第30話「幸の気持ちとフーガスカとミミック」

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 やっとだ!

長かったダンジョン攻略がついに終わった!


 なんだか思ってた踏破の感じとは違っちゃったけどさ。


 とにかくこれで……、ダンジョンの攻略と、町民会議へのゲリラライブ!

このザンスターサオールズでのすべきことの1つが終わったんだ!


 でもダンジョン攻略の見返りはと言うと……。

どうしたらいいか分からない謎のマジックアイテムと、これもどうすべきか分からないダンジョンコア……。

 そしてどうしたら喜ぶかしか分からないミミックの三つだけだよ。

まぁミミックはちょっと考えてるあるんだけどさ。

 ダンジョンコアはさ、流石に壊せないよ。ユラーハの家が無くなっちゃうもん。

俺は、ワタークとユラーハうまくやって行けると思うんだけどなぁ。

 精霊と人間だっていいじゃないか。お互い好き同士なら。

2人がくっついたらユラーハの塔は要らなくなるんだよね?


 そうなればいいなぁ……。

とにかくサーカス団になるための馬車は、まだ手に入れられないね。


 そして、やっぱりキヨラの事が心配だ。

キヨラは、今の領主ケイケスに掴まってそいつの屋敷の中にいるらしい。

 今俺達はと判断してるんだ。

なんでかって言うと、が助けてって言う合図を送って来ないからだ。


 もし命が危ない事になっていたら、助けてや逃げての信号が送られる。 

そしてそう言う心配が無く安全に逃げれる場合は、ある場所に行くはずなんだ。

実はキヨラにはシーガーディアンの塔の一階のダンジョンコアを持たせてあるんだ。

 だから、もしケイケスから逃げれるなら、コカビエルのとこにダンジョンコアで行って助けての合図を送って来る。コカビエルにはきつくキヨラにも優しくって言ってあるしね。

 

 でもキヨラからそれが無いんだ。

だったら考えられることは一つだけだ。


 ベースキャンプでの作戦会議で、キヨラが言っていた1つの計画。

に挙がって、そのままステージに立つと言う方法。

 キヨラは今それをするために頑張ってる可能性が高い……。

だから無理やり助けに行ったりは出来ないんだよなぁ……。

 無事でいてくれてると思うんだけど、やっぱり心配だ。


 うだうだ言ってても仕方がない。

俺達は俺達で、やるべき事をやるだけだ!【成すため】のね。


 だから残すはゲリラライブだ。

それを絶対に成功させる!。

 まぁまだ確実な登場のプランは出来てないんだけどさ。

いや、出来てなかったって言うべきかな。


 実は一つ思い付いちゃった事があって、今海岸に来てるんだ……。


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【ゲリラライブまであと3日】


…………。


……。


                 "ザザーン"


  海は何もかも赦すようにおおらかに揺蕩う。

クラウディアの海はいつもと変わらずそこにあった。


「あぁっはぁー!

 幸さん、ここに来たら沢山叩いてくれるというのは本当ですか!?」

穏やかな海を望んでも変わらない変態が言う。


「あぁ!

 ここに来たら沢山叩いてもらえるよ!

 もうちょっと波の際まで行こう。」

幸はニコニコしながら言った。


「わっかりましたー!!

 ご褒美よろしくお願いしますー!!」


 ミミックは宝箱の形をしている。

だからと言って動けず、ピーネがここまで運んで来たわけではない。

 この変態は、魔法生物である。


 クラウディアの海岸のキラキラと光る白い細やかな砂に停止している、ミミックの足?に目を向けてみる。

 箱の底は地に着いていない。

 ミミックを中心にサラサラの砂が放射状に一定の際まで流れて行く。

そして重なった砂が内側に流れ落ちるのと均衡し、グラグラと揺れている。

 ようはミミックはホバーリングしている状態なのである。


 ミミックは自重を少し前に傾け前進して波の際に到達した。


「フーガスカァ―!!」

幸は海に向かって大きく叫んだ。


 しばらくすると、健康的な瑞々しい肌の、黄色い髪の人魚が海の底から顔を出した。


「あー。

 幸やー。

 どうしたんー?

 また演奏一緒にしてくれんのー?」

ゆったりとしたペースで喋る女の子だ。


「うん!

 演奏、一緒にしよう!

