投げた。


…。


……。


………。


…………☆


………。


……。


…。


 ミミックは放物線を描き、守備良くステージのへりに着地。

その際ミミックのホーバリングにより、中への衝撃は殆どなかった。


「おい!今度は後ろになんか宝箱見たいなのが出て来たぞ!」

「三角木馬にしては、角度の攻めが甘いぞ!」

聴衆が口々に言う。


               ”ざざっ”


 聴衆の言葉と同じ瞬発力で警備兵達が厳重警戒に入り、急に投げ入れられた宝箱へ向かい走り出した。


               ”パカッ”


 打ち合わせ通り、ステージへ着地したミミックは大きく口を開けた。

開いた口から出てきた幸は、既にギターを構えて準備万端で、2000人ほどの観客と対峙する。


 心臓は”バクバク”と高鳴る。

それはどんなライブもでも変わらない。


 ライブとは、自分の心を、音を、誰かに伝えることなんだ。

それはつま先から頭のてっぺんまで全部の力で、心臓の奥底から手に触れた全部へ、自分をさらけ出すこと。

ライブは自分の全部を、あなたの心へ届ける為の挑戦だ。


 これはbirdsの大鳥に教わった言葉。

幸の大事な所にしまってある、大切な言葉だ。


 常にそれを意識して幸はステージに立っている。

10人の前でも100人の前でも2000人の前でもそれは変わらない。


 奏でる事は命を削ること。

それだけの想いで誰かに音楽を届けると言う事。

 それさえ分かっていれば、問題なんて何もない。


「うしし。

 さぁ、俺の音楽聞いてくれよ。」

幸はギターを爪弾き始める。


                ”♪~~~”


…………。


……。

 

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