 今日はプレゼントがあるんだ。」

幸はニコニコして言う。


「……幸がうちにプレゼントー?」

フーガスカの顔が紅潮する。


「これだよ!」

幸はミミックの頭をパンパンと叩いた。


            「……えーっ。」⤵「あぁーっ!!⤴


フーガスカは凄く残念そうに、ミミックは叩かれて幸福そうに相反する感情を声に出す。


「こんなけったいな気持ち悪い奴いらんでー。」

辛辣な言葉。


「まぁ見ててよ。

 ミミック口は開けててね。」

幸はミミックの頭に馬乗りになり、大きく股を開いた。


             ”ボンボボン””ボンボン ボボン”


 幸がリズミカルにミミックの腹を叩いた音は、箱の中で共鳴し深い重みのある低音が、ミミックの口から発せられた。

その音がフーガスカの胸に響き、”ゾクゾク”と背中を伝った。


「なんなんこれー!!

 めちゃくちゃ気持ちいぃー!!」

今度は叩かれて”あっはぁー!!”となっているミミックと同じベクトルの感情叫ぶ。


「このミミックはねって言う打楽器とかなり近い音を出せるんだよ。

 しかもね、ミミックは身体の中が異次元的に広いし、何より口がおっきくて自由に動くから、複雑な音色がいっぱい鳴るんだよね。」

ピーネみたく”えっへん”と幸が言う。


「ええやんー!

 うちにも叩かして!」

フーガスカは興奮を隠せない。


 フーガスカは砂浜を匍匐ほふく前進しながらミミックによじ登った。

ドキドキと胸が打つのを感じながら、ミミックの腹にめがけて打つ。


                ”ボンボン””ボンボン””あっは♡”


 口から深い低音と少し不快なミミックの喘ぎ声が出た。


 フーガスカの肩が小刻みに震えている。


「これやー!!

 うちが求めてた音はー!!」

フーガスカが万歳しながら叫ぶ。


 その腕をそのまま振り下ろして歓喜の感情をミミックにぶつける。


   ”ドン ッタ ドン ッタ ドン ッタ ドン ッタ ドン ッタ ドン ッタ”


 フーガスカは打楽器の才能をいきなり開花させる。

ミミックの腹部を叩けば深い低い音が、頭のアーチ状の角の部分を叩けば硬く高い音が鳴る。

 それを直感的に理解し、サンバのビートを奏でる。


「ミミックあんた最高やー。

 ほら幸ー!

 入って来てー!」

幸せとわんばかりの笑顔で幸を見る。


「いいリズムだ!

 よし一緒に演奏しよう!

 ほらピーネも!!」


 幸とピーネは各々の楽器を持ってフーガスカが作るビートの波に乗って行く。


 フーガスカは一心不乱にグルーブを生み出す。

ミミックは叩かれる快楽の感情を吐息として吐き出す。

 2人の感情が混じった音は、さながらリオのカーニバルの様な真夏のラテンの陽気な空気を作り出す。

 そのリズムに幸とピーネは好き勝手に旋律を乗せていく。

2人はコードのルールには則りながらも、お互いがお互いを気にしない身勝手な旋律。でも不思議と汚くない。

 それはまるで新大陸に宝石のような未来が待っていると疑わないシンドバッドのようだ。

 インド洋を航海する行商人には航路はいくつもある。

しかし、目指すものは一つ。長い長い旅。


 音楽と言う秘宝を4人で紡ぐ永遠の時間……。


…………。


……。


                 「「「今何時?」」」


 青かった空は気付けば夕暮れの色をして、海の青からの夕暮れの空のグラデーションが幸達を包んでいた。


「夢中になって演奏してたね。

 気づいたらもうこんなに陽が暮れたよ。」

幸がギターの弦を”キュッ”鳴らしながら言う。


「楽しい時間はあっという間やなー。

 ほんまに楽しかったわー。」

大満足のフーガスカ。


「また沢山叩いてくださいー!」

逝き死にしそうなミミック。


「また?

 あんたはこれからうちと練習するんやで。

 口の開け方色々試さんとやからなー。

 幸ー。ゲリラライブまでに完璧にしとくから楽しみにしときー。」

フーガスカはまだまだ叩き足りない。


「あっはぁー♡♡♡」


 ゲリラライブ当日はもうそこまで迫っていた。


…………。


……。


